第20話

倒せると判断した為に〈空間転移・中〉を使用したけど、何とか機能したらしい。

その代わり、俺のスマホの電力は残り50%を切ってしまったが、このまま何もせずにダンジョンに潜っていれば数時間でマックスになる。

まあ、其処まで生きている保障は無いし、出口を見つけたらすぐにでも出ていくけど。


「うわぁ~もう、すっごいねぇ~ドカーン、バギャーンって!爆風凄すぎっ!」


イアネルは無邪気にそう燥いでいた。

ふと彼女の顔を見てみると、爆風によって髪の毛が乱れていた。

俺は彼女に近づいて、その髪の毛に手を添える。


「きゃっ……あ、も~な~にぃ~?」


俺の手で彼女の髪を撫ぜて、髪を元に戻していく。

イアネルは少し恥ずかしそうな表情を浮かべていたけど、案外悪い気はしなかった様子で俺の手を受け入れてくれる。


「えへへ~、そんなにネルの事、触りたかったの~?」


「ん?うん。まあ、そうかな」


適当に流す事にした。「もぅ、しょうがないなぁ~」と嬉しそうにしている。

髪を元に戻して、俺は周囲を見渡した。どうやらモンスターは出てきて無いらしい。


「一応」


俺は召喚獣に命令をして周囲を警戒する様にした。

中位魔法導師を前列に、俺、イアネル、爆弾ゴブリンの順番に配置する。


「んふふ~」


イアネルは浮きながら、俺の首に手を回して頬ずりをしていた。

浮遊しているので、俺の歩幅に合わせて移動してくれるから、彼女の事を邪魔くさいとは思わなかった。精々、首に風船が付いて移動しているな、程度にしか思わない。


「出口を探さないと……」


それに……クインシーも。……いや、クインシーは大丈夫か。

彼女、なんでも切り裂けるチェンソー持ってるし。

俺は黒い肉の様なダンジョンの通路を歩き出す。


「ん~?匂いがするなぁ……いや~な、血液のにおい」


と、イアネルがそう言っていた。

血液……と言う事は、人が居るのか?


「真っ直ぐ進んだら、人が居る?」


「ん~……匂いは人の血だよ?けどなぁ~、結構、血を流してる感じ~?」


………成程、しかし、こんなヤバイダンジョンに人が入ったりするのか。

いや、もしかしたら、ダンジョンの出口を知ってるかも知れない。

俺はそう考えて通路を突き進む、しかし、俺がこのダンジョンに入った瞬間に危険度Sのダンジョンに変貌したのだ。出口が一つだけだとすれば……その人はダンジョンが変貌する前に来たのかも知れない。

望み薄だと思った時だった。壁に横たわる、血を流し過ぎた人の姿があった。


「……死んでる?」


小さく声を漏らす、しかし、その声に反応したのか、壁に縋っている人は口を開いた。


「……ギリ。生きてる」


その声色は枯れ果てていた。掠れていて、喉が潰れ掛けている、風の音かなと思う程に。

二十代程だろうか、その両手には、双剣が握られていた。

赤色と青色の小さな剣。弱り切った彼は、けれどその武器だけは強く握り締めている。


「………僥倖だ。まさか、生きてる人間に逢える、とはな」


「何があったんですか?」


俺はその人に尋ねてみた。

男の人は咳き込みながら胸ポケットからスマホを取り出す。


「〈回復薬〉……まだ、小があった筈、だ。俺の指、使って、押してくれ……」


回復薬、それも小器?回復はするだろうが、その傷は全快する事は無いだろう。

しかし俺は彼の言う通りに、指を使って、スマホを操作する。

だが………スマホは動かない。起動はしているが、彼の指を使っても、動く事は無かった。


「あの、すいません、動かせないです……」


「……そうか、なら、ここまでだな」


その人は達観していた。仕方が無いと、自らの死を受け入れようとしている。


「え、なに兄に、この人たすけようとしてるの?」


と、俺の傍に居たイアネルがそう言った。


「え、うん……情報、聞こうと思って」


けど、俺も回復薬を持ってないから、彼を助ける事は出来ない。

イアネルはそっか、と頷いて、浮遊しながら彼に近づいて、手を伸ばす。

彼女の小さな手が鋭利に尖った。いや、彼女の爪が急激に伸びたのだ。


「〈潮流血騒エナジー・ドーピング〉!」


「あがっ」


ぶすり、と。

彼の頭頂部に向けて五指を突き刺した。

見た目は間抜けだが、その突き刺しによって、彼に血液と肉体強化が施された。




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