第19話

「爆弾ゴブリンッ!」


俺は指をマネキン人形に向けた。

それに合わせて、爆弾ゴブリンの基本性能である〈爆弾投擲〉が行われる。


「中位魔法導師ッ」


叫び、俺の前に中位魔法導師を配属。

爆弾ゴブリンによる導火線に火が付いた爆弾が投擲される。

距離五メートル。爆破による爆風は体に当たっても爆撃を喰らう事は無い。

マネキン人形に当たる寸前、複数の声を一つに重ねた様な歪な声が響き出す。


「〈秒針は短針よりも遅くエラー・タイム・レコード〉」


その声によって、マネキン人形が歩いてきた。

歩いている、のに、その速度はまるで、走っている様に早い。

あれだ、再生している動画を早送りしている様な感じだ。


エラー・タイム……つまりは、時間?このマネキン人形は時間を操る能力を持つ?

周囲の時間をどうこうするんじゃなくて、自分自身の時間を確立して動く事が出来る能力?

だから俺が走っても簡単に追いつく事が出来たのか。

………自分自身を加速させる能力と断定して。


「中位魔法導師〈風の切断〉……放てるだけ放て」


中位魔法導師に命令を下す。

水晶が緑色に光り出すと、其処から風の刃が噴出された。

そして俺は爆弾ゴブリンに命令を送る。


「爆弾ゴブリン、ありったけの爆弾を人形の奥に投げろ」


そう命令を下して、その命令を遵守して爆弾ゴブリンが爆弾を投げる。

マネキン人形の速度は自動車並みだが、決して目で捉えられない程ではない。

大量に投げた爆弾よりも、最初に投げた爆弾が起爆した。

それに伴い、まだ起爆状態前だった爆弾が多数爆破する。

俺はアビリティを扱う状態に入る。〈空間転移・中〉だ。

此方に迫り来るマネキン人形。前方に〈風の切断〉。

後方に〈爆弾〉で挟まれた状態だ。だが自分自身の時間を早めると言う事は。

通常に流れる時間は、そのマネキン人形にとっては遅く感じるだろう。

当然ながら、放たれた風の切断の隙間を通って此方へと向かって来る。

そして俺はふと気が付いた、自分が集中している為か、マネキン人形の動きがスローに見える。

いや、これは彼女、イアネルの能力のお陰だろう。

俺の動体視力や思考の速度が極端に早くなっている。

マネキン人形には劣るが、それでも目で追う事が出来る。

これならば、成功する確率は大きくなる。


「〈空間転移〉」


そして俺は、空間転移を使った。

全ての風の切断を潜り抜けて近づいてくる、マネキン人形に向けて。

〈空間転移〉は指定した空間を移動する事が出来る。

そしてその対象は何も俺じゃない。複数人でも行けるし、自分以外を選択しても良い。

だから俺は、マネキン人形を今、爆破している最中の爆撃地に転移させてやった。

当然ながら、ありったけの爆弾を投げ込んだ爆心地。その周囲にも莫大な爆風が起こるだろう。だから俺は〈風の切断〉を放てるだけ放った。

その爆風を切り裂き、威力を軽減させようと考えたのだ。そして、爆風が俺たちの元へ迫って来る。〈風の切断〉で爆風を裂いてもなお、体がひっくり返る程の勢いが迫って来た。


「ぐ、うぅぅ!」


地面に横たわり、必死になってしがみ付く。

そして宙に浮いていたイアネルも、俺の傍に来て伏せる俺の下に潜ろうとしていた。

とにかく、爆風に巻き込まれない様に必死だった。

爆風が止みだした時、俺は顔を挙げて目を細める。

土埃が溢れる場所で、其処に見えたのは黒焦げになったマネキン人形の様なオブジェだけだ。

流石に、あれ程の爆破を受け切れる筈が無い。しかし、未だに動こうとする様を見るに、このマネキン人形の耐久は余程高いらしい。


「………けど、終わりだ」


俺は中位魔法導師に〈風の切断〉を命令した。

狙うは首筋、そこだけが、マネキンの装甲部位ではなく、間接球体だ。

球体を狙った一撃は鋭利な風の刃が隙間に食い込んで、簡単に首が捥げた。

すると、マネキン人形は行動を止めて、サラサラと崩れていく。

あぁ、これで終わり、俺は息を吐いて地面に座る。

初戦、辛勝と言った所か。

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