第18話
其処に居たのはマネキン人形だった。
両足からは違うマネキンの腕が四つ生えている。
両肩から先は機械のチューブと、鋭利な刃で形成されていた。
首から上は人間としての輪郭が残る頭部に、その後頭部には時計の様なガラクタが乗っかっている。
一目見た感想は廃材アートだった。何か感受性に訴えようとしているのだが、こちら側はまるっきり何も感じてこない、そんな個性的過ぎる芸術作品を目の当たりにしているみたいだった。
正直に言えば、強そうに見えない。
危険だとすれば、腕に接着された鋭利な刃物の方だろう。
「………良し」
俺は踵を返す、イアネルの萌え袖を掴んで思い切り地面を蹴った。
如何に弱そうに見えても、刃物があるだけでこちらとしては萎縮してしまう。
と言うか怖い。あれを相手にして勝てるイメージが思い浮かばない。
よくもまあ、身体能力が強化されただけで強きになれたモノだ、俺は。
最初に全速力で逃げなかった自分を思い切り殴り飛ばしてやりたかった。
「〈
ふと背後から、マネキン人形が呟いた。
直後、俺の背後に衝突する一撃、それは斬撃だった。
ありえないが、もし飛ぶ斬撃と言うのがあるのならば、今俺が受けたコレなのだろう。
俺は斬られて、そのまま吹き飛ばされて、黒い肉の様な壁に衝突する。
「ぐ、はッ!」
痛い。背中を斬られた痛みと、壁に叩きつけられた痛み、その二つが体中を駆け巡った。
あぁ、本当に痛い、このまま悶えて地面を転がりたい……けどそれじゃダメだ。
此処はダンジョンだ。無駄な行動一つで死に繋がる。決して、生きる為の思考以外に割いてはならない。
だから俺は痛みを我慢する、涙で前が見えないが、歯を食い縛って呼吸を整える。
何処かの武術では、攻撃を喰らっても呼吸によって痛みを緩和させる事が出来ると聞いた。
だから俺もそれを試してみる。多少、痛みが緩和、されたと思いたい。
それよりも、だ。
俺は相手の様子を伺う。あのマネキン人形は俺の強化された身体能力に付いてこれた。
と言う事は、マネキン人形の素の身体能力は強化された俺の速度と同じか、それとも俺と同じように強化をしたのか。
そして、それ以外に何か能力を使ったのか。
今あげる事が出来るとすればそれだけだ。どちらにせよ、俺の強化された速度に追いつかれたと言う事は逃げる事は容易ではないと言う事。
ならば、俺がする選択はかなり絞られる。
まず、逃げると言う選択肢は潰された。
少なくとも相手の能力のタネが分かるまで、逃げると言う選択肢は使えない。
そして第二に、〈空間転移〉を使用しての逃走。
幸いにも此処はダンジョンの中、消耗電力が30%でも、まだ余裕はあるし、ダンジョンで逃げ回る間に充電出来る。
試しに使ってみるのも良いだろう。だがしかし〈空間転移〉に何かしらのデメリットがある場合もある。例えば一度使えば再連続で使えないとか、〈空間転移〉が出来るのは自身が知っている道のみ、とか。
一度試しで使わなかった事がこうも裏目に出るとは……。
本当に〈空間転移〉を使うのは最後の手段。命からがら、と言う状況下になるまで、温存するべきだ。
なら、俺が行う選択は、逃げる、じゃない。
「行くぞ……〈爆弾ゴブリン〉〈中位魔法導師〉」
俺がやるべきは、戦い、相手の情報を知る事。
そして注意すべきは相手の戦闘力だけじゃない。
他のモンスターが呼び出されてしまえば、その時点で俺は対処不可能。
その場合は仕方が無い〈空間転移〉を使う他ない。
だから、この戦いは時間との勝負でもあった。
「………良し、行くぞッ!」
そうして俺は、ダンジョンに召喚した二体の召喚獣と、イアネルと共にマネキン人形型モンスターと対峙する。
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