第10話

クインシーはメイド姿のまま俺の傍に居る。

基本的な恰好はそれで通すらしい。

今日も一日ダンジョンを攻略して、安全地帯である〈楽園の箱庭〉へ戻ろうとした時だった。


「……ん?」


ふと、スマホが振動していた。この三日間。スマホが振動する事など無かったのに。

ポケットにいれていたスマホを取り出すと同時に、その男の顔が現れた。


『よおお前ら、調子どうだー?俺の作った世界でエンジョイしてっか?』


軽薄な声が響き出す。

あぁ、この世界をこんなめちゃくちゃにしてしまった元凶が悪びれもせずに顔を出していた。

相変わらずの衣装で、老人の皮を剥いで被った覆面姿、その下はサラリーマン風のスーツだ。

風呂に入っているのだろうか。三日前見た時とまったく同じ格好だ。

不清潔だと思いながら俺はその動画配信を確認する。


『えーっと。基本的に俺はこうして語り掛ける様な真似はしないんだけど、一つ言う為に来たわ。……お前らさぁ、ダンジョン入って無さすぎじゃねぇ!?』


大声を荒げると共に画面が揺れる。

どうやらこの映像は片手で操作出来る機械で配信している様子だった。

と言う事は、この覆面男もスマホとか持っているのだろうか。


『折角必死こいて前の神様のマニュアル解読してやったのによー、なんの為にスマホと命を連動させてると思ってんだよ。ダンジョン入って充電しろよなー』


グチグチと覆面男は言う。


『けど、まあ。ガチャの中には充電出来るアイテムとかあるからよぉ、ダンジョンんに入らないのも仕方が無い話だ。……と言うわけで、俺こと神は、新しいシステムを導入させてもらう』


ぶぶ、とスマホが振動する。

同時にホームボタンが浮き出た為に、俺は操作される様にボタンを押してホーム画面に戻る。


すると、ダンジョン検索アプリの隣に、新たな『クエストボード』と言うアプリがインストールされていた。


『はい、と言うワケでよ。今から日本全土を対象にしたクエストが受注可能になったわ。現実世界の方に居るモンスターが雑魚だから安心って考えてる奴に、ダンジョンの方がマシだと思わせるモンを追加してやったぜっ!』


言われて、俺は内容を確認する。

その内容は言葉にならない恐怖を感じた。


『クエストボード・現在七件の未達成が存在します』


『〈剣の王〉バルゼ』

『レアリティ・虹色』

『危険度・A』

『報酬・上位職業〈剣の王〉・虹色確定ガチャチケット』


『〈屍を統べる支配者〉フェル・テ・ト』

『レアリティ・虹色』

『危険度・A』

『報酬・上位職業〈不死者〉・虹色確定ガチャチケット』


『〈毒霧の森〉ピオルドゥン』

『レアリティ・金色』

『危険度・C』

『報酬・アビリティ『毒性無効』・虹色確定ガチャチケット』


『〈人轢戦車〉ブルダーン』

『レアリティ・金色』

『危険度・B』

『報酬・武装甲〈圧轢騎乗車〉・虹色確定ガチャチケット』


『〈星の狩人〉メルシア』

『レアリティ・虹色』

『危険度・C』

『報酬・武装甲〈星司る狼シリウス〉・虹色確定ガチャチケット』


画像付きのそれは、危険度と、レアリティ、そして、報酬が記載されていた。

そして、その報酬の全てに、虹色確定ガチャチケットが記載されている。


『これがダンジョン外に配置されてるからよ、ダンジョンに入らないとコイツらに殺されちまうぜ?あぁ、一応はクエストっつう項目だから、討伐すりゃそれ相応のレアアイテムが手に入る。……まあ、手に入れるとしても、バカ強い装備をしてなきゃ勝てないから、結局ダンジョン制覇して相応のアイテムを手に入れねーとなんねぇな』


………つまり覆面男は、ダンジョンに入らない人間に対する罰として、比較的安全地帯である現実世界を、全地帯対象にした戦場にしてしまった、と言う事らしい。


『つぅワケだ。俺こと神様からのアップデート情報、そんじゃお前ら、良いファンタジーライフをッ!』


そう言って、覆面男が切ろうとした時だった。


『……あ?んだようるせぇな。誰だテメェ』


そう覆面男が耳を抑えて言った。

そして指を動かして何やら操作をすると、俺のスマホの画面内に、スワイプが出てくる。

そして、其処に映し出されたのは………誰だ、このおじさん?


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