第7話
〈
生き残りの生徒が、灰色の毛並みをした狼に襲われていたのだ。
生徒の死骸を貪り口に血をべったりと付ける狼。
声を荒げて、まだ生き残りの生徒がナイフを振り回している。
恐らくそのナイフはガチャで得た代物なのだろうが、随分とお粗末なナイフだった。
そのナイフで獣を殺す事など到底出来る筈が無い。
「助けないと」
俺はそう呟いた。
それは俺が、この中で一番余裕を持っている。
俺がこの中で、一番力を持っている。つまり強いんだ。
だから自分が見るに堪えない惨状を変える事が出来る。
俺はこんな惨たらしい光景なんて見たくはないから、力を振るおうとするが。
「お待ち下さい旦那様。貴方様がお力を振るう程でもありません」
そう言ってクインシーが俺の行動を止めた。
なんだ、俺の代わりに戦ってくれるのか?そう思ったが、どうやら違ったらしい。
「さあ、あれらなど放って置いて、早くお義母様にご挨拶を……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は人を見捨てる事は出来ない」
「他人ですよ?救った所で何が残るのですか?感謝されるのですか?心が晴れるのですか?自己満足をして、それで、他に何があるのですか?弱者の為に旦那様が力を振るい、それが原因で傷ついてしまうなど、私は耐えられません。他人などどうでもいい。旦那様が何よりも優先すべき命なのですから」
………つまり。手を貸すつもりは無い。そう言いたいんだろう。
なら、いいさ。人を助けるのは俺のエゴだ、君がしないのなら俺がやるだけ。
契約者としての能力は、スマホを使わなくても〈無限の域〉から召喚獣を召喚する事が出来る。
俺はまず、大きな被害を出さない様に〈中位魔法導師〉を召喚しようとして、そして彼女に手を掴まれた。
「………今、何をしようとしましたか?」
ギリギリと、俺の手首の骨を粉砕しそうな強さで握り締める。
「ぐ、ぅ……け、契約者の能力で、召喚獣を召喚しようと……」
ヴヴヴと音が鳴る。チェーンソーの刃が回り出す。
「私が居るのに他の召喚獣を召喚するつもりなのですか?」
旦那様と慕う俺を斬り殺そうとしている。
情緒不安定にも程がある、この召喚獣は。
俺たちの問答に対して、外部からの干渉があった。
灰色の毛並みをしたモンスター、狼たちだ。
獲物と認識したらしく、俺たちを食い殺そうと複数の狼が接近する。
チェーンソーを握るクインシーは俺の方に顔を向けていながら、迫る狼を切断した。
ぶしゃぁ、と血飛沫が飛び散る。その血が俺にも掛かってしまった。
「さあ、旦那様、もう一度お聞きします。私以外の召喚獣をお使うつもりなのですか?」
俺の手を放す。チェーンソーがぐるぐる回っている。
耳の奥をひっかくエンジンの音が高らかに鳴り響いていく。
すぐにでも、首を横に振って使わないと言ってしまいたい。
「この中で、一番強いのは俺だ、……別に俺は、正義の味方になりたいワケじゃない。ただ、それでも。自分が誇れる人間になりたい。良い人間でありたいんだ、キミが見捨てると言うのならそれでも良い。俺は強いから、人を助けたいんだ」
言って後悔した。
そもそも俺が人を助けようと思ったのは俺が一番安全な位置に居るからだ。
召喚獣であるクインシーが居るから、俺は余裕でいられた。
しかし彼女を敵に回すような言葉を吐いて、自ら危険な道を選んでしまった。
「………あぁ」
クインシーがチェーンソーを振るう。
近くに居た狼の首や胴体が悉く切断されていく。
「素晴らしい答え……流石は私の旦那様………自分が誇れる人間になりたい……だなんて。この状況下で言えるなど、中々出来る事はありません。このクインシー。ますます旦那様に恋をしてしまいますっ」
……どうやら。俺の言葉を気に入ったらしい。
彼女は、俺の為に、未だ数十体も居る狼の群れと争う様子だった。
「それでは旦那様、どうか私の晴れ舞台を存分にご覧下さいな―――」
ヴヴヴ、と天すら割る程の甲高い機械音が鳴り響く。
その音は死神の鎌だ。聴くだけで肝が冷えて、今にでも魂が奪われてしまいそうだ。
「〈
それが、彼女の力の名前だった。
軍勢に対して孤軍。
しかし獣と切り裂き姫。
彼女は笑っていた。銀色の髪を赤くして、ダンスをする様に、狼の群れをリードして、回転して、切り刻んでいく。
狼は果敢に攻めた。クインシーを殺す為に牙を剥いた。
しかし、彼女の柔肌に届く前に鋼の刃が狼の牙を折った。
血みどろに塗れる彼女、恐ろしく、気味が悪いモノである筈なのに。
しかし彼女の姿は魅惑的で、赤色に染まる彼女はとてつも無く綺麗に思えてしまった。
ぶぶ、と音がなる。
それは、俺のスマホからだった。
内容を確認する、其処にはクインシーの能力が記載されていた。
『〈
『破壊A+ 速度B 耐久D 維持A 規模D』
『効果・対象に対する防御無視のダメージ。全種族に関する特性の無効化。全種族に対する特攻効果付加。』
『先祖代々処刑人としての役目を務めたキルライン家の長女。
あらゆる種族の処刑を命じられてきたキルライン家の切断技術は種族の守護を無視して切断する事が出来る。
それが例え悪魔であろうとも、神であろうとも、その刃で斬り殺す事が可能。
〈死が二人を別つのなら、死そのものを別ちさせる〉
』
説明を見てつい唸ってしまう。
「神ですら殺せる?すごいな、それは」
もしかしたら。俺はとんでもない当たり召喚獣を引いたのかも知れない。
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