第6話

「えっと……君は俺の召喚獣……なんだよね?」


一先ず俺は自己紹介をする為にそう切り出した。


「はい、私は貴方の召喚獣お嫁さんです」


お嫁さん!?なんだこの召喚獣は。

ま、まあいいや。取り合えず。


「俺の名前は遊飛ゆうひ幸玖さく……それで、君の名前―――」


ヴヴヴ、とチェーンソーの音が鳴り響いた。

心臓を鷲掴みにして引き千切ってしまいそうな音だ。


「まさか私の名前を知らない?いえそんな筈はありません。私たちは夫婦です、お互い深い仲に居ます。知らない事など存在しません」


ひぃッ……なんだよこの召喚獣。

やばい、これ回答をミスったら殺される奴だ。

あ、そうだ、スマホに記載されている召喚獣の情報を確認すれば……えぇと、名前は……あ、これか。


「えと、く、クインシー。だよね?」


俺の言葉を聞いた彼女は鬱蒼とした表情から一変して笑みを浮かべる。


「はい。旦那様。私は貴方のクインシーです」


美人な人だけど……綺麗だからこそ彼女の恐ろしさを強く感じる。

なんていうか、あれだ。綺麗な薔薇には棘がある、と言う奴だ。


まあ、取り合えず。

これで俺が出来る事は全部した。

後はこの異空間から出て行って……それで、まずは家にでも帰ろう。

母さんが今、どうなってるか心配だ。


「………」


「うわっ」


な、なんだよ、急に俺の顔を覗き込む様にして。

クインシーは黒い瞳を俺に向けていた。その瞳は闇の奥底みたいで、見続けていれば飲み込まれそうな魅力があった。


「今、誰の事を思い浮かべましたか?」


ヴヴヴ、とチェーンソーが威嚇をする様に鳴り出した。

俺は唾を飲み込む、その気迫さは今にでも人を殺してしまいそうだった。


「え、と……母さん、だけど……」


やましい事なんて無いのに、慎重に言葉を口にする。

それを聞いて安堵を浮かべる様に、ぱっと笑みを咲かすクインシー。


「あぁ、お義母様でしたか。そうですね、挨拶をしなければなりませんからね」


いや別にお母さんに君を紹介する為に家に帰るワケじゃないけど……。

まあいいか。この〈楽園の箱庭ミニチュア・ガーデン〉から出ようとして。


「あ、そうか。俺の指輪無いのか」


俺はクインシーに顔を向けた。

血がこびり付いた純白の衣装を着込んだクインシーは俺の顔を見て微笑んでいる。


「あのさ、此処から出たいんだけど……」


恐る恐る、俺はクインシーにそう伺うと。

クインシーは少し怪訝そうな表情を浮かべて俺を見ている。


「私はこのまま旦那様と二人きりで良いのですが?」


「でも、出ないと挨拶出来ないよ?」


「………そうですね。二人きりは嬉しいですが……仕方がありません」


渋々と、クインシーは指輪に触れて念じて見せた。

すると俺の目の前に穴が出来て、恐らくその穴は現実世界に繋がっているのだろう。


「よし……行くか」


外はどうなっているのか分からない。

けれど、お母さんが心配だから、俺は外に出る決意をした。


「それでは挨拶に行きましょう」


ヴヴヴ、とチェーンソーの音を鳴らしてクインシーが異空間へと出ていく。

俺もその後ろを付いて行く様に、クインシーの傍から離れない様に。

この〈楽園の箱庭ミニチュア・ガーデン〉から出るのだった。

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