第2章
第7話 どこ行くんだよ
「お前なんでそんな恰好してんの? せっかく着替えんならジャージとかもっと楽な格好で
隣りを歩く
それはどう見ても
「そんな
莉緒はわざとらしく溜息を吐き出すと、これまたわざとらしくブルルッと身震いをして見せる。
さて、今日は四月も下旬に差し掛からんとする土曜、小春日和の午後。
午前で授業を終えたあと、一時帰宅後に合流した
最寄りから数駅にあるこの街は都心部と郊外を繋ぐハブ機能を備えており、つまり人が多く集まる場所=必要なものは一通り揃うということでうちの
で、なぜ俺たちが二人こんな場所にいるのか。
もちろん目的も無く
「ちょっと。ちょっと生田」
昼休み。屋上から教室へ戻る道中でまるで待ち伏せでもしていたかのように階段脇から突如姿を現した
「なんだよわざわざこんな場所で」
「察しなさいよ、教室だと
愚痴る須藤の脇をささっとすり抜けようとした俺の袖を力強く引っ張ると、須藤に廊下端まで追いやられる。
「なんだよ。野上に聞かれるとマズい話って」
「別にマズいってほどじゃないんだけど……。生田は葵になにか渡すつもりなのかなぁと思って」
「渡す? ちょっと待て須藤。先に用件を言えよ」
「だから単刀直入に用件を述べてんじゃないのよ。って、もしかして葵から聞いてないの? あんなに毎日毎日一緒に帰ってるのに?」
まるで信じられない、そう言わんばかりに須藤は鳩みたく目を丸くする。
野上に内緒で準備して渡すもの……ねぇ。
「金か?」
幼い頃、よく婆ちゃんから親には内緒でって小遣いを握らされたもんだ。
「違うわよ!! 内緒で渡すものと言えば誕生日プレゼントに決まってんでしょ!?」
「そんな怒んなよ。冗談だよ冗談」
「ったく……あんたが言うと冗談に聞こえないのよ。でもやっぱその感じだと聞いてないみたいね」
「まあ、そりゃそうじゃねぇの? 俺ら付き合ってるわけでもないし」
普通ただの友達にわざわざ催促する様な真似しねぇだろ。
「それはそうかもだけど……。この前の話、ここんとこあの子ちょっと落ち込んでたじゃない? だからわたしとしては元気づけてあげたいっていうか、最近仲良しの
——と、拝み倒され……。
こういうのはやっぱ気持ちだろうし、せっかく渡すんならネットで買うのもなんか味気ないしな。
「でもさ、女友達にプレゼントする
「それは二人の関係性によると思うけど。例えば少し高価なボールペンくらいなら友達として日頃の感謝を伝えられるとは思わない?」
「まあ、たしかに。そうかも」
「あと、もし友達以上の関係に進みたいなら思い切って
「なるほどなぁ……、やっぱお前に相談して良かったわ。でも彼氏がいたこともないのによくそんなこと分かるのな。っ
言った瞬間、脇腹に重い一撃がめり込んでいた。
「ったく、褒めるなら最後までしっかり褒めきりなさいよね。で、
「別に……なにも考えてねぇよ。そもそも付き合うとかよく分かんねぇし、あっちだってそんな気はないと思うしさ」
「ふぅん……。じゃあ単純に日頃の感謝ってことでいいんじゃない? さっき言ったみたく定番は文具系とか、あとバスグッズなんてのも人気ね。取りあえず近くに複合雑貨店があるから行ってみましょうよ」
「そうだな。……どうした
急にとある方向を向いたまま立ち止まる莉緒。
「あそこ……。うちの制服の子、なんかこっち見てない?」
言われるがまま莉緒の視線を追いかけてみると、そこには女子生徒がひとり佇んでいた——
「野上」
「うそ、あの
「ああ……。おいっ、野上!」
明らかにこっちを見ていたはずなのに野上は声を掛けられたことに驚いたのだろうか、その肩がぴくりと跳ねる。
どうやら
「お前も来てたのかよ。奇遇だな」
「え、う、うん……そう、だね」
「なにか探し物か? まだ何も買ってないみてぇだけど」
「ちょっとね、参考書を見に来たの……。生田君は……って見たらわかるか。じゃ、じゃあっ、わたしもう行くからっ。ごめんね、お邪魔しました」
「は?」
まるで作ったようなにへら顔で莉緒に向けさっとお辞儀をすると、なぜかそそくさと立ち去ろうとする野上。
その態度に妙な空気を感じ取った俺はすれ違いざま無意識に野上のか細い腕を掴んでいた。
「えっ。どう……したの?」
「あ、っと……悪い」
ちょっと強く握り過ぎたかも。そう思い掴んでいた腕をぱっと離す。
「どうしたのって。お前、なんで行こうとすんだよ。会ったばっかなのに」
「え。でも、だって……」
また妙なにへら顔で
そこで遅まきながらやっと理解する。
「お前、なんか勘違いしてないか? こいつは
「えっ……いと、こ?」
そう言うと、野上は大きな目をぱちくりとさせた。
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