第26話 幼馴染は依存ぎみ
「かずっち〜」
ベンチに座っている俺に寄りかかり、腕をこちらに回していってくる。
「さびしいのか、笑里」
「そうだよ、笑里はさびしいの」
星乃笑里は、悪いやつじゃない。可愛くてやさしい、自慢の幼馴染だ。
ただ、依存気味なところがある。常に自分が誰かの中心であり続けたい。そう考える節がある。
「一樹はさ、あたしに出会えてよかったと思う?」
「ああ」
「よかった」
ことあるごとに、笑里は自分の存在意義を確かめる、誰かに求めていられていると実感したいのだ。
俺が笑里と疎遠になってからも、何度か様子を見かけたことがある。
誰かに必要とされないことを極端に恐れ、周りの目を気にして過ごしていた。
「そうだ、笑里のおかげだ。俺を形作ってくれたのは、笑里だからな」
これは間違いじゃない。笑里がいない少年時代なんて、考えられない。幼馴染として同じ時間を過ごしてきたからこそ、彼女の影響は大きい。
俺がさびしいとき、寄り添ってくれた。そのぶん、笑里がつらそうなときは俺が寄り添った。
互いに必要としていた。
「真白ちゃん、最近元気にしてる?」
「困ってる様子はないな。毎日楽しそうにテレビばかり見てる。どうも他のことにはあまり興味がないらしくてな」
「そっか」
「少しずつ真白も、覚悟は決めてきているらしいな。中学校からなら、いってもいいかもって。けっこううれしかったよ」
「真白ちゃんも、少しずつ変わってきてるんだね」
「そういうことだな。というか、いつまで肩に寄っかかるつもりだ? これじゃあまるでカップルみたいじゃないか」
幼馴染とはいえ、密着されるような距離感にいられると、こちらも恥ずかしいものだ。それに、周囲の人にあらぬ誤解をされてしまう。このふたりは、あくまでただの幼馴染なのだから。
「いいじゃない、かずっちだったら彼氏にしてもいいかな、とか思うよ」
「ふざけるのも大概にしてくれ」
「ごめん、冗談だってば」
笑里はこちらを向いて、ふふっと笑った。間近でみると、笑里はかわいすぎる。だよりも笑顔が輝いていて、俺に光を与えてくれる。園崎とは真逆だ。笑里は光を与え、園崎は憎しみを与える。
「そっか……」
「どうした笑里?」
「うんうん、なんでもないよ」
向けていた顔を逸らしてしまう。こちらと視線を合わせないようにしてくる。
「かずっちは今日どうしてここにきたの」
「休日だし、買い出しにな」
弁当等々が入った袋を見せる。
「珍しいね、かずっちがプロテインなんて。運動ってかずっちの苦手分野なのに」
「俺だって鍛えたくなるときくらいあるさ」
「笑里は、運動できない痩せ型のかずっち、嫌いじゃないけどな」
「そうか」
「私の意見だけどさ。かずっちはかずっちのままでいいと思ってる。何にも縛られることなく、今のままのかずっちでいいんじゃないかなって。なんか今のかずっち、不自然なんだもん」
笑里は見抜いている。俺に何か変化があったことに。長い付き合いということもあるが、変化があったことを察せられたくはなかった。
「俺は俺のまま、変わらないからな。ちょっと捻くれてる人間のままだ」
「それならいいけど」
やはり、園崎と一緒にいるところを見られるのは困る。笑里はすぐに、園崎に何かがあるかを嗅ぎ回るだろう。女子との関係に疎い俺と、なぜ買い物なんかしているんだと。執拗に問い詰められることだろう。
「なんで私じゃダメなの?」なんて聞いてくるかもしれない。
「代わりはいくらでもいるもんね」と拗ねてしまうかもしれない。
笑里は、本当に傷つきやすい。
変わってしまう関係を誰よりも恐れている。そして、今ある状態に固執する。
だから、俺は笑里を守ってやらなくちゃならないと、ある時から思った。
たとえ「めんどくさい女」というレッテルを誰かが張ってきたとしても、俺はそれを否定するだろう。
あいつはそんなやつじゃない、って。
おかしいと思う。でも、俺はこの考えを曲げるつもりはない。
「じゃあ、今日。私の家、くる?」
「いや、今日はちょっと……」
「部活とか、ないでしょ?」
「ないけど、真白が……」
「それなら、私の家に呼べばいいんじゃない?」
笑里は寄りかかるのをやめ、こちらをじっと見つめてきた。目線を変えることなく、答えを待ち続ける。
「そうだけど、真白にも真白の事情っていうのが」
「じゃあ、私の前で連絡して。それでダメだったら、私も納得するから」
厄介な状況になっちまった。今、真白はもちろん家にいない。つながるのは、園崎の携帯だけ。
騙し通せるか?
わからない。でも、笑里のためにはやらなくちゃならない。
「ちょっと待ってな」
俺は番号を打ち込むふりをするために立ち上がった。
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