第25話 幼馴染との邂逅
「さて。ようやく買い物開始ってわけね。お一人様限定品、一樹と真白ちゃんにもしっかり買ってもらうから。もちろん料金は後で返すけどね」
薬局コーナーを出て、食料品売り場へと戻ると園崎がいった。
「人に買わせておいて料金払わないってのはさすがにありえないからな。安心した」
「あたし、しっかりこの恩はどこかで返すつもりだから」
「お前に何か見返りを貰おうしてるわけじゃねえから。まずお前が頼んだからやっているだけだろ。感謝されたところで嬉しかねえな」
「あたしは人間として当たり前のことをしようとしたまででなんですけど。人に感謝することの何が悪いわけ」
「すまん、俺が悪かった」
ここで自重しておかないと、またひどい言い争いになるからな。真白のためだ。これでも険悪な感じはあるが、少しでも悪い関係を改めるためにはやめようと思ったらすぐにやめないとな。
「すぐ折れるなんて、なんだか一樹らしくない。まあいいわ。ともかくあたしに付き合いなさい。どうせ買うものなんて、あとは弁当ぐらいなんでしょ」
「はいはい、そうですよ。弁当だけで悪かった。さあ、園崎の今回のターゲットまでさっさといこう」
「ターゲットってなんだか響きが微妙な感じが」
「細かいニュアンスの違いなんか気にするな。いくぞ」
そこにカチンときたのか、園崎は早歩きでいってしまった。まるでついていけそうもなかったが、園崎は何度も後ろを向いて指示を下してくれたので、どうにか辿り着くこと自体はできた。
お一人様一点限定品としてアイツが求めていたのは。
その一、卵。
たかが数十円安い程度だが、元の商品の品質の高さを考えるとかなりお買い得だ。主婦は数十円の違いであちこち駆け巡れるよな。すごいと思う。こっちはいつもコンビニだが、買うものを極力減らしているので親からの仕送りでどうにか生活できている、
その二、牛乳。
園崎家では毎朝の牛乳が日課らしい。そこをいかに安く買えるか、というこただと。
その三、食パン。
合計三種のお一人様限定品を購入するという暴挙に見事でた園崎。ちなみに、浦尾家の晩御飯はお茶漬けになりました。
お茶漬けのもととレトルトのご飯でいただく。昼ごはんのスパゲティが重すぎた。スパイシーで腹持ちがよすぎるものだった。夜ご飯までがっつり食べられそうになかった。
会計を終え、商品を置く棚まで三人分のカゴを持っていく。レジ袋の中に、まずは浦尾家の夕食を。その後、浦尾ファミリーで買ってやった卵・ヨーグルト・食パンを園崎の袋に移してやる。
「お前んちこんなに食うのか」
「三人暮らしだけど、あたしがよく食べるから。とくに食パンと卵は」
「卵料理好きなのか」
「食パンと卵って組み合わせで気づかなの。フレンチトースト。これは卵料理っぽくないから卵料理からは除外」
「三袋買うくらいなんだから、お前だけじゃ食べきれないだろ」
「そりゃそうよ。我が家みんなでフレンチトーストが好きなの」
「そうだったんだな」
それ以上園崎が語ることはなかった。
「お兄、あたし雑貨見にいっていい?」
「もちろんいいぞ。とりあえずこのお金……」
「真白ちゃん、あたしといきましょ。あたしが払ってあげるから」
「え、でもそのお金、園崎のお姉ちゃんのお父さんかお母さんが稼いで手に入れたお金でしょ」
「いいの。あたしが奢ってあげるっていってるんだから」
「で、でも……」
「一樹、あたしは真白ちゃんと雑貨買いにいってるから。じゃあね〜」
またもや真白の袖を引っ張り、ここのコーナーを離れてしまった。
「おい、この後の連絡はどうするっていうんだよ…… って、連絡先交換してたか」
ああやって脅迫されることがなければ、連絡取れなかったんだな。今から追いかけても園崎に厄介がられるし、終わるまで単独行動か。とりあえず、トイレでもいこう。
「トイレってどこにあるんだろ……」
食料品コーナーを歩き回り、どこかに案内の表示がないか探していく。数分後、エレベーターのすぐそばにトイレがあるとわかった。やばい、そろそろ近くなってきた。
危うくなってきたので早足でエレベーター前まで通る。ちょうどドアが開いたタイミングだった。
「かず……」
エレベーターの方から俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。聞こえたタイミングで、俺は男子トイレ内に入ろうとしていた。扉はなく、死角になるように入り口ができているタイプだった。
「ふう……」
用を足したのち、ゆっくりとトイレから出ていく。ちょっと疲れたので、出てすぐのベンチで休もうか。腰を下ろし、背もたれに寄りかかる。首を上に曲げ、あてもなく見上げていると。
「かーずっち!」
「ふぇ?」
左の方から、聞き慣れた声がした。笑里だ。
「わあ、出会えるなんて偶然だね」
まずい、非常にまずい。ここで園崎と会うとちょっとまずい。絶対に合わないようにしなくちゃならない。まずは、スマホで園崎に連絡だ。スマートフォンを取り出そうとすると。
「ねえ、今スマホで何を見ようとしてたの?」
笑里がじっとスマホを覗き込む。
「いや、ちょっとネットサーフィンをしようかなって」
「私が隣にいるのに?」
「ごめん、それはさすがにひどいよな」
だめだ、連絡もきっとできない。適当に理由を決めても、笑里はきっと問い詰めてくるだろう。笑里っていうのは、そういうタイプなんだ。
「よかった、私とかずっち、ふたりきりになれたね」
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