第20話 久しぶりの外出。俺たちはスパゲティ教の信者である。
映画地獄を実施した、次の日。
「さて、真白」
「何、お兄」
「ちょっと外に出ないか」
「嫌だ」
「だよな」
いつものようにコンビニ弁当をつつく生活。それも悪くないんだ、悪くない。面倒くさいだけなのだ。コンビニだったら無人レジもあるし、店も狭くて混んでないし。
だが、さすがに毎日やってると飽きてくる。何か自炊しようかなんで考えもたまに出てくるが、この家には少し欠陥があってそうもいかない。キッチンがありながら冷蔵庫を持ち合わせていないのだ。冷蔵庫がなくても料理はできるが、野菜を使うとなると数日で使い切らなくちゃならない。頻繁に買い物に行く面倒くささからはつい逃げてしまう。まじでキッチンは宝の持ち腐れ状態だ。
「真白は今の食生活に満足しているのか? こんな粗食ばかり食っていて、たまには美味い飯が食いたいとは思わないのか」
「だってお兄がコンビニ弁当しか買ってきてくれないんだもん。何度もお願いしたよ。別のご飯が食べたいな、コンビニ弁当飽きた、って。でもお兄はその度に『今日じゃなくていいだろう、明日があるさ』だとか『コンビニ弁当、食べれば食べるほどうまくなるって知っていたか』とかいって誤魔化してなかったけ?」
「おい、それをいうな。俺が悪いみたいじゃねえか」
昔の俺、余計なことを。ようやく俺のやる気スイッチがついたというのに、それを邪魔するなど許せないな。過去の自分。
「そうだよ。お兄は自分の発言をきちんと思い出してから提案することだね」
自業自得ってやつだ。自分がコンビニ以外の店によることを避けていたからこそ、こうやってツケが回ってきた。
この流れなら、ふつうに俺が別の店で飯を買ってくればいいもんだと多くの人は思うだろう。しかし、そうともいかない事情がある。
「日曜日限定、数量限定シェフの気まぐれパスタ。真白、知ってるか」
「何それ、すごく気になる」
「俺の学校とは逆方面に歩いて30分。駅から離れた隠れ家的パスタ専門店。そこのイチオシ料理だ。毎週作るパスタは違っていて、今週はミートソーススパゲティだ」
真白が被り物の触角をクイッとあげる。なんせ、あいつの好物はスパゲティ、特にミートソーススパゲティなのだ。よくコンビニで買ってあげている。夜は三日に一度ペースでスパゲティにしている。
「どうしてそんなことを今いうの」
「極上の継ぎ足しソースに、秘伝の麺。そして、他言無用の調理法。食べたものの記憶から消えてなくなることのない、いわば絶品だ。これは食べるしかないよな……」
「やめて、外出なんてしたくないのに」
「徹夜で並ばなきゃ、この店の気まぐれパスタは食べられない。だが、今日は違う。隣町の別のパスタ専門店が、同じく月に一度限定の数量限定品を出しているからだ。そっちの方に人がいっていると踏んでいる。食えるのは、今しかないと考えた方がいいだろうな」
「そっちのお店の方がいいんじゃないの」
「いや、あそこの店は和風スパゲティだ。真白が求めているのは、究極のミートスパゲティだっただろう。ならば、より真白が求めるものを、お兄は提供するまでだ」
「お、お兄」
熱く語ってしまったが、浦尾兄妹はとにかくスパゲティとなれば熱いのだ。熱いということは、熱いということなのだ。だからこそ、熱いやつは熱い。おなじことしかいってねえじゃんとかいうのは野暮なものだ。俺たちの熱いスパゲティ愛を、バカにするじゃねぇ……
「いこう、真白。夢のスパゲティが待っている。今だけは外に出ないか」
「いく、真白、いく。コンビニスパゲティに戻れなくなってもいい。究極、求める」
「その心意気だ。さあ、行くぞ!!」
────バァーン。
かくして、俺たちはパスタ専門店へと向かう準備をはじめたのだった。
ここから、美味いパスタを求める旅は始まりを遂げたのだ。
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