第14話 恐怖!! 園崎の意外な要求とは?

 クラスメイトの女子の家で、押し倒される。健全な男子生徒の諸君なら、色々捗るシチューエションかもしれない。ただ、相手が園崎でこの状況なら、話は別だ。


 俺の体はあいつの足でがっちり締められている。そのうえ、園崎は包丁なんぞ持っていやがる。


「園崎、何がしたい。ここで俺を殺すつもりか」


 アイツの果たし状には『お前をコロス』という物騒なことが書いてあった。冗談であろうと高をくくっていたが、この状況からすると、あながち本気なのかも知れない。


 もしかして、これって命の危機ではないだろうか。


「そうね。変な行動をとったら、この包丁がアンタの首を跳ねるかもね」


 いつもの荒い口調ではなく、淡々と、落ち着いた感じで言葉が紡がれている。


「なあ、早まるなよ。俺を殺したら、お前はどうなる。俺を殺したことで人生のレールを踏み外すなんて、お前にとって一番の屈辱じゃないのか」


「いや、そこは安心して。今ね、この家には誰もいない。もしやるなら、アンタの死体は燃やして証拠を完全に消し去る。完全犯罪にさせてみせるわ。私は絶対に捕まらない」


「でも、それならこんな殺し方じゃ……」


 ピクッ、と園崎の頬が歪む。


「ねえ、あたしのやり方に文句があるわけ?」


 刃物がさっと迫ってくる。刃先が首元に迫り、触れるか触れないかのギリギリのところを、なぞっていく。首からそっと降りていき、また首元へと戻るようになぞられていく。


「動いたら、すぐ切れるけど」


 これ以上の抵抗はやめにした。


 俺、園崎なんていなくなってしまえばいいと思っていた。そして、一歩間違えたら園崎と同じことをしていたかもしれない。もしかしたら、この配置、逆だったかもな。


 だが、やられる立場になってみると、相当怖い。「人にやられて嫌なことは、やっちゃいけない」。まさにその通りだな、と思う。


 極限まで追い込まれると、逆に冷静になってくるもんだ。ハハハ。なんで雇ってくれといった? はじめからこうするつもりなら、わざわざあちらから押しかける必要なんてあったか? 人格を変えたいというのは嘘か? それとも我慢の限界か?


 教えてくれよ、園崎。


 俺は全てを諦め、目をつむった。


 すると、包丁の冷たい感覚が消えた。少しだけ目を開けると、何やら左手でポケットの中から何かを取り出そうとしている。なんだ、新たな凶器だろうか。


「テッテレ〜」


 聞き覚えのあるBGM。それが、アイツの左手から聞こえる。


「ドッキリ大成功!」


「はい?」


「怖かったかな、浦尾くん」


「なんだよ、意味わかんねえ。まじで死ぬかと思った。まじこれ何のつもりでやってるわけだ」


「なんだろう、親睦を深めるため?」


 思い出した。アイツは男子との接し方が下手な暴力女だ。暴力という接し方こそ、アイツの得意分野じゃねえか。


「園崎。これは俺だから許されたがな、マジで犯罪行為だ。殺人未遂で訴えられても、お前は勝てんのか? あ? これはお前が心配だからいってんだ。たとえドッキリだとしても、やっていいことと悪いことぐらいの区別はつけろ。笑い事じゃねえんだぞ? 俺たちはもう高校生なんだ。ほとんど大人みたいなものだからな。今後ドッキリを仕掛けるなら、他のやり方にするんだ。いいな?」


「グスッ…… ふええええええ〜ん」


 え、園崎が泣いている? 


「ごめんって、ごめんってば。ちょっと強く言い過ぎたって」


「ひどいよ。ひどいよ、一樹。なんで怒るの?」


 これじゃまるでアイツが被害者だ。ひどいこった。ボロボロ涙が溢れて、こっちまで滴っている。


「おい、頼むから跨るのをやめて落ち着いてくれ。いいな」


 ***


 しばらく泣き続けたのち、アイツは正気に戻った。包丁を持っていない左手で涙を拭く。


「はぁ……はぁ…… じゃあ、今から本題に入るね」


「今から本題って、こっちも気持ちの整理がつかん。ほんと、頭がおかしくなりそうだ」


「こっちからのお願いは、たったの二つ。まずは」


 そういって、床に置かれたスマホをとる。


「アンタの連絡先がないと困るから、さっさと登録しなさいよ、この女泣かせ」


 女泣かせ? 理不尽だ。パワハラ上司かよ。そして、いつの間にかふだんの園崎に戻っている。切り替えが早いもんだな。


「そんくらい、脅迫されずとも登録してやるよ」


 俺はほとんど連絡などしないタイプだ。メッセージアプリの友達も十数人程度。ハハハ。


「ほい、さっさとバーコードを読みたまえ」


「えー。左手だからブレてよく読み取れない」


「包丁をおろせばいいだろうが」


 そうだね! と納得したようで、すかさず包丁を置き、バーコードを読んだ。


 アイツらしいギラギラした派手なアイコンとステータスメッセージだ。


「ふーん、浦尾ってやっぱり地味だね。『浦尾一樹』っていうニックネームにダサい風景の写真…… なんかまともなのなかったの?」


「ひどいな、これは結構気に入ってるんだぞ」


「まあいいわ。次のお願いにいくわ」


「さっさと教えてくれ」


「あたしの願い。それはね…… あたしの手料理をアンタに食わせることよ!! これから最高の一品を作るから、覚悟しておきなさい」


 スマホと包丁を持ち替えて、華麗に手の中で回す。


「は?」


 包丁を持ってたのって、そのためだったんですか?


 ___________


 あとがき


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回は引っ掛かる点が多多あると思いますが、そこは次回以降に明かされますのでお楽しみに。


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