第13話 テキストの中に果たし状?? そして脅迫?
妹に勉強するよう追いやられてしまったので、俺は勉強部屋へと避難した。勉強部屋は引き戸になっていて、閉めてしまえば真白の様子は見えない。真白には冷たくあしらわれるし、ここからは姿が見えないし。浦尾一樹のHPはガンガン削られていく。
オアシスがなくなった砂漠に、希望はない。ただ、その場にうずくまっていては、何も起こらない。たとえ渇きでも、歩き続ければ渇きを潤せるかもしれない。たとえ渇き死ぬとしても、動いて死んだ方がマシ。
ようは、見逃し三振より空振り三振の方がいいってことだ。何を熱く語っているのだろう。
俺は、水を求めて癒されなくちゃならないということだ。ここがダメなら、別のところからHPを回復するしかない。
思いつかねぇ……
仕方ない。ふつうに勉強をしようではないか。机の横にある鞄から教材を漁る。そろそろテストの時期に突入してもおかしくないだろう。柄にもないが、たまには復習というものをしてもいいだろう。
「さて。テキスト、テキスト」
例のテキスト事件で被害者となった園崎のやつと同じ種類のやつだ。ちなみに数学。
うちの高校は数学に力が入っているせいで、数学の授業時間がやけに多い。そのうえペースも早いので、予習復習はマジな方で欠かせない。そのために使うのがテキスト。毎日というレベルで手に取る。
園崎のことを忘れようと努力していたが、ついあの苛立たしい姿が脳裏に浮かんでしまった。HPがジワジワ削られる。考えれば考えるほど気持ちが落ち着かなくなる。
「ああー。数学がやりたくねえのか思い出したくねえかわかんねえ」
テキストの表紙を両指で挟んでクルクルしてやった。やり場のない気持ちを、テキストにぶつけてやるのだ。
加速させまくる。なかなかバランスを保つのが難しいのだが。俺はこの技術に関しては極めているといっていい。学生がペン回しを極めるように、俺はテキスト回しを極めた。かけた時間は計り知れず。この俺に、失敗することなど。
「やべ」
テキストは宙を舞った。綺麗な軌道で回り続ける。拾おうとカバーに入ろうなどとは考えなかった。その美しさに、俺は目を奪われた。
バサッ。
背表紙を上にして落ちてしまったために、中のページがクニャッと曲がる。
「オーマイガッ!!」
一樹、心の叫び。
「お兄うるさい」
「ごめん」
ドアの向こうから妹のクレーム。
「ん?」
テキストの中に、何やら紙切れが挟まっている。何かを挟んだ覚えなどないはずなのに。
「なんだろう」
テキストを手に取り、紙を落とす。そして、中身に目をやる。
「これは……」
『浦尾へ
ここ(裏面を見ろ、この野郎が)に来なかったらコロス。ここに来なかったらもっと酷い方法でお前をコロス。土曜の九時までに来い
園崎真琴』
ご丁寧に筆ペンで書かれているようだ。力強い文字が俺に訴えかけてきているようにすら思える。
なんだ、これは果たし状か? 裏を見ると、住所が記されていた。スマホで検索したところ、住宅地がヒットした。ここが園崎の家ってことだろうか。
「女の子のお家にいけるというのに、テンション上がんねえ」
本日は土曜。ゆっくり優雅に朝ごはんを食っていたせいで。現在時刻九時三十分。遅刻は確定。俺は惨い死に方をすることが決まった。
「だが、少しでも早くいかねえと。アイツの怒りは加速するからな」
最低限の荷物だけを持ち、俺は家を飛び出した。
電車で数駅先までむかう。そこまでで二十分。そこから徒歩二十分のところを、全力ダッシュでいって約十分。「園崎」という表札を見つけた。ふつうの二階建ての一軒家だ。すかさずインターホンを鳴らす。
『は〜い』
「浦尾一樹だ」
返事はなく、すぐに鍵が開けられる。
「遅い。一時間三分二十五秒の遅刻! 約束くらい守りなさいよね」
「なぜお前が家政婦業をやらない日まで会わないといけない」
「手紙、見たでしょ。それ以上もそれ以下もないわ。いいからさっさと入りなさいよ」
園崎が先に向かう。俺はその後に続く。
入ってすぐ、左側に二階へと続く階段があり、我が家と同じくまっすぐ進めばリビングだ。
「入るぞ〜」
「いらっしゃ〜い」
彼女は何かを手に取ったらしかった。だが、手をすぐに後ろに回してしまったので、何かわからなかった。
楽しそうに体を左右に揺らし、ニコニコしていやがる。
「なんだ、楽しいことでもあったか?」
「ええ。もちろん」
右手を振り上げると、握られているものが見えた。
包丁だ。
「あんた、ここで私の手で死になさい! これは命令よ」
手の中でクルクル包丁を回している。なんだ…… 俺が園崎にマジでコロされるの? 第一章完ですか?
「おい、はやまるな。はやまるんじゃねえ」
そういうと。アイツはこちらに向かって突進してきた。勢いのままに、俺は押し倒されてしまう。
「うッ!!」
「私のお願い、きてくれる?」
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