第10話 幼馴染とお弁当

 しばらく、園崎の家庭訪問もお休みとなった。アイツという存在自体は大嫌いだが、雑用係としては有能だと思う。ひどい言い草だが、俺の中では歪むことのないファクトなので仕方がない。いや、こういうのはオピニオンっていうのか。


 本日のお昼ごはんはウィダーだ。いつも通りだが、ひと味違うぜ。奮発してプロテイン入りを買ってみた。これを飲んで俺も筋肉ムキムキに……!! 違います。ただコンビニに置いてあったのがそれしかなかったからです。


 本日は雨予報だったので歩いていった。学校につき、靴を脱いで教室に向かおうとするときだった。


「かずっち〜」


 この呼び方をする人物といえば。


「笑里、偶然だな」


「なんか運命みたいだね、えへへ」


 笑里だけに許された、伝家の宝刀「えへへ」。これが実に可愛いのだ。何度きいても、いやきけばきくほど刺さる。笑里の自然な笑顔と、ちょっと顔を傾けてやるのがポイントだ。


「そうだな。じゃあ、いくか」


 階段をのぼっていく。俺たち一年生の教室は、四階だての校舎の三階にある。校舎をふたつ隣にたてているので、一つの階で一学年がおさまる。


「かずっち、今日のお昼って空いてる?」


「ああ、もちろん。ふだんは一分で食うくらいだからいつでも空いてるぞ」


「昼休みのことじゃなくてね。一緒にお昼、食べたいなって」


「俺は全然いいけど。笑里は大丈夫なのか。クラスの女子とのこともあるだろうし」


「私の友達は、ありがたいことにみんないい子だから。きっとわかってもらえるよ」


 俺は友達が少ない。雷堂以外にももちろんいるのだが、そんな多くはない。俺自身が「常に誰かと一緒じゃないと困る」みたいなタイプではないので、ひとりも怖くない。


 女子に関しては園崎以外と関わることはほぼない。園崎のせいだろう。そうだよね。いいんだ、なんせ俺には真白がいるし……


「どこで食べるんだ」


「きのう会った屋上前で」


「バレないようにな」


「もちろん」


 三階についたので、ここでお別れだ。


 教室につくと、すでに園崎はついていた。同じ時間で出たのにゆっくり歩いたのだ。いつもタッチの差でやってくるアイツに、先を越されて当然といえよう。


「浦尾、きょうはなんだかご機嫌そうね。調子乗らないようにせいぜい気をつけることね」


「おはよう園崎。機嫌がいいように見えたのか。残念だがこちらは通常運行だ」


「浦尾、それは嘘をついている表情よ。何もないのにニヤけるとかまじキモいんですけど」


「すみませんね、キモくて」


 いけない、つい顔に出てしまった。たとえうれしいからといって、感情を表に出しすぎるのもよくないな。



 楽しい時間はあっという間に過ぎるが、それを期待する時間は長く感じる。そして、何の面白みもない無味乾燥な授業はより長く感じる。


 待ち続けた昼がやってきてくれた。


 制服の学ランのポケットにウィダーを突っ込み、右手にペットボトルを握って駆け出した。


 きのうより早い手つきで、バレないように立ち入り禁止の紐を通り抜ける。


 どうやら、笑里もさきほどきたばかりのようだった。


「かずっち、きてくれたんだね」


 笑里は、小ぶりなトートバックを両手にかけていた。中に弁当が入っているだろう、ベージュでシンプルなものだった。


「もちろんきたさ。笑里と話したかったもんな」


「そうやってはっきり気持ちを伝えてくるところ、変わってないね。友達とかと衝突はしないの?」


「大丈夫なやつだけが友人になっているから平気。だけど、この態度が気に入らないやつが若干一名いて、いつも揉めてる」


「なんだかイメージがすぐにわくなー。ちゃんと相手のこともわかってあげてね」


「はーい」


「今日はドアの前で座って食べよっか」


 ドアの前までたどりついて、腰をかけた。差し込む光のせいで、埃が舞っているのがよく見える。


「ここで本当によかったのか」


「うん。ここしかないし、どこにいても私たちは私たちだもん」


「こだわりがないよな、笑里は」


「それが私だもん。私の根幹だから」


「なるほどな」


 笑里はバックのチャックをあけはじめた。

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