第15話 ちゃんと見てよ
268名前:名も無きファン
ついに出たな
姉妹のコントラストが最高すぎる
まだのやつは早く買えと言いたい
269名前:名も無きファン
ページによってはどっちが姉で妹かわからんよな
双子でもここまでのは中々ないだろ
270名前:名も無きファン
だけど別のページでは明らかに別人だとわかるんだよな
271名前:名も無きファン
メイク技術パネェ
272名前:名も無きファン
あんな姉欲しい
273名前:名も無きファン
まぁあれだけ可愛いかったら、色々着せたり弄るのも楽しそうだよな
274名前:名も無きファン
わい妹、アッネが勝手に服を持ってくも返さず、枕を濡らす日々
275名前:名も無きファン
わい弟、アッネが汚部屋過ぎて女子への幻想が打ち砕かれる日々
276名前:名も無きファン
おい、やめろ
オレの姉はそんな事しない
毎日ご飯作ってくれてお世話してくれて甘やかせてくれて、お腹の中にはオレの子がいるんだ
277名前:名も無きファン
妄想もそこまで行くと怖ぇよ!
278名前:名も無きファン
それはともかく
陽乃ちゃん達ってやっぱ一緒には暮らしてないらしいな
279名前:名も無きファン
らしいな
再会したのも最近という話だし
280名前:名も無きファン
誕生日は4ヶ月違い、母親違いの姉妹
色々と闇が深そうな家族関係
281名前:名も無きファン
それマ?
282名前:名も無きファン
休止してたのって、やっぱ姉絡みか?
283名前:名も無きファン
ソースは?
284名前:名も無きファン
これな h**ps://t*mu**/Y,shutola/shougatsu
今年の正月の神社でのやつ
285名前:名も無きファン
マジか
ていうかお姉ちゃんあわあわポンコツかわいい
286名前:名も無きファン
「おねがっしましゅっ!」がツボる
気に入ってそこを何度も見返してる
287名前:名も無きファン
これは陽乃ちゃんもメロメロになりますわ
288名前:名も無きファン
なるほど、動画で陽乃ちゃんがどうしてもとお姉ちゃんを誘ったわけか
ぐっじょぶだな
289名前:名も無きファン
姉の方は今後どうするんだろ?
未定?
290名前:名も無きファン
是非これからも姉妹で頑張って欲しい
291名前:名も無きファン
他にもあるぞ h**ps://t*mu**/Y,shutola/ibento1
292名前:名も無きファン
販促のイベントでのトークショーか
293名前:名も無きファン
お姉ちゃん噛み過ぎ
「きちょ、してましゅ」いただきました
はぁはぁ
294名前:名も無きファン
イベントはまだまだやるみたいだな
今なら初々しいおねえちゃんのかみかみあわあわが生で見られる
295名前:名も無きファン
直近だといつでどこだ?
296名前:名も無きファン
公式くらい見れ htt**/Hino/official
ここに載ってるぞ
297名前:名も無きファン
優しい
296はオレの姉にしてやろう
298名前:名も無きファン
メス堕ちはちょっと
……
「と、いうわけだから、別に平折ちゃんはアレでいいのよ」
「……そ、そうか」
凛はタブレットに映し出された某スレやSNSを見せながら、ドヤ顔で言う。
そんな凛とは対照的に、オレは不安げな顔で舞台に居る平折を見ていた。
俺達は今、とある大型書店ビル7階のイベントスペースへとやってきている。
いつぞや康寅とも一緒に来た場所だ。
体育館の半分くらいのスペースがあり、300人を収容できるというそこでは、満員の客入りと共に平折と陽乃のサイン会とちょっとしたトークショーと言うイベントが行われていた。
今も舞台に立ちながら、緊張からか「きょっは、よろしゅ、おねがしま、すっ」とかみかみで裏声な挨拶になってる姿を見ていると、これで大丈夫かと不安になってくる。語尾だけは何とかと取り繕った感が満載だ。
しかし会場ではそんな平折を、ほんわかした顔で見守っていた。
もっとも、当の平折本人はどこまでも顔が真っ赤なのだが。
ちなみに販促イベントは、神社でのも入れると今日で4回目だ。
週に1~2回のペースで、学校もあるので夕方の時間帯を狙って行われていた。
4回目ともなれば、一応、平折も手順などには慣れてきている。
最初こそ上がってしまい、今日こそはちゃんとしようと思っていたみたいなのだが……どうやらやる気が空回ってさっきの挨拶になってしまったらしい。
色々不安はあった。
だが、会場の反応を見ている限り、杞憂だったと思いたい。
何せ人気モデル有瀬陽乃の異母姉だということを、最初から隠すことなく写真集を一緒に出したのだ。
ともすればスキャンダル以外のなにものでもないことだが、前面に押し出せば読者の興味を引く武器にもなる。
売り上げも好調のようだった。
詳しいところはわからないが、強気で多めに刷った初版は、発売2週間目にして完売とのこと。
販促のイベントの度に、平折や陽乃の姿が拡散され、刷っても刷っても追いつかないという好サイクルを生み出している。
なんだか、目の前の現実に振り回され、色々と実感が出来ないでいた。
「で、どうするの?」
「……何がだ?」
「平折ちゃんの事よ。今後どうするのって話。このまま続けるのか、今回だけにしとくのか」
「それ、は……」
そんな事を考えていた矢先、凛の問い掛けにはドキリとしてしまった。
誤魔化すように視線を舞台に移せば、台本にない事で陽乃に弄られて、あわあわしている平折の姿が見える。
「……続けるなんて、無理だろ。平折は今だってあんな状態だ、向いていない。今もいっぱいいっぱいだろ」
それは偽らざる俺の本音だった。
確かに平折は頑張り屋。尊敬していると言ってもいい。
だけど、このプロの世界でやっていけるかと聞かれたら、どうしても不安は拭えない。
いま、急速に平折は世間の知名度が高まっていっている。
幸いにして今のところ好意的な反応が多いが、決してそれだけでは済まないだろう。
そんな俺の考えを肯定するかのように、不意に会場がどよめき、そして凍り付いていた。
「陽乃さんと仲良くなった背景に、父親を無職に追い込んだって本当ですか?」
「んなっ!」
「ッ!」
それは明らかに悪意ある言葉だった。
今後この世界に居ると言う事は、常にこういった攻撃に晒されるだろう。
一体誰がと思って視線を移せば、随分と可愛らしい女の子が立ち上がっており、憎悪を隠さずに平折を見ていた。
「……あの子、有瀬直樹が売り出そうとしていたタレントの娘ね」
「くそっ、そういう事か!」
陽乃の休止騒ぎの時、有瀬直樹は他の新人の売り込みの攻勢を仕掛けていた。
決してアカツキグループとしても悪い話では無かったのだが、急な彼の解雇により、割を食った人がいるのも確かだ。
彼女にとっては、いきなり仕事の機会と後ろ盾を潰された格好になる。
逆恨みといえば逆恨みだ。
――スタッフとして、今の俺に出来る事はなんだ?
平折への攻撃を止めさせるためにも、速やかにこの状況を対処しなければならない。
追い出す? 注意する? 裏から強引に何か話題を振る?
色々考えるが、力づくで何かしたところで、この空気は如何ともし難い。
落ち着かず、今にも飛び出さんとする勢いでそわそわしていると、凜が肩に手を置き制止してきた。
「大丈夫よ、昴。まぁ、見てなさい」
「凛……っ!」
焦る俺とは裏腹に、凜は落ち着き払っていた。
さりとて、あの彼女への怒りが無いという訳ではない。
どういう事かと訝しみながら、視線を平折の方に移して経緯を見守る。
「あの……私の
「そ、そう! いつ見ても仲良さそうで、見てる方が恥ずかしいよね!」
「あ、あはは……」
平折の困った様な乾いた笑い声と共に、周囲はほんわかとした空気に包まれていく。
陽乃のフォローによって、姉妹中の良さもアピール出来た形だ。
質問した彼女は、悔しそうに俯きその場に座る。
周囲はそれを気にも留めず、次の話題へと移っていく。
「ね、昴。平折ちゃんは思っている以上に強い子よ……何せ、私が認めた女の子なんだもの」
「そう、だな……」
確かに平折は一見頼りなさそうに見える。
しかし、その心に一本通った芯を持っているのは、誰よりも知っているはず、だった。
自分の願望が入り混じり、平折の評価を歪めていた事を気付かされた。
再び陽乃に弄られてあわあわする平折を見ていると、先程と同じ光景だというのに、やたら遠くにいるように感じてしまう。
「ねぇ、昴……ちゃんと平折ちゃんを見てあげて」
「……凜?」
同じ場所へ視線を向けたままの凜が、不意に呟いた。
「今のままだと平折ちゃん、自分の意志にかかわらず、しばらくこの仕事を続けることを選ぶはずよ」
「は? どういう――」
「2000万」
「――……っ」
その数字には覚えがあった。親父が有瀬直樹に支払った金額だ。
「ねぇ昴、今回の平折ちゃんの印税ってわかる?」
「いや……それなりに多そうだとは思うけど」
「1冊2000円、それの10%。陽乃さんと分ければ5%。それが……そうね、今月は5万部は刷れそう」
「2000円の5%が100円、それに5万を掛けて500万円?!」
なんとも現実味の無い数字だった。
普通の高校生が手に出来る額じゃない。
いつぞや陽乃に9ケタの数字が記入された通帳を見せられたのを思い出す。
なるほど、確かにそれだけのお金を稼げるはずだ。
そして凜は、いつになく真剣な表情で俺の顔を覗いてくる。
「人生を左右しかねない額の話よ、
「……今回はたまたまだ、人気モデル有瀬陽乃に便乗しただけ。次があるとは思えない」
「そうかしら? 実際アカツキグループ内の広報で、使いたいって声が上がっているのだけれど?」
「それは……」
俺の願望はただただ凜に否定されていく。
「だから、ちゃんと一度平折ちゃんを見てあげて……それと、あたしの事も見て」
「……凜? どういう……」
「すいません、こちらにいましたか」
そんな凜が、悲痛な顔でそんな事をいうモノだから、妙に心に引っかかる。
しかし、その追及は許さないとばかりに、割って入る声があった。
「あ、あなたは……」
「はは、お久しぶりですね」
どうやら凜は知っている相手の様だった。
若い男性で、洒落たジャケットを着用し、爽やかなイメージがある。俺達より明らかに年上だが、それほど離れている印象はない。
この場にいるのが意外な相手なのか、凜は目を丸くして驚いていた。
彼は苦笑しつつ、先程悪意ある質問を投げかけた女の子の方へと視線を移し、それを見た凜は大きなため息を吐く。
「場所、変えたほうが良さそうね」
「そうですね、助かります」
状況はよくわからなかった。
だが推測は出来る。
しかし俺に出来るのはそこまでだった。
凜と男性は、奥のスタッフルームへと消えていく。
込み入った話があるようで、他を拒絶する空気を出している。
ただのバイトの俺は、それを見守る事しか出来ない。
凜にも、なんだか置いていかれるようなことを感じてしまい、妙な焦りが生まれてしまう。
だけど、そんな俺に構う事なく、周囲は嫌でも変化し続けていく。
――それを、嫌でも理解させられてしまったのだった。
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