第25話 *思わぬ忠告


612名前:名も無きファン

おい、あの画像みたか?



613名前:名も無きファン

これか? h**ps://pic**tw***/Y,shutola/******

オレも一緒にお昼食べたい



614名前:名も無きファン

それそれ

学年違っても、一緒のこと多いのな



615名前:名も無きファン

陽乃ちゃんがお姉ちゃんラブでおしかけ妻してる模様



616名前:名も無きファン

なにそれオレも結婚したい

あ、でも姉妹百合っぷるもいい

悩む



617名前:名も無きファン

こういう自然体なところ、いいよな

って画面の端に男子の制服が見えるし、共学なのか



618名前:名も無きファン

くっ、オレも学校に美少女がいる青春を送りたかった

どうして母校は男子校だったのか……



619名前:名も無きファン

現在進行形で男子校のオレに謝って?



620名前:名も無きファン

大学生わい、共学だが理工学部

謝罪を要求する



621名前:名も無きファン

それよりも凄いことに気付いてしまった

陽乃ちゃん、いつも菓子パンだ



622名前:名も無きファン

ほう?



623名前:名も無きファン

h**ps://pic**tw***/Y,s11_29

h**ps://pic**tw***/A12_1

h**ps://pic**tw***/Y,s12_4

ほんとだ。

ホイップクリームあんぱんがお気に入りみたい



624名前:名も無きファン

わし、明日それ食べるわ



625名前:名も無きファン

しかし、最近のお姉ちゃんの方さ

なんか憂いを帯びているような……

何か悩みがあるんかな?



626名前:名も無きファン

くっ

相談に乗ってあげたい



627名前:名も無きファン

おいニート共、学生はそろそろテスト期間だ

あとはわかるな?



628名前:名も無きファン

くっ

色々勉強教えてあげたい

はぁはぁ



629名前:名も無きファン

おまわりさん、こっちです!



 …………


「……私、そんなにホイップクリームあんぱんばかり食べてたっけ?」


 陽乃はソファーで寝返りを打ちながら、そんな事を呟いた。

 ショートパンツに大きめのTシャツというラフな部屋着姿だが、それでも彼女の美しさが損なわれていない。


 華やかな少女とは対照的に、彼女の居るリビングは殺風景なものだった。

 家具は小さな机とソファーと上着掛け、必要最小限の物しか置かれておらず、床には脱ぎ散らかした衣服が彼女の性格を物語っている。

 私生活の彼女は、存外ずぼらだった。ホテル生活が長く、身の回りの事を自分でする習慣がないということにも起因する。


 スナック菓子を頬張りながら、他のSNSや掲示板の反応に目を通していく。


 時折『あ、この書き込みってあの人かな?』というものを見つけては、口元を緩ませる。


 今のところ、概ね順調に事が運んでいることに胸を撫で下ろしつつも、眉間に皺を作った。


「このまま何も起こらなければいいんだけど……」


 しかし、そうはいかないだろうな、という心当たりがあった。


「おねぇちゃんと凛さん、がねぇ……」


 この1週間以上、平折と凛の間が見るからにギクシャクしていた。


 学校では露骨に顔を合わせようとせず、本社では一切近寄ろうとしない。

 あの康寅でさえ、空気を読んでそっとしている。


 それとなく誰かが話を聞こうとしても、2人とも曖昧に笑って誤魔化すだけ。


 実際に陽乃も「なにかあれば相談に乗るよ」と言ったものの、「そのときになったらお願いしますね」と素っ気無く返されただけだった。


 おかげでクラスメイトもスタッフも気を余分に使うことになり、細かいミスなど仕事の方にも影響を及ぼすようになっていた。

 このままだと、遠くないうちに大きなミスに繋がりかねない。

 だから、彼女達の仲直りは急務と言えた。


「はぁ、しょうがない。あまり気乗りしないけど……」


 陽乃はガリガリと頭をひとしきり掻き毟った後、最近触ってなかったノートPCを引っ張り出す。

 実は先日の文化祭で、陽乃はゲーム内フレンドのフィーリアやクライス、サンクの正体に気付いていた。


(ま、あれだけドンピシャな衣装を見せられたらね)


 そして写真集の仕事が動き出してきてからは、以前自分が有瀬陽乃絡みのスタッフとして愚痴を零していたことを思い出し、ゲームを敬遠していたのだった。


(きっと、本社のスタッフの誰かだと思われてるはずだけど……)


 とは言うものの、現実では聞いたところで何も話してくれないのだ。

 もしかしたらゲーム越しなら、と思いログインした。


「やぁ……って、クライス君だけかい? 2人は?」

『アルフィさんお久しぶりです……まぁ、その色々ありまして……』

「喧嘩かい?」

『そうみたいですが、どうも、拗らせてしまって……』


 ゲーム内には昴1人だけのようだった。

 その昴も特に何かをするわけでなく放置状態。おそらく彼女達をなんとかしようとしてログインしているだけなのだろう。彼も手を焼いている様子だった。


「う~ん、あれだけ仲良さそうだったし、早く仲直りして欲しいところだけど」

『実際に仕事の方でも……あ、もしかしてアルフィさんって……?』

「ははっ、バイト頑張ってるみたいだね。僕の中身は誰かというのは内緒で頼むよ」

『それはちょっと残念』

「と、ところで喧嘩の原因とか聞いているのかい?」

『平……フィーリアさんの方が、凄く傷つける言葉を言ったみたいで……』

「なるほど……」


 どうやら平折は、昴にだけは少しだけ話していたようだった。

 それだけで特別な存在だと思っているのがわかる


 またこの会話から陽乃には、薄っすらと思っていた原因が確信に変わった。



 ――あの2人、お似合いだと思いませんか?



 きっと平折は、それに類する言葉を凛に言ってしまったのだろう。

 それを思うと、頭痛と共にため息が出た。


(私でさえ、ちょっとどうかなーって思うくらいだし)


 どういうつもりで平折がそんな事を言ったかはわからない。

 だけど言われた凛が、どう思うかは容易に想像が付いた。


 そして今の凛の態度から、どれだけ平折に心を寄せていたかというのも理解してしまった。


(そりゃあ、凛さんも傷つくよね……)


 解決策があるとすれば、平折が本気の想いで凛にぶつかることだろう。凛が平折に本音でぶつかったように。


 しかし今の平折は、何か歪とも言える想いに、自分を縛られているようだった。

 それは何かわからない。

 ただ確かなことは、このままだと平折の言葉は、凛に届かないだろう。


 そして陽乃には、平折の心を動かし解き放つだけの言葉を持ち合わせては居ない。


 歯がゆかった。


 姉妹と言っても腹違い。それに今までずっと没交渉だったのだ。

 平折の心を動かせるほどの存在にまでは、至っていないという自覚もあった。


 もし彼女の心を動かせるとすればそれは――


「クライス君、今すぐフィーリアさんと話をするべきだ」

『俺、ですか?』

「きっと彼女は今、君の助けが必要なはず。根拠は無いけど! でも、このままじゃダメになるのは目に見えているだろう? さぁさぁ、早く早く!」

『こ、根拠無しですか……でもそうですね、ちょっとじっくりと話してみます』


 そう言って、昴は離席状態となる。

 多少強引だった気もするが、きっと昴ならば何か事態を動かしてくれるという信頼感があった。


 それとは別に、陽乃には気になったこともあった。


(アルフィが私だって、気付かれていないよね?)


 今までもスタッフの様に装ってきたし、大丈夫だと言い聞かせる。

 別に正体をバラしても良いのだが、なんとなく今更な感じがして気恥ずかしかった。


「出遅れた、よね……」


 ふと、無意識のうちにそんな言葉を独りごちていた。

 思えば気付いていなかっただけで、運命の悪戯としか言いようの無い出会いを果たしていたのだ。


 もし、少しだけ何かの歯車が違っていれば、今とは違ったものになっていたかもしれない。


 そんな未練にも似た思いを振り払うかのようにログアウトした。


「あーあ、なんだか気疲れしちゃった」


 気分を切り替えようと、わざと大きな声を出し、そのままポスンとソファーに倒れこむ。


 今頃昴は平折と話をしているのだろうか?


「あー、もぅ!」


 そう思うとなんだかもやっとした気持ちが膨れ上がり、ゴロゴロとソファーを転げまわる。

 転がりつつも、きっとすぐに忙しい状況になるに違いない――そう思った矢先の事だった。



 ――~~~~~~♪


「――ッ?!」


 陽乃のスマホが鳴り響き、画面に映し出された名前を見て凍り付いてしまった。


「お父、さん……」


 ――有瀬直樹。


 自分と異母姉の実父。今回の件だけでなく、様々な物の原因となった存在。


 陽乃は激しく困惑してしまった。

 このタイミングでの電話に、嫌な予感と冷や汗が止まらない。

 わざわざ掛けてくる理由も思い当たらないし、碌でもない事に違いない。


 だけど、この電話を無視するという選択肢だけはなかった。


『陽乃か? 色んな所・・・・で元気そうな姿を見て安心したよ。あぁ、なにやら色々と面白そうな事・・・・・・をして頑張ってるみたいじゃないか』


「……っ、えぇ、おかげさまで」

『誰が描いたシナリオかな? 中々に良く出来ている。私としても、してやられた気分だよ』

「……それで?」


 それはまるで、お前のやってる事はお見通しだと言わんばかりの言い様だった。

 もったいぶるような言い回しに、陽乃は苛立ちを募らせていく。

 しかし陽乃とて、幼い頃から業界で揉まれた経験がある。きわめて冷静になろうと努め、その頭を回転させていく。


 有瀬直樹にとって、陽乃は切り捨てた駒のハズだ。

 現在の自分の立ち位置を考えると、とても手元に戻って来るとは考えていないハズ。となると目的は1つ、揺さぶりだ。


 他の多くの仕事がそうであるように、モデルもメンタルが非常によく作品に反映される。

 表情の機微なんていうのは、精神状況にかなり左右されるものだ。


 望んでなったとは言えないが、陽乃とてプロとしての矜持があった。

 心を強く持つ一方、これ以上話をするのは危険だと判断する。


「それだけですか? 他に用が無いなら――」

『いや、忠告をしようとおもってね。アレ・・はまだまだプロ意識に欠ける。せっかくだから面白いものを見せてあげようと思ってね、スキャンダルに注意をした方が良い』

「何を……」


 そこで電話は向こうから切られた。

 何を、だなんてわかっている。平折以外にありえない。


 すぐさま送られてきた画像に、陽乃は驚きの声を上げてしまった。


「なに、これ……」


 もしこれが発売後に流されると、売り上げ的に大打撃を受けかねない画像だった。


 そこに映っていたのは、夜半に手を繋ぎながら民家に入ろうとする平折と昴の姿だった。

 異母姉の顔は、昴を信用しきっており、撮影では見たことも無い笑顔を見せている。

 赤の他人である男女が描くには、あるまじき光景だった、


 第三者が見れば、仲睦まじい恋人の姿以外ありえない。


 それゆえに、凛に昴を譲ろうとする平折の態度の理解に苦しむ。


「好きだけどダメみたいなこと言ってて……どうして?! わたし、おねぇちゃんの事が分からなくなっちゃったよ……」


 陽乃の心の中に、平折に対する不信感にも似た思いが生まれていく。


 有瀬直樹が揺さぶりの為に送り付けた画像は、彼の想像を超えた成果を発揮するのであった。

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