第2話 マクロの記録機能が便利すぎるのが悪い

エラー。


何の知識も持たないが、デバッグボタンを押す。あらわれる新しいウィンドウとプログラム。まずい、意味が分からん。とりあえず止まっていると思われる黄色い行を確認する。Sheets(”設定”)?これはシート名で指定しているのかと当て推量。エクセルのシート名を確認し、「設定(新)」という怪しげなシートの名前を「設定」に変えて、もう一度実行する。


動いた。えぇ・・・


その後、上長に新人教育かプログラミングのどちらがやりたいかと聞かれて、プログラミングと答えた私は、マクロを作りまくった結果部内でモテモテのイケオジ先輩に弟子入りすることになった。とりあえず、エクセルはアプリ、ブック、シート、セルという単位に分けることができ、それぞれに対して何かをするという指示を書いている、ということ。VBAという言語で書いた成果物がマクロということ。「=」を使って変数を指定していること。を教えてもらう。これを知っただけで、業務に現れるほとんどのエラー行で何を要求されているのかはわかるようになった。我ながらびっくりである。確かにプログラム自体は英語だらけだが、結局のところ 「ワタシ は アレをします」が基本であり、それがループしている。あとはシートの名称として指定されている変数が何を元に設定されているかを見に行けば、構造は理解できる。


あとはエラーメッセージをなんとなくふわっと分かっていればいい。ここは完全に理解を放棄してしまった。エラーの種類は、全部を覚えられるほど数が少ないわけがない。だがそんなときに私をいつも助けてくれる友がいる。そう、GoogleChromeくんだ。検索画面に「VBA スペース エラーの内容」を打ち込むことが日課になったが、そのおかげで既存のマクロのエラーに対しての抵抗感はなくなった。


そう、2年にわたり私を脅かし続けたエラーの魔物は、ここに屈したのである。序章で倒した宿敵が、強化されて出現したり、精神世界で煽ってきたりするように、私にとってこのエラーは、対処する方法を知ってしまったがゆえに、何度倒しても現れ、そのたびに対峙しなければならないバケモノとなってしまった。吸血鬼を殺す方法を知ったものは、吸血鬼を殺し続けなければならない宿命と同じである。いや、違うかもしれない。


そんな未来が待っているとは知らず、ムクムクと私のなかで欲望が立ち上がる。「You,マクロ書いちゃいなよ」悪魔のささやきである。試しに自分の業務でこうならいいなと思っていたものを作ってみることにした。しかし今まで読んでいたものを自分で書け、と言われてすんなりうまくいくわけがない。「新潟」の漢字しかり、漫画しかり、読めるからと言って書けるわけではないのだ。


しかし、他のプログラム言語と一線を画す便利な機能がVBAには存在した。「マクロの記録」である。自分でエクセル上で行った手作業をVBAのプログラム形式に書き起こす、翻訳機能である。あとは生成されたプログラムを適宜変数に書き換えて、ループ処理などを組んでいけば、それっぽくマクロとしては出来上がる。


私はエクセルマクロを作ることができてしまった。これがすべての悲劇の始まりである。

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