〇〇ショック!?
「嘘だろ……」
「ほら、言わんこっちゃない!」
早朝ホームルーム前の十分間。
別棟二階の自販機前に呼び出された俺は、開口一番に票数が左右された旨を伝えた。
だが白倉は無愛想に溜め息を漏らす。
疑問視すると、公式サイトに飛ぶようにと指示をもらった。
不明な意図を解決するべく素直に開くと、我が目を疑うとは正にこの事。
昨夜勢い付いたマジックの票数以上に、ノベルトの票が膨れ上がっていたからだ。
基から探ると、呼び掛けのテキスト投稿をきっかけに電子掲示板にて【ノベルト当選させてMD泣かそうぜ】というスレッドが立てられた。
ごく一部の悪ふざけに過ぎないと軽視していたが、面白半分での賛同者が多く参加。スレ設立から一時間も絶たない内に集まり始め、今に至る。なにそのショック現象。
「どうするんでしょうかねぇ、このじょうきょ~。締切は明日、勝てる自信あるって言ってませんでしたか~?」
悪意に満ちた笑顔が作られる。わっるい顔……でも可愛いのが腹立つ。
「あのなぁ……普通ここはお前も一緒にショック受けなきゃならない場面だぞ……?」
「そりゃそうだけど、モッキーを奴隷にしたいのが今一番の楽しみなんだよね~」
だから現状維持だってばそれ。これを上回る程の関係性ってなに。犬扱いか?
首輪掛けられて公然で散歩させられたら確かに屈辱的だな。
「さぁて、ここからどうやって巻き返してくれるんでしょうかねぇ、モッキーく~ん?」
可愛い……可愛いけどムカつく。メスガキ臭ぷんぷんな挑発に拳を震わせる。
落ち着け石森爽真……ウェイトウェイト……。逆の発想をするんだ。今日含めて投票権利はまだ二回ある。
「……ぐ」
けどやはり不安だ。
不覚にも、軽率にアナウンスが流れてしまった為に好ましくない結果を招いた。
迂闊に手を出さず放置していれば、自然と票数は傾いたかもしれない。
一気に獲得しようと欲張ったのが仇になった。
そこからどう逆転劇を披露すれば求める結末に運べるのか。
……たらればは思い付くのにまともな案はスッと出てこない。神よ降りてこい!
「どうしよか……」
「どうしようも何も、大手に頼るからよ~。アタシみたいに普通に投票していれば勝ててたかもしれないのに~」
「元はと言えばマジック当選させてほしいってお願いしてきたの白倉だろ……?」
「でもクソMDの力借りようとは一言も口にしてないも~ん。モッキーが勝手にヒートアップしてこの結果に持ち込んだんでしょ~?」
ぐうの音も出なかった。
「ああそうだな、悪かったよ……。ところで、今日の分はもう押したのか?」
「もちよ~。やっぱ人間、楽より地道の努力が必要なんだから~」
ギャルの台詞とは到底思えないな。
「モッキーも早々に負けを認めて、今日と明日の残り二日間頑張っていこうよ」
奴隷を受け入れろってか。変化一切無しだけど、そうはさせねぇ。
「いや、まだだ。その残り二日で勝ってみせる!」
「な~んでそんなに躍起なワケ~……?」
「負けたくないから」
首輪掛けられたくないし……確定ではないけど。
「それと、大切な特撮仲間の頼みを……叶えてやりたい……しな……」
喋っている途中で深く恥じ入ってしまう。くさい台詞は自分なんかには似合わないと理解しているのに、無意識で発言を行うとつい口を滑らせてしまう。先日この恥ずかしさは味わったってのに、まったく進歩していない。
一体何回繰り返せば済むんだ俺は。
「うげ~……な~に一丁前な台詞使ってんの……。マジきも……」
白倉からも赤点評価をいただいた。正しい採点です。
「ま、どんな手を使うかは知らないけども、頑張ってね~」
閉めの言葉が入り、早朝の特撮ミーティングは終止符を打たれた。
背中を向けつつ手をひらひらと振り、白倉は自販機前を去る。
彼女が先に戻るのは、疑いの目を掛けられない為だ。
一緒に帰ると〝実は良好な関係なのでは〟と勘繰られる。本人によると、今の関係性が露見すれば死活問題に直面するという。
最初から最後までしっかりと練られた作戦から、計画力の高さを思い知らされる。
すたすたすたすた……っ。
なんだ、今回の足取りは妙に速いぞ。
常にのったりと歩を進めているのに、亀が兎へと形態変化した。
何だか俯いて顔押さえてるし……具合でも悪いのか。
▲▲▲
「さて、どうしたものか……」
気分を宥めようと今晩はホットコーヒーで挑む。
パソコンにかからないようにと少し距離を置き、画面を覗く。綺麗に羅列されたマスクド戦士の主人公たち、名前の横には現在の投票数が表示されてあった。
数が多ければ順位が上がるランキング形式、その一位と二位に焦点を当てる。
一位:ノベルト 四五三、一四五票。
二位:マジック 二〇〇、〇五〇票。
圧倒的差なのは猿でも分かる。とても今日明日で追い越せる数字じゃない。
ノベルトの票は尚も伸び続け、留まるところを知らない状況だ。
昨夜は泣き叫んでいたリアも、今夜は上機嫌で高笑いしている。
『ざまぁみろMD。ノベルト様を落とそうとするからこうなるのよ。バァァァカっ!』
見えない相手に対しての冒涜は、客観的から非常に奇行極まりない。
念のため警告も兼ねて壁を一発殴ると、凄まじい音が返された。恐らくキックだな。
命の危機を察知し、肩をすくめて大人しくコーヒーを飲む。
カップを遠めに置いてからSNSを開き、タイムラインを画面に出す。
【まあ、ノベルトが来ても良いんだけどね。ぶっちゃけマジックより好きだし】
拡散されたMD氏のテキストは、天邪鬼方式を狙っていた。
右に行けば左に向かう捻くれたアンチの特徴を掴んでさえいれば、操作するのは簡単だ。
最後、マジックを貶したかのニュアンスも作戦の一部である。
わざと反感を買わせる文章に置き換える事で対象者の同情を誘い、慈悲から票を入れてもらう。勿論マジックファンを敵に回すデメリットもセットとして付いてくるが、今はこれしか方法が無い。
ここからどう動くのか、どのような成果になるのか。
直ぐに判明する訳がなく、一度時間を置こうと席を立つ。
今日は母親が早く帰ってくるし、久し振りに温かい飯でも作ってやろうと自室を出る。
▲▲▲
【別のマスクド戦士当選させてMD泣かそうぜ】
電子掲示板に新たなスレが立てられ、ノベルトでもマジックでもない、別の戦士に票が集まり出したのを翌日の朝に知った。
「なんでこうなるんだよ……」
単純な考えと油断したのが敗因となり、公式サイトを定期的に更新するとノイズやタイムなどのワーストに属していた戦士たちがグンと伸びている。
残り千近くまで縮めれたってのに、思わぬアクシデントだ。
「あ~あ。最終日にとんでもないハプニング起こったね。もう無理そうかも~」
カミングアウトしてくれた二階廊下の自販機前。
勝てる見込みが無いと判断してか、白倉がスマホをポケットに仕舞う。
俺との賭け事に有利な立場にいると知りながらも、表情は沈んでいた。
推しと握手したいが為に相談を持ち掛けてきたのだから、残念がるのも無理はない。
素直に諦める態度が、潔くも寂しそうに見えた。
だから俺は。
「いいやまだだ。まだ今日がある。今日で逆転できるはずだ!」
最後まで諦めない。
「なんで~。もう収集できないところまで散らかってるんだよ。モッキーそんなにアタシの奴隷になりたくないの~?」
「当たり前だろ」
逆にどうして受け入れる姿勢を俺自らが取ってくれると思ったんだこの小娘は。
「それに、やりたい放題されて負けるなんて……嫌だろ?」
「確かにそうだけどさ~……どう巻き返しに出ようって言うの。一回しか投票できないんだよ~」
制限システムについては俺だって知ってる。今日の分だって既に入れてきたから、石森爽真アカウントは操作不能だ。
だとすれば、方法はひとつ。
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