三つ巴の戦い
実験体シャーク・アームズはすぐに見つかった。動きは遅く、断酒王がその場に着いた時には青蜥蜴の構成員が囲んでいた。辺りは酒の臭いで満たされていた。
「包囲が完了しているのに捕らえられないのか。」
「無理だ。こちらの攻撃は通じない。近付けば補食される。正直、あれを生きたまま捕まえるのは不可能だ。」
近くにいた構成員はそう答えた。
「選手交代だ。俺がやる。お前らは周りの警戒でもしておけ。」
「神達流当主、神達登。推して参る。」
断酒王は、刀を抜いてシャーク・アームズに向かっていった。
断酒王が手にした刀は妖刀である。名を酒断ち。酒呑童子の討伐に使われたこの刀は、現代まで受け継がれていた。
シャーク・アームズは、両腕のサメを振り回して木々を倒し始めた。断酒王は倒れてくる木々を難なく避ける。しかし、シャーク・アームズの目的は攻撃ではなかった。森の一画に広場ができつつある。それこそがシャーク・アームズの意図であった。
両腕のサメを前方へと構え戦闘態勢をとるシャーク・アームズ。対する断酒王は正眼の構え。必殺の間合いまではまだ遠い。
「…さ………さ…け…」
森の先から声が聴こえた気がした。そして、周りの気配が少なくなっていく。
1人。また1人。それは青蜥蜴の構成員を倒しながらこちらへと近づいてくる。
「…さ…酒………」
森の中で異常事態が起きている。断酒王はそれを感じとるも目の前の敵からは目を離さない。しかし、シャーク・アームズの6つの瞳は、断酒王の後方を睨んでいた。
「酒…酒の…匂い…」
それは、断酒王のすぐ背後まで迫って来ていた。感じとれる気配は既に3つのみ。嫌な予感を感じた断酒王はその場から大きく跳び、横へと逃げた。
「酒酒酒酒酒酒!!きゃははは!!」
森から人影が飛び出てきた。断酒生活も2週間を超え、限界を迎えた神崎ひかげである。
ひかげは一直線にシャーク・アームズへと向かっていった。その様は黒い弾丸。視認できるのは残像のみ。
シャーク・アームズの両腕である、2頭のサメは大きく口を開けて神崎ひかげを迎え撃つ。孤を描いて神崎ひかげを襲うサメ。しかし、真っ直ぐに向かって来る神崎ひかげが懐へ入る方が速かった。
大きく踏み込む神崎ひかげ。そこから繋がるのは限界酔拳の必殺の一撃。
ドン!!!!
と、轟音が森に響く。シャーク・アームズの懐へと入った神崎ひかげは、カウンターの形で頭突きをもらった。
シャーク・アームズの武器は両腕のサメだけに非ず。神崎細胞で強化された他の肉体もまた、人間の領域を越えた兵器である。
シャーク・アームズの懐で踞る神崎ひかげ。その隙を見逃すほど敵は甘くはなかった。
「馬体一刀!!」
断酒王は、懐で踞る神崎ひかげごとシャーク・アームズを横斬った。
馬体一刀。それは向かって来る騎兵の馬を横一閃に斬り伏せる大技である。しかし、斬られたはずの神崎ひかげもシャーク・アームズにも外傷は見当たらない。断酒王は刀を振り、まとわり付いた透明な液体を払う。それは酒であった。
妖刀、酒断ち。それは肉を断たずに酒を断つ刀。酒を呑めば呑むほど強くなる酒呑童子。その鬼から酒気を奪う事にのみ陰陽道の尽力の限りが注ぎ込まれた霊刀である。
酒を抜かれたシャーク・アームズは怯み、その隙に神崎ひかげは間合いをとった。シャーク・アームズはまだまだ強い酒気を帯びている。それにつられて神崎ひかげは再びシャーク・アームズを襲う。
「させるか!!」
断酒王は神崎ひかげを斬る。その身体から酒が抜けて力も抜けていく。
サメは攻撃を終えた断酒王を襲う。それを大きく跳び引きギリギリで回避した。
シャーク・アームズを倒して酒を飲みたい神崎ひかげ。シャーク・アームズを殺させないために神崎ひかげを牽制する断酒王。牽制した隙を逃さないシャーク・アームズ。
三つ巴の膠着状態へと場面は移っていた。
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