第6話 40



宮崎空港ゆき にちりん9号は2番乗り場です

と、明るい女声アナウンス、自動音声に誘われて


下りホームへ向かうのも、一旦地上に降りて

高架に登るが


エスカレーターがあるので、どうと言う事はない。

都会と違って、エスカレーターを駆け上がるような

慌ただしい人も見かけない。



そのあたりが好ましいなぁと、ホームで列車を待つ。


風吹き渡る高架ホームは、それなりに爽快感があって都会の駅では

通勤通学の時など、リフレッシュできた。



そんな事を思い出しながら。



宮崎空港ゆき「にちりん」は、始発なので

ゆったり座れる。


ハイパー・サルーンと言う電車で、車両の真ん中に

入り口のある、おもしろいデザインだ。



室内がちょうど半分に分かれるので

騒音も半分になるし、なにより相互に存在を意識するあたりが

日本人らしく、気遣いをして好ましいと

そういう評価もある。



都会のように、相互に認識をしなくなると

良からぬ事をしても、発覚しなければいい。


そんな感じで、無秩序状態になってしまう。



例えば、さきのエスカレーターの話もそうだ。

東京では、エスカレーターの右を開けて置かないと

歩いてはいけない、エスカレーターを歩く者に

押し倒されたりする。


正しく法を守っている者が、無法者に譲歩する。

そんな事が起きている、日常的に。


電力利権もそうで

電力会社は何をしても損しないように

電気料金を決めて良いという法律を作ってしまって


それで、要りもしない原発を乱造する。

その費用を庶民に払わせる。


爆発したら、放射能処理費まで

庶民に払わせるのだ。



払わなければ、電気を止めると傲慢な商売をしている。




それが、利権に群がる者たちの利益に

なっていたのである。




悪いのは、電力会社だけではなく

利権構造そのものがダメだと


左翼政権の当時の政府は、関東電力解体を決めた。


途端、何故か過去の関東電力女性幹部殺害事件が

冤罪だとして、被告は釈放された。


なぜか、右翼のある知事が

中国との領土問題を紛争化し、左翼政権は転覆。


そして、右翼系が結託して原発利権復活を企てる。


渦中の会長・社長が抹殺、会長令嬢までも。



誰の仕業だろう?



動機があるのは、左翼系ではあるまいと

輝彦は思う。



かつて、オウム真理教事件の時も

村井幹部が、「資金一千億円」などと口走ったとたん

右翼を名乗る粗暴犯に刺殺されたことが

連想される。



あの時、官僚組織に対するテロ行為が元だった。



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特急列車なので、新幹線のように

客室の壁にニュースが流れ



-反原発、第三極結集へ-


政治家のスローガンは宛てにならないが

少なくとも真反対の事は言わないだろう。


今まで、原発を食い物にしてきたのは

長年政権を執ってきた右翼系政党である。


それが終わり、左翼系政権になった時に

原発事故が起きた。



復興そっちのけで、政権争いをしたのは

その、右翼系政党だ。



そして、領土紛争を工作したのは

元、その右翼系政党にいた関東のある知事である。


そんな事をしなければ、隣国も怒らなかっただろうに。



政権転覆、選挙。



そこで、反原発政党が出来た、と言う。



つまり、4つの殺人事件が、もし事実隠蔽なら

犯人は今、保身に精一杯の筈だ。


選挙中に逮捕、などと言う事になっては

アウトだ。



左翼系、反原発系に

事件の当事者はいない筈だ。


動機が無いからである。



関連がありそうなのは、電力利権を作ってきた

かつての政権与党系、財界系、あるいは

思想犯だろうか。



仕組まれた政権転覆だったなら

事実隠蔽であったとしても


このタイミングで、関東電力会長・社長を消すのは

選挙に不利である。



であったとしても隠蔽したい事実。



それは、過去の女性幹部事件への

会社ぐるみの関与、あるいは政界の関与の事実ではないだろうか。




捜査の手が、左翼系政権によって

そこに伸びた。



当時の官房長官は、弁護士でもあったので

何かを掴んだのではないだろうか。



意外にすんなりと、関東電力解体に向け

国有化が出来た理由は、そのあたりではないのだろうか。




列車は、スピードを上げて

山あいに向かって行く。


取材先の臼杵は、古い街並みのある城下町で

落ち着いた、静かな場所であり


隠れた名所だったが、近年は

大林宣彦さん、と言う映画作家が

詩情のある映画の舞台にした為か

観光客が訪れるようになった。



古い石の仏像があったりするので

それを模したものが、駅前に出来たりして

観光誘致に、地元も頑張っている。



そこで、取材の依頼となる訳だが(笑)


これと言って特徴の無い静かな街なので

興味を引くような記事になるか、は

疑問ではある。


が、仕事である(笑)



電車は、考えに耽る輝彦の視界に

風景を見せつつ、駆け抜けて行く。



関鯖・関鰺が有名な佐賀関にほど近い幸崎。



そうそう、佐賀関のそれも観光資源として

開発されたものである。


ブランド魚なので、高値が付くが

近隣の、例えば津久見や臼杵に上がる魚も

味は負けず劣らずだと地元民は語る。


幾度も来訪した事があるので、足で

そう思う輝彦である。



地方の街は、どこも街興しに頑張っているが

そうした資源の無い所に、原発開発の魔手が伸びる事がある。



マスメディアでは禁句となっている、被差別部落など

雇用に困窮する自治体などは、目標にされる事が

よくあり

そんな時、原発が危険としりながら

誘致をしてしまう、等とも聞く。



謂われのない差別なのだが、実際雇用となると

できればトラブルは避けたいと思うのも人情で


そうして、職にあぶれた人達を

自治体は生活保護などで支えてあげなくてはならず


その為に、また雇用の受け皿として

原発を受け入れれば、雇用も発生するし

莫大な補助金も手に入る。



そんな事情もあり、地方には原発が林立したが

その原資は、税金ないし電気料金である。



電気料金に、そうした金を上乗せして良い、と言う

法律だから。




都会人にはあまり縁のない視点であるが

そうした事を有り難いと感じる人々も

地方には多い。




差別に根ざす貧困は、国が解決すべき問題だと

国策としての雇用開発の一環として

原発が利用されたのは否めない事実である。


原資を、電気料金として

国民から得られるので、便利とばかりに


それを利用して、私腹を肥やす者が出てきた。

それが原発利権の起こりである。



電力会社は、その一部でしかない。



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電力会社側にも、いろいろな考えの人間が居て

原発を嫌い、自然エネルギーの研究をする人なども居る。


大きな組織になると、そういう風になるのは

輝彦にも理解はできる。

学校などはそうだし、むしろひとつの考えに

固まってしまう方が気持ち悪いと思う方が

自然だ。


ひとそれぞれ、である。




輝彦は、リクライニング・シートを倒して

のんびりと旅を楽しんだ。


ほとんど無人の車内は、快適そのものである。



手元の携帯電話で、ニュースを見たりしていると


清水正恒社長の経歴に意外さを感じた。

父親も関東電力の社員で、文化系の「いい人」。


そういう評判だったそうだ。


原発事故さえなければ、今も安泰であっただろう人生。


父親も電力社員と言うあたりは、消された

女性幹部と同じだ。



清水自身は、格別原発派、と言う訳でもないらしかったが

理系でないせいもあり、目立った活動はない。



どうも、勝俣孝久会長との接点はなさそうだが

なぜ、清水は勝俣家から嫁を貰う程の関係になったのか。



謎であり、そのあたりに事件の背後関係が

あるのかもしれない。



山越えをした特急にちりん9号は、海辺を走る。


のどかな漁村風景に、造船所の重厚な佇まい。




宮崎県もほど近いが、野生生物の生息地である

こんな場所にも原発建設が予定され

反対運動が紛争化した事もある。


結局、福島原発事故で中止になったのだが

そうした紛争時に、警察官僚の天下り達が

役に立った、と言われる。



今度の事件でも、おそらく。





車窓の海は静かである。

領土紛争が、すぐ近くの沖縄で起きているのは

事実なのだろうかと思ってしまう。



海岸ローカル線のような日豊本線は

入り江に沿ってカーブを繰り返しながら

着いた海辺の駅が、臼杵である。


ふぐの名産地で、ユーモラスな看板が

ホームにも掲げられていて、微笑ましい。


取材でまず見たいのは、北臼杵駅である。


特急は停車しないので、下車して

徒歩で向かおうか、と思い


列車が止まってから、デッキに立つ。


単線なので、ゆっくりと停車時間があり

長閑である。


向かい側から来る特急と線路を譲り合うのだ。



かつて、ドアが手動であった頃は

向かい合う列車のドアを開けて乗り移ったりする強者が

居たらしい。



スリ犯などが逃走する為、等々。






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