第5話 35




しかし。


輝彦は思う。



兄が、おそらく、と言ったように

今まで死んだ者達が「本物」であるか否かは不詳である。


仮に、過去の女性幹部殺害に関与していた事が濃厚でも

もう、死んでしまった者を逮捕して

取り調べる事も出来ない。背後関係を自白させる

事も出来ない。



何より、海外の事件である。

国際刑事警察に捜査依頼をしなければ

何もできず、現地法律で裁かれるだけである。



原発事故の際、批判が多かったように

関東電力には警察官天下りが多いので


原発事故、国内のそれですら

捜査される事すら、無かった。



国家的な組織犯罪なら

事実を暴かれそうになるのは困るだろう。


「本物」の清水、勝俣は

別に居るかもしれないのだ。


遺伝子照合や、歯形、骨格などで

調べる事は可能かもしれない....。


歯形?



今、気づいたが

歯形や骨格なら、彼らが医療行為を受けた際に

病院に残っているかもしれない。


歯科医などなら、捜査の網に漏れ

それら物的証拠を残しているかも、しれない。



それなら、遺体の身元は特定できる筈だ。



ふと、気づいて

鹿児島県警の名古屋刑事に、真智子事件の遺体が

本人かどうか確認をとったか、尋ねると




母親が確認しただけ、と言う返答であった。



それならば。

母親が事実隠蔽を企めば

身代わり殺人、の可能性もある訳だ。


何より、輝彦自身の会った真智子が

本物か否かも不明な訳で



身代わりの人格を元に推理していたら....。

行動そのものの推理は成立しなくなる。



とりあえず、分かる事から解析しよう。



輝彦は思った。


由布院の夜は更けてゆく。







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もとより、確証を求めたら

本人か否かは全て疑わしい。


真智子の母親を名乗る人物ですら

自称である。


いささか、SF的な話になれば

輝彦の兄だと信じていた電話口の人物も

本人との確証はない(笑)。


無論、冗談であるが


輝彦自身が、そう認識する事を

認知、と精神医学ではそう言う。


それが怪しくなる事を認知障害と言うのであり

精神分析学的なマニュアル、米国精神医学会発行の

司法判断の際使用する手引書、DSM-4などにも

記載されているくらいである。


それは冗談にしても、組織犯罪として

世界規模で行うなら、そのくらいの事は出来ると

言う事だ。


極めて大胆な組織犯罪だと考えれば

現状の推理は、こうだ。


輝彦は、露天風呂から

月明かりの由布岳を眺めつつ、白滝川のせせらぎに

心地よく旅情を覚えつつ、考えをまとめた。



過去、勝俣がまだ中間管理職だった頃に

国策である原発依存に批判的な部下が居た。


勝俣自身は、東大出の技術者であり

オタクなので(笑)人の気持ちが分からず

傲慢である。


その女性部下と、宜しくない関係になる。

それは、その反原発闘士、父親譲りの彼女の

自爆テロだった。

彼を失脚させる為の罠である。


こういう事はよくある。この会社に限らず。

ソニックのような会社にすらあった事だ。


それが、明るみに出てはまずいので

何者かが、処理をした。


外国人の犯行と言う事にして

事実隠蔽をした。


警察も政治判断で、それに協力をさせられた。


が。



原発事故が起き、当時の左翼政権が

関東電力の解体を実行し、利権が無くなった。


そうなれば、事実隠蔽に異論が起こる。


冤罪事件として、外国人が釈放されるので

関東電力は、清水・勝俣を切り捨てる。


同時に、過去の事件への

組織的関与を隠蔽したいが為に

口封じの為、彼らを消した事にして

海外へ逃がす。



そうして、国家賠償法の適用として

彼らの私財を没収、として

世論の目を誤魔化す。


実際には、本物の彼らは


国外に逃がす。


計画的に、原発事故直後から

替え玉とすり替えておく。

会長は、公式の場に出ず

社長も入院。


その間に、である。




そう考えると、全てが一本の線につながる。



左翼政権、当時のそれですら

支持母体に関東電力や、その労働組合が

名を連ねているが


ただ、政府で政権を握っていた人たちは

利権とは割と距離のある人達だったので


結局、利権側は我慢ならずに

政権転覆を企み、領土問題を紛争化。


隣国から、政権転覆を計る。


それは成功した。


そして、右翼系の政治家は

利権の回復を計る。



それで、上手く行く筈だったが.....。



海外に逃れていた、清水・勝俣(あるいは、替え玉?)

が、暗殺される。



そう推理すると、国内の事件は反政府勢力の意図だと

考えられる。


原発利権に関わりの深かった、かつての右派与党である。


あるいは、組織ではなく思想犯たちが

個々に起こした事件なのかもしれない。



だが、国外の事件は....。


余波として起こった、反日過激派の仕業であるかもしれないし


その、国内の組織的事件を知った者の義憤に駆られた

強行事件であるかもしれない。



ただ、真智子事件だけは宙に浮いたまま、だ。


輝彦は、そんな空想をしながら

温泉に浸かりすぎてしまった(笑)



ディナータイムである。



グランド・フロアの緑深いレストランで

豊後牛ステーキ、である。


放牧で有名なこの地のそれは、この上なく美味である。




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ステーキをおいしい、と感じるのは

それが、進化の課程で得てきた性質、生得的性質だからで


つまり、他の動物の肉を食べる事で

生命を維持してきたから、であると

進化生物学は教えてくれる。



でも、

狩りをして生活する事は今はない。


なので、同じ人間同士で攻撃しあったりする事で

狩りに使う行動力を発散している。


競争、フェアな競争ならまだいい。

そうではなくて、悪い企みをする者たちが

善良な人達の資産を取り上げて

それを窃用するのが、戦後横行してきた。


原発、電力利権もそうだ。


大人達はその仕組みを真似て

日本中に悪をまき散らすので

子供はそれを真似て、仲間外れにした子を殺める。



そういう者を諫めなくてはいけない。それが正義だと

輝彦は思う。


狩りの能力は、「悪」に向けて行くべきなのだが

いまは、政治も行政も「利得」に向けて狩りをしている。


愚かな事だと思う(笑)


金を不正な手段で得て、何をしようと言うのだろう。


金は、道具である。


それを使って豊かになる為の。



金を得る為に、心貧しい行動をするのでは

無意味な行動なのだが

それが分からない低俗な人間が、利権に群がる。



それを正す為に、警察があるし

警察の出来ないことを、探偵がするのだ。




むしろ、清々しい思いで

輝彦は推理をしていた。


正義の行動と言う意味合いで。






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その後、輝彦は再び兄に電話をした。

今度は家に居たそうで、母に気づかれないように

するのに難儀した。


また、すぐに帰ってらっしゃい、と言うに

決まっているので(笑)


とはいえ、今回は取材である。

事件の方は、巻き込まれただけである。



兄に、歯形か骨格の照合は出来ないか、と聞くと

出来ない事はないが、断定する程の証拠にはならない、と言われた。


もちろん、法廷ではないのでそれで良いと言うと

その程度ならできるだろう、との返答だった。



それを知ってどうするんだ、と聞かれたので

ただ、知りたいだけですと答えた。




そう言っても、兄も真意は理解している。


そうでなければ、協力などする訳もない。

官僚組織にいるからこそ、歪みを是正したいと

切に願うであろう。


輝彦も記憶にあるが、回りの様子伺い、根回しなどの

日本独特のおかしな行動は、みな

正しくない行動を全員でしているからである。


ミンナがしているから、しなくてはならない。

そんなおかしな法律はない。


そういう正しい事を言うと、排除されるのは

ミンナが悪い事をしているからである。


だから、事実隠蔽に関わらない怖れのある者は

集団に入れない。



子供のいじめはそれの模倣である。

簡単に言うと、動物レベルの排他性であり

何ら人間的な知性の欠片もない行動である。



それで輝彦はフリーの道を選んだ。

自分はそういう社会に向いていないと思ったからだ。




あの、真智子が恋人に選んだ彼もフリー。

真智子は、おそらく

父親が組織の泥沼に拘泥しもがいているのを見

自然と、自由に憧れたので

優しげな年上の彼に惹かれたのではないだろうか。



そこで、やや疑問なのは

その彼は、恋人が死んだと言うのに

さほど悲嘆しているようにも見えなかった所だが


元々、真智子がアプローチしていったと言う事なので

断る理由もないので付き合っていた、そういう愛なのかもしれなかったから

そう考えれば良いのかも知れなかった。


或いは。



真智子事件自体が、身代わり殺人で

本物は、清水の欲望を逃れるために

別の場所に居る。



そう考える事も出来る。


だとすると、彼女は。

彼のそばに居るのかもしれない。



清水の死を知って、安堵しているのではないか?




何しろ輝彦自身、関東電力会長令嬢の真智子、と言う

人物と

あの夜、東京駅で出逢った彼女が

同一人物か否かも知らないのだ。





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その後、輝彦は再び兄に電話をした。

今度は家に居たそうで、母に気づかれないように

するのに難儀した。


また、すぐに帰ってらっしゃい、と言うに

決まっているので(笑)


とはいえ、今回は取材である。

事件の方は、巻き込まれただけである。



兄に、歯形か骨格の照合は出来ないか、と聞くと

出来ない事はないが、断定する程の証拠にはならない、と言われた。


もちろん、法廷ではないのでそれで良いと言うと

その程度ならできるだろう、との返答だった。



それを知ってどうするんだ、と聞かれたので

ただ、知りたいだけですと答えた。




そう言っても、兄も真意は理解している。


そうでなければ、協力などする訳もない。

官僚組織にいるからこそ、歪みを是正したいと

切に願うであろう。


輝彦も記憶にあるが、回りの様子伺い、根回しなどの

日本独特のおかしな行動は、みな

正しくない行動を全員でしているからである。


ミンナがしているから、しなくてはならない。

そんなおかしな法律はない。


そういう正しい事を言うと、排除されるのは

ミンナが悪い事をしているからである。


だから、事実隠蔽に関わらない怖れのある者は

集団に入れない。



子供のいじめはそれの模倣である。

簡単に言うと、動物レベルの排他性であり

何ら人間的な知性の欠片もない行動である。



それで輝彦はフリーの道を選んだ。

自分はそういう社会に向いていないと思ったからだ。




あの、真智子が恋人に選んだ彼もフリー。

真智子は、おそらく

父親が組織の泥沼に拘泥しもがいているのを見

自然と、自由に憧れたので

優しげな年上の彼に惹かれたのではないだろうか。



そこで、やや疑問なのは

その彼は、恋人が死んだと言うのに

さほど悲嘆しているようにも見えなかった所だが


元々、真智子がアプローチしていったと言う事なので

断る理由もないので付き合っていた、そういう愛なのかもしれなかったから

そう考えれば良いのかも知れなかった。


或いは。



真智子事件自体が、身代わり殺人で

本物は、清水の欲望を逃れるために

別の場所に居る。



そう考える事も出来る。


だとすると、彼女は。

彼のそばに居るのかもしれない。



清水の死を知って、安堵しているのではないか?




何しろ輝彦自身、関東電力会長令嬢の真智子、と言う

人物と

あの夜、東京駅で出逢った彼女が

同一人物か否かも知らないのだ。





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仮に、真智子事件が身代わり殺人であるならば

当の真智子本人は、輝彦のイメージとはかけ離れた

鬼のような人間だと言う事になる。


もっとも、輝彦の会った女が真智子かどうか

確証は無いのだが。


伝聞にあるような、大学生の頃

清水に求婚され、身代わりに親類の者と

婚姻した事に苦悩するような、そんな人物では

ない、と言う事になる。



それも伝聞なので、真実とは限らないが。

そこからすると、輝彦の会った女は真智子本人の

可能性が高い。



事実だけで推理するべきだ。



輝彦は自答し、考えを打ち切って

今宵は温泉を楽しみ、眠る事にした。



ツインルームのシングルユースなので

広々と解放的。


ただの取材なら、楽しく過ごせるのだけど。






翌日、遅く起きた輝彦は

朝風呂に入り、朝食をバイキング形式で頂いた。


それから、10時36分の特急「ゆふ」で大分に向かう。

周遊きっぷは、特急自由席に

フリー乗車可能なので

快適である。


木目のインテリアは、著名な工業デザイナー

水戸岡鋭司氏の作であり

由布院駅は、建築家磯崎新氏のデザイン。


デザイナーズブランドのような鉄道である。


その効果もあってだろうか、JR九州は

黒字を計上、株式上場を目指せる所まで来ていると言う。


赤字必至の離島JR、と言われているが

やりかた次第では黒字にもなる例である。



関東電力のように、悪い政治家や財界人、官僚の

食い物になっているような例と好対照である。


どちらも同じように、広く庶民からの

キャッシュフローを受けている事には変わりない。


だが、違うのは

人々が望む物を作る企業と、そうでない物を作る企業だ、と言う事だろう。


そこに無駄が生まれる。無理が生じる。


無理を誤魔化す為に、無駄な金を消費する。



誰の為の国策なのだろう?



そんな事を推進する事は、国民の誰もが望んではいないと言うのに

原発が爆発してもなお、原発を続けようと言う

精神の異常な人達が、まだ政治家を名乗っている。


おかしいと誰もが思うが、お金儲けの為に

彼らを利用する人達が居るからだ。



東京駅で真智子に会った時は、控えめで上品な人だと

輝彦は思った。


だが、背景に原発マネーからの環流があると思うと

...。


それを肯定しようとは思わない人も

いるだろう。


真智子自身も、早くに親元からの

独立を実行したのは、そうした意味も

あったのではないか、とも思う。


若い娘の多くは、ある時期

父親的なものを嫌悪したりするが


まして、その父親が....。


部下の女性と不正な関係を持ち、殺めたとすれば。

それは妄想だが、そういう場合

それに怒りを覚える事もあり得る。



鹿児島県警の名古屋刑事の上司が言う所の

真智子自殺説は、そんな所に根拠を持つのかもしれない 。


父親のしていた事を知り、嫌悪感から殺害、

血を引く我が身に対する自傷行為で、自殺。


いまひとつ動機に欠ける、と

輝彦は思う。



もし、警視庁の兄の推察が正しければ

その時東京に居たのは、父親の替え玉なのだ。



父親と疎遠とは言え、間違える娘が居る筈も無い。



やはり、過去の女性幹部殺害の隠蔽殺人だろう。

真智子を犯人にして、被疑者死亡のまま、書類送検で

事件終結。



それで得をするのは?



原発利権復興を目指す連中だろうか。







列車は、50分程で大分駅に近づく。

高架の真新しい構造物が似合わない長閑な風景である。






列車は、のどかに揺れながら

大分へと、下り坂を転がって行く。






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