第3話 23

夕食は、好きなものを好きなだけ取れる方式のもので

バイキング、と

どこかの王様のような名前が付いているが


これは、日本だけの呼び名であるらしい。


高森田楽と言って

炭火、囲炉裏で焼いた川魚や、豆腐、里芋などを

竹串に刺したものを、甘辛の味噌で頂くと言う

山里らしい料理が、輝彦は気に入っている。


洋風ではチーズ、パスタからステーキに至るまで、

中華は太平燕からビーフン、回鍋肉など

様々な物があるが、変わったものでは

茄子を刺身で頂く、と言うものや


地域の名産である高菜漬の、混ぜご飯。


新米の季節であるので、ふつうのご飯も

ご馳走である。



デザートにはプディング、ヨーグルトからケーキなども

小さめでいろいろ食べられるように工夫がされている。


以前、母を連れてきたところ

大変喜んでいた事を思いだし、輝彦は

今度また母と来よう、などと思った。


母もいい年であるが、父が早くに無くなったので

独りにしてはかわいそうだと、輝彦は気に掛けていた。


それでも、縁談を気にして

輝彦が旅先で出会った女性たちと婚姻に至らない事を

母は随分と気にしているようだ。


今回のように、相手が死に至るような時は

母に知らせないで良かったと思う。


細かい事を心配するのが、高齢者の傾向である。

いろいろと経験しているので、連想する事が多いのだろう。




レストランで食事をしながら、そんな事を思っていると


高齢の婦人が、温泉の中で体を洗う女が居て

嫌だった、などと大きな声で話しているのが聞こえた(笑)

女同士のグループに良くある光景だが(笑)


食事の時くらい上品な話が出来ぬかと思う(笑)。



近年は品の無い人が老若男女問わず増えたが

それを不景気のせいだ、などと言うつもりは輝彦には無かった。



単なる癖だろう、と思う。

パリ、ロンドンの市民は


暮らしはずっと質素だし、貧乏だが

品を失う事はないように思えた。


日本でも、江戸から代々続く下町の暮らしは

貧しいが、しかし品格卑しい人は少なかったはずだ。


むしろ、少しだけ裕福な所の方が

品格に劣る人が多い事も、官僚社会を垣間見た

輝彦には良く分かっている。



そういう人は、成り上がりであったり

被虐体験があったりで


心に傷のある人が多いのだ。



不憫な事だと思う。



そういう人は、事件を起こしたりする事もあるが

それを輝彦は責めたりする気にはならなかった。




環境のせいだ、とも思う。


そういう悲哀を増やさない為にも、不正は正すべきだし


国家予算を不正に流用する類のものは

破壊しなくてはいけないと思う。


ひょっとしたら真智子も、そんな事を思い

親元を離れていたのかもしれない、などと

空想した。


高原の夜は静かに暮れて行く。



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翌朝、またのんびりと朝湯に入って

高原の温泉露天風呂を堪能した。


素晴らしい景色、いいお湯で

満足し、ゆったりと朝食を頂く。

好きなものを好きなだけ、と言う形式なので

つい食べ過ぎてしまう。


出かけてしまうと昼食は抜く事が多いから

ちょうどいい、とばかりに(笑)


パンとポタージュ、スパゲティ・カルボナーラ、

焼きビーフン、納豆ごはんと


数人分食べて、のんびりと一休み。


駅ゆきバスは9時56分なので

10時31分の立野行きには十分間に合う。

チェックアウトをすると、秋の新米2kgが

お土産だと手渡される。



リピーター会員向けのサービスだが


フロントに居た、昨夜のクレーマー老婦人連(笑)が

同様のサービスを要求していたのには

輝彦も苦笑。



欲というのは、そんなものだろう。

平和な社会で、不自由なく暮らし

なんの不平があるのか、と

思ったりもするが


無料サービスで、隣の人が得していると

損した気分になったりする(笑)



年取ると自制心が薄れてくるのは

脳の生理的メカニズムの為だ、と言われているので

攻撃的になったり、図々しくなる傾向にある。



それで、国のお金と自分のお金の見分けが出来なくなる。

仕事上の命令と、自分の自己顕示欲も同様に。


そういう人も多くなっているので

世の中が住みにくい。それで事件も起こる。


勝俣も、それで消されたのだろうか。


清水は、67にもなって30の女を妾に取ろうなどと

異常だと輝彦は思う。


それで事件になる。


愛があればそういう事にはならない、とも思う。


家族愛、郷土愛、愛国、愛社、博愛。


彼らにそんな気持ちが少しでもあったなら

不幸は起こらなかった筈であるのにな、と

空想した。







幸い、くだんの婦人たちは町営バスには乗らない模様で安堵した(笑)


高森駅から、南阿蘇鉄道に

のどかに揺られて


大分方面へは、豊肥本線で阿蘇の山越えをする。


但し、県境付近が災害復旧中で不通なので

代行バス輸送である。



立野より、宮地までは

普通ディーゼルカーで行き、とりあえず終着。

どこの地域でもそうだが、県境付近を越える列車は

数が少ない。


いつもは、この駅で1時間程度待つ事になるが

今回は代行バスなので却って待ち時間は少ない。

12時15分の豊後竹田ゆき直行である。



待ち時間を利用して、いつもここで昼食を取るが

駅前ベーカリー「リッチモンド」のパンがおいしいので


時折寄る。


列車の乗り継ぎ時間をきにしながら

レストランに行っても、美味しく頂けないと思うので

持ち帰りの出来るものが適当だ。



素材の工夫があるパンは、結構美味なもので

チーズが生地に混ぜられている食パン型のものや、

ふつうのサンドイッチ、焼きそばパン、カレーパンなど

学生時代を思いだし、楽しくなる。






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鉄道代行バスは、マイクロバスだった。

平日、火曜日の昼間なので

乗客は5人。


ひとりは、アメリカンレディだったが

日本語が堪能で、「荷物見てて下さい」と

見ず知らずの輝彦に頼み、トイレに行く(笑)


陽気でいいな、と微笑むが

輝彦が泥棒だったらどうするのだろう(笑)


ドイツ人っぽい禿の大男と、英語で話していたので

カップルかと思ったが、そうでもないようだ。


国際色豊かな阿蘇は、そういえば世界一の

カルデラだと聞く。



宮地駅などは、まさに火山の上にある訳で

意識しなければ、そうとは思えない。



事件に至る要因と言うのも、そんなものだろう。

真智子と東京駅、日本食堂で出会った頃の自分も

そうだったと今は思う。



バスは定刻で発車し、宮地駅前を右折。

長く広い直線道路を、東へと向かう。



マイクロバスなので、あまり乗り心地は良くないが


空いているのを幸いと、「リッチモンド」のパンを食す。


最後尾のシートが好きなので、そこに座って

景色を眺めながら。



チーズが少し溶けたまま生地に入っていて

柔らかな食パン型。


表面は焼けたチーズがかりかりで。


非常に美味である。



その他、カレーパンは激辛、を食したが

さほどでもなかった。



よく、ビーフレンダンカレーを食べているせいかもしれない。



焼きそばパンは甘口であり、このあたりは

付近の女子高校の生徒たちの好みかもしれない。



輝彦の好みだと、ウースターソースできりっとした辛口か

ひょっとすると塩やきそばか、懐かしいしょうゆ味も

変わっていていいかもしれない、などとも思ったが


こってり甘口は、おかずになっていいかと思う。




道路は、諸処に災害の形跡を残し


谷間の部分など、仮足場のような木造の橋が組んであり

見事な造形は、一種芸術のようだと感銘を受けた。



そのように、工夫をして、力を加えて

得た物は尊いと思う。



同じ公共事業でも、要りもしない原発を

国の為を嘯いて、結局私利私欲にまみれているような

仕事とは大きな差だと思った。



誰しもそう思うので、殺害の動機は皆にあるような気もする。



真面目に原発の管理もせずに、事故を起こした会社の

責任者が、7億円の退職金を取るなどと言うと

誰もが殺してやりたいと思っても不思議はない。


思うのは自由である。




.... それで、真智子のフィアンセに動機あり?



の、可能性もある。



まずは、大分に着いたら連絡をとってみようと

輝彦は思った。



なんとなく、走っているバスから電話するのも

気が引けるし

列車乗り継ぎの合間でも、落ち着かない。



バスは、山間を抜け

明るい高原道路から、坂道を下ると


そこが竹田城、岡城址。



左手が線路で、坂の下が竹田の駅だった。




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