第2話 20
長閑な駅前でバスを待っていると
老人が歩み寄って来たので
ベンチを勧めると、老人は立っていたいと言う。
それが好きなのだろう。
傍目にはストレスフルに見えても、本人はそれで幸せな
事もある。
戦闘など好例であろう。
戦争反対、と言いながらデモンストレーションを繰り返す
反戦活動家は、誰に頼まれた訳でもなく
自らの行動力を「反戦」と言う戦闘に費やしている訳で
その意味では好戦的である。
殺された女性幹部と、その父親も
そういう種類の人であったのだろう。
好んで、電力会社の中で反原発活動をしなくとも
別に、普通に暮らしては行けるし
主義主張は、市民として匿名で行っても良い訳である。
と、輝彦は無難な考え方をした。
自らを危険に晒す事を好む人種もいる。
その結果、殺害されたとしても
闘士としては、有る種納得の生き様であったのかもしれない。
バスがやってきた。
老人はなぜかバスを見送ったので
輝彦は、町営バスで休暇村南阿蘇に向かった。
幾度も利用しているので、馴れたものだが
最初は町営バスを知らずにタクシーで1000円ほど費やしたが
200円で行ける事を知り、随分得な気持ちになったものだ。
人生もそんなものであろうと彼は思う。
同じ人生、楽して得な生き方をした方が良いと
いろいろな事件を見てそう思う。
何故か、そういう生き方を好まないと
事件に巻き込まれてしまったりもする。
殺害された女性幹部は、辱めを受けていたと
言われているが
本当は、我が身を投げ出して
関東電力の評判を落としたかったのではないかとも
推理できる。
自爆テロのようなものだが
結果的に殺害されれば事件として
その目的が果たされる事になる。
---バスは、10分程で宿に到達した。
公共の宿なので、見晴らしの良い場所に
広々と建てられている。
そこが気に入って、公私問わず
熊本に来るときには利用している。
阿蘇地方は、未だ活動中の火山の上に存在しているが
人々は、当然に日々を営んでいる。
逞しい、と思うし、実直で素晴らしいと思う。
安穏な事ばかりではなく、災いもしばし
この地を襲うが
淡々と、都度復旧を行いつつ
生きている。
旧跡を訪ねてみれば、例えば水利権の争いを防ぐ為に
古代に施された水源地の水分け水路、であるとか
政治の原初を思わせ、興味深い。
それこそが政治である。
分けあう事、争わぬこと。
利権を取り合う事ではない、と
古代より分かっていた筈であるのに。
金銭を奪い合う為に拘泥するのは
やはり卑小であると輝彦は感じている。
宿は温泉であるが、癖の無い
柔らかな泉質であり
そのあたりもお気に入りの理由である。
しばし、休息を取ろう。
名古屋刑事に連絡を取ると、その後
真智子の婚約者は、所在が掴めたそうで
フリーの彼は、諸処で仕事をしながら
生活をしているとの事であった。
真智子の件は、全く知らされておらず
愕然としていたが、事情もあって
親族には会わないようにしている為
葬儀には参列しない、との事であった。
事情と言うのは、少し気になる所である。
今は、偶然大分県の
ある民間研究に携わっているとの事で
輝彦は、連絡先を聞いた。
何かが、見つかるかもしれない。
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..婚約者が死んだ事を知らない、なんて男が
いるのだろうかと輝彦は一瞬思い、彼が
真智子事件の犯人ではないかと推理した。
何らかの理由で、勝俣家とは距離を置いているが
それだけでは動機に乏しい。
が、清水には動機足りうる
真智子を妾に、と要求する清水は
彼にとっては不快な存在だろう。
強要する清水が、根拠とする事柄が分かれば
推理は出来る。
仮に、女性幹部殺害事件への関与であれば
会長が清水を消そうとする動機足りうるが
先に死んでいるのは会長の方である。
真智子の婚約者だからと言って、殺人にまで
関与するとは考えにくい。
彼に会ってみれば分かるだろう。
意外な事だが、探偵としての勘のようなもので
顔に、大体出るものだ。
非科学的なようだが、悪い事をしていると
善良な顔にはならないものだ。
道理で、善良な顔は
そういう人のパターンが認識されているからである。
輝彦は、温泉露天風呂から
鋸山を臨む。
いつも、秋になるとここに来て
こうして山を眺めるのが楽しみである。
そして、湯上がりに美味を堪能。
山の幸、海の幸が豊かな
この地に居ると、探偵などはどうでも良い(笑)ような
気もしてくるが
今回は、真智子の母の望みでもある。
夫や清水と同様、国の隠蔽に関与している可能性はあるが
娘が死したのは、おそらく意外だったのだろう。
或いは、死んだ真智子も替え玉で
事実隠蔽の為に、探偵に依頼したのかもしれない。
どちらとも取れるようにも思えたのは
彼女が、長年財界に関わっている為に
それなりに泳ぐ事を心得た人であるためだろう。
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