決闘1

 とうとう、訪れた決闘当日。決闘場所は、普段は衛兵が使っている訓練場で行われることになった。どこから噂を聞きつけたのか、訓練場には城中から人が集まっていた。

 集まっている人の間では色々な噂が飛び交っていて、中には俺がクレアと駆け落ちをしようとしているなどという話まであった。どこから、そんな噂が出てくるのか?中には賭けをするものまでいるらしい。


「なんだか、大事になってしまいましたね」

「そうだな」


 ルイがそんなことを言うので同意した。俺はもっとひっそりやるものだと思っていたから、ここまで来て決闘が嫌になってきていた。

 俺とルイは物陰から訓練場を眺め、大きな溜め息をついた。できることなら、ここから工房に帰ってしまいたい。いっそ、レイアが来なければ決闘はなくなるのに。などと考えていると、訓練場が騒がしくなった。レイアが現れたのだ。


「来ましたね」

「そうだな」

「ケイもいかなきゃですね」

「そうだな」


 「はぁぁー」と、また大きく溜め息をつく。レイアが現れてしまったからには、出ていかないとレイアの不戦勝になってしまう。それだけは絶対に嫌なので、重い腰をあげ訓練場に向かう。

 俺の姿が見えてくると、訓練場は一層騒がしくなった。


「逃げずに来たのか、関心だな」

「お前もな」


 レイアは相変わらず、顔を見るなり憎まれ口を叩いてくる。俺は返事をするのも面倒くさくなって、適当に返す。

 俺とレイアが睨み合っていると、一人の男が俺達の側によってくる。


「今回の決闘、私が立ち会いを行わせてもらう」


 突然現れた屈強なその男は、そう宣言した。俺があっけに取られていると、ルイが彼の正体を教えてくれた。なんでも、近衛騎士団のもう一人の副団長アーノルドー・ゴルドーらしい。変な名前って思っていると、それを察したのかアーノルドーに軽く睨まれる。

 そこから、アーノルドーの仕切りの元、決闘の誓いを立て戦闘準備に入った。


「なんども言いますが、周りに被害を出すようなことは無いようにお願いしますよ」

「わかってるって」


 相変わらずルイに釘を刺される。もっと言えば、レールガンも基本的に使用しない方向で釘を刺されている。

 まぁ、レールガンを使えば勝てるだろうしな。それじゃあ、つまらないよな。だから、よっぽどのことがない限り、レールガンは使わない。


「両者、準備はよろしいか?」

「完璧だ」

「あぁ」


 俺とレイアが訓練場で向かい合う。俺は全身に魔道具を付けていたが、一見すれば身軽だった。それとは反対に、レイアは鎧を着込み剣を二つも装備していた。

 俺達は今か今かとアーノルドーの掛け声を待った。その時間を数分にも感じたが、きっとほんの数秒だったのだろう。


「はじめ!!」


 アーノルドーの掛け声と共に、俺達は走り出した。レイアは俺との距離を詰めるため、俺はレイアとの距離を開けるため。

 俺はレイアを近づかせないために、威力を抑えた魔道具で牽制攻撃をする。レイアはそれを剣で弾きとばしながら、近づいてくる。


「逃げずに正々堂々と戦え!」


 レイアが何か言ってくるが、俺は気にせずに攻撃を続けた。レイアの足元を泥にしたり凹ませたり、蔦を出して引っ掛けたり。持ちうる限りの方法で、レイアの行動を阻害してやった。

 野次馬達が若干引いているのを感じたが、気にせずに攻撃を続ける。段々とレイアの攻撃は、イラつきで荒くなっていった。


「貴様ー!本当に戦う気があるのか!!」


 怒りを露わにするレイアを見て、俺は作戦が成功したことに喜んだ。作戦とは簡単で、いかに相手の体力と精神力を削るかと言うものだ。そのための妨害工作だったというわけだ。

 特にレイアにはこの攻撃が精神的によく効きいたみたいで、怒りで剣筋もぼろぼろになっていた。


「これを使う気はなかったんだがな」


 俺が作戦の成功を喜んでいると、レイアがいきなり立ち止まりそう呟いた。レイアは手に持つ剣を鞘に納めると、腰に差すもう一振りの剣を抜き取った。最低限の装飾が施されたその剣からは、どこか異様な気配を感じる。

 俺は無意識の内に『解析』スキルを発動していた。そして、その剣のヤバさを理解した。


「消えろ」


 レイアがそう言って、剣を一振りすると俺の出した魔法が次々と消えていった。訓練場は何事もなかったかのように、元の姿へと戻っていた。所々にある窪みが魔法の痕を残すだけだった。

 そう、あの剣は魔法を消し去る魔剣だった。

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