報酬を受け取った次の日、俺は冒険者証が停止されているため工房に篭っていた。迷宮ダンジョンでの戦闘で、自分の戦闘力がまだまだ低いことがわかった。ジョブレベルも九まで上がったが、新しい魔導具の開発や今ある魔導具の改良も必要になってくるだろう。

 冒険者証停止が明ければ、迷宮ダンジョンにもう一度挑戦する予定だ。その為にも油断や慢心を捨てて、全力で攻略に臨もうと思う。揃えられるだけの装備を用意するつもりだ。


「ルイ、そこにある魔石とって」

「これですか?」

「そう、それ」


 ルイにとって貰った魔石は火との相性がいいものだ。これを使って作るのは、おなじみ『火玉ファイアボール』の魔導具だ。今はこの魔道具の改良を行っている。今の『火玉ファイアボール』は破壊力を重視した魔導回路を使用している。なので、少しばかし魔力消費が激しい。これを実戦で使えるように、破壊力と魔力消費のバランス調整を行っている。

 ルイから言わせると「そんなのもはや『火玉ファイアボール』と呼べる代物じゃないですよ」とのことらしい。なので、新しい魔導具は『焔塊ファイアボール』とする予定だ。


「ケイ、この魔導回路どう思いますか」

「どれどれ~」


 なんて言いながら俺とルイ、それから時々クレアが混ざって魔導具開発を進めていた。


***


 そんな生活を送っていると、ある日近藤が研究室にやってきた。なんでも、冒険者証を取ってきたらしい。ランクはブロンズだが、実力的にはアイアン級だったらしい。なので、俺達の免停が明けるまでに依頼をこなしてアイアン級になっておくとのことだった。

 俺はちょうど今、開発していた魔導具を近藤に試してもらおうと訓練場へ誘った。近藤は「魔導具!」と興奮気味に快諾してくれ、訓練場へ向かうことになった。


「こいつだ」


 訓練場まで移動すると、俺は近藤に一本の刀を渡した。この刀は迷宮ダンジョンで倒したミノタウロスの角を使った魔導具だ。近藤のジョブが『侍』だと聞いた時から、作ろうと思っていたものだった。

 剣型の魔導具は既に開発していたのだが、今回の魔導具はそれの改良版みたいなものだ。もちろん、色々とオプションも付ける予定だが、今のところはただの刀だ。


「抜いて、いいか」

「いいぞ」


 近藤は俺に了承を取ると、刀を鞘から抜き取った。現れた刀身は黒に赤が混じった独特な色を持っており、確かにミノタウロスの角で作られていることがわかった。

 「綺麗だ」と近藤が呟いていた。なんだか嬉しい気分だ。俺の横でルイも嬉しそうにしていた。


「試しに振ってみてくれ」


 俺がそう言うと、近藤は「わかった」と言って刀を振り下ろした。その流れるような動作は刀の達人のようで、近藤の努力もあるだろうがジョブやスキルの凄さを改めて感じた。


「どうだ?」

「少し軽い気もするが、いい感じだ」


 少し軽量化の魔法をかけ過ぎたみたいだ。改良の余地ありだな。

 次に用意しておいた丸太を切ってもらうことになった。近藤が刀に軽く魔力を込め丸太に刀を合わせると、丸太が豆腐のように切れていった。近藤は目の前の光景に驚いていたが、俺とルイには想定範囲内だった。元々の魔導回路が良いというのはあるが、やっぱり素材が良かった。あのミノタウロスの角は魔力伝導率がとても高く、それに刀に適した素材だった。そのポテンシャルを最大限引き出せるように、魔導回路を改良した結果がこれだ。


「すごいな。これが魔導具の力か」

「当たり前だ。俺が作ったんだからな」


 近藤は魔導具の凄さを改めて認識したようだった。もちろん、俺が作った魔導具がすごくないわけがないのだ。

 そこから、刀のテストを行いながら他の魔導具のテストを行っていると日が沈みかけていた。一通りのテストを終えて、俺達は工房へと帰ることにした。近藤はここで別れて、自主練をしてくるらしい。


「刀は次の迷宮ダンジョン探索までに完成させておくから、早くアイアン級になれよ」

「おう!すぐにな」


 そんなことを言って、俺達はそれぞれの家路についた。

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