ボス戦2

 立ち上がったミノタウロスからは、先程とは違う強い威圧感があった。なんだか、俺達と言うより俺を睨んでいる気がする。気のせいだろうか?


「これ、ヤバいんじゃないか?」

「だから!やめとこうって言ったじゃねーか!」


 ゴーズは頭を抱えて後悔していた。一緒にボス部屋に入ってきてるのに、今さら何を言うのか。

 そんなことを言ってる間にも、ミノタウロスは戦闘体勢へ入っていた。


「来るぞ!」


 マイクのその声と、ミノタウロスが走り出すのは同時だった。俺達はミノタウロスの直進上を避けるようにバラけてよけた。そのためミノタウロスを挟んで俺とマイク、ルイとゴーズに分断された。俺は色々な魔道具を持っているから立ち回ることが出来るが、ルイには難しい。


「おい!こっちだ!」


 俺は『鋼鉄槍アイアンランス』をミノタウロスに放ち注意を引いた。ミノタウロスは『狂戦士バーサーカー』状態になってからさらに体が硬くなっているようで、『鋼鉄槍アイアンランス』を弾き飛ばした。


「マジかよ」


 思わず声が漏れた。だが、『鋼鉄槍アイアンランス』のお陰か又は別の理由かはわからないが、ミノタウロスのヘイトは俺に向いたようだった。


「俺が注意を引くから、魔法でも何でも攻撃を打ち込んでくれ!」


 俺は身体強化の魔道具を起動し、駆け回りながら魔導式拳銃で弾を打ち込んでいく。だけど、弾丸は硬い表皮に弾かれダメージは与えられていなかった。

 ただ、ヘイトは俺に向き続けていたので、ルイの魔法やゴーズとマイクの剣による攻撃は確実にダメージを与えていた。


「こいつ!確実にダメージ与えてるのに、こっちを向く気配もねぇ。俺達の攻撃には興味ないってわけかよ!」

「そうですね。ケイさんだけを狙っているようです」


 俺はミノタウロスの後ろ方から聞こえてきた声に戦慄しつつ、何か打開策はないかと思考を巡らせる。

 所持している魔道具を片っ端から使って攻撃を仕掛け、打開策を探るが中々上手くいかない。ジリジリと魔力が減っていく感覚が、戦いの終わりへのカウントダウンとなり焦りを加速させていた。


「そろそろ、魔力が切れそうです!」


 ルイも魔力が底を尽きかけていて、焦っているのが声から感じられた。ゴーズとマイクもそろそろ体力の限界だろう。

 このまま攻撃を続けることが出来れば、ミノタウロスにダメージを蓄積させて倒すことも可能だろう。だけど、先にこちらが力尽きる可能性が高い。


「おい!ギルマスに最後に放ったやつとか、何か無いのかよ!」


 ゴーズの言葉で俺は思い出した。そういえば、持ってきてることを。つい、昨日使って壊れたままだと思っていたが、予備がルイの鞄の中にあることを。


「ルイ!鞄の中から、あれを出してくれ!」


 俺の言葉にルイはすぐさま反応し、鞄から言われたものを取り出した。ルイはそれをマイクへ渡し、マイクが攻撃の隙を縫って俺へ投げ渡してくれた。

 布に包まれているそれを、俺は取り出す。それは、爺さんとの試合の時に使用したものよりも威力が高い魔道具。『魔導式電磁加速砲レールガン 』だ。


「よし!こいつで決める!」


 俺は『魔導式電磁加速砲レールガン 』に魔力を込めていく。その間もゴーズ達が攻撃を仕掛け、少しでもダメージを与えていく。

 俺は方向を急転換しミノタウロスに向けて、魔力を込め終え歪な光を放っている『魔導式電磁加速砲レールガン 』を構える。


「よけろ!」


 その声で射線上からゴーズ達が飛び退く。ミノタウロスが目の前に迫ってくるのを捉え、確実に当てるために引きつける。

 ミノタウロスが目と鼻の距離まで迫ったところで、俺は引き金を引いた。留められた魔力が放出され、光が視界を埋め尽くす。大砲のような音が部屋中に響き、聴覚が使いものにならなくなる。俺は放たれた弾丸の反動で、背面にある壁へ叩きつけられ一瞬意識を飛ばしてしまった。


『uru..uuuu……!』


 耳鳴りの中聞こえたミノタウロスの声は、断末魔だったのだろう。光が収まり意識を取り戻した俺の目の前には、胸に大きな風穴を開けたミノタウロスが横たわっていた。

 ルイ達も倒れてしまっていたようだが、警戒しつつもミノタウロスの様子を見にきた。俺も近づき見てみると皮膚の色は黒色に戻っていたが、頭に生えた二本の角と左目は赤黒く染まったままだった。


「ここに魔力が集中していたのでしょうね。稀に、このような素材を目にすることがあります」

「こういう素材は、高く売れるぞ」


 角や目を見たマイクとゴーズが、そんなことを言っていた。金はそんなに困って無いから魔道具の素材にしたいな、などと思っていると戦闘が終わり緊張が解けたからなのか、体に力が入らなくなってしまった。


「今回のMVPはケイですね」


 倒れ込んだ俺を覗きながら、ルイがそう言った。他の二人もそれに納得しているようだった。

 その後少し体力が回復したのか、倒れて動けない俺とミノタウロスを置いて、ゴーズとマイクが扉を開けに向かった。


「お疲れ様でした。ケイの魔道具は危険ですが、確かに力になりますね。まだ、改良は必要でしょうが」


 ルイは壊れた『魔導式電磁加速砲レールガン 』の残骸と、放たれた弾丸が穿ち大穴の空いた壁を見て呟いていた。


***


 そこからは、流れるように事が運んだ。倒れて動けない俺と、ミノタウロスを集まっていた冒険者達が地上まで運んでくれた。ミノタウロスの素材、主に角と目は俺とルイが貰うことになった。他の部位は売り払われ大金とは言わないが、それなりのお金になった。

 そんなことをしている内に現れた、ギルマスの爺さんに俺達はこっぴどく怒られ、一週間の冒険者証停止処分となった。ゴーズは「そりゃ無いぜ」と言っていたが、これでも大分軽い処分らしいので爺さんには感謝だ。

 俺も歩ける程度に体力が回復し、俺達は素材を持って城への帰路に着いた。


 その後、隠し通路や隠し部屋は隈なく調べられたが、ボスがもう一度現れることはなかったそうだ。

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