アイアン級冒険者

「それでは手続きを始めましょうか」


 そういうと爺さんは、俺達を最初の応接室のような所に連れて行った。そこには最初に俺達の対応をしてれた、受付嬢さんが何やら準備をして待っていた。


「さ、お座りください。登録の前に、簡単に冒険者規約などについて説明をいたします」


 爺さんは部屋に入ると俺達に座るよう勧め、自分も座ると説明を始めた。説明の内容は以前ルイから聞いていた冒険者ランクの話から始まり、他の規則についても色々と話を聞いた。

 話を軽くまとめると、冒険者ギルドに所属した場合の禁止事項やその罰則について。例えば、冒険者同士の戦闘は基本的に罰金と冒険者証の一定期間停止といったものだ。それからランクの昇級には審査があり、基本的な内容はクエストの達成数と面接、そして戦闘試験だということ。それとクエストの受注方法については受付嬢さんから説明があった。

 説明が終わると、とうとう冒険者登録の時間だ。「それでは準備いたします」と、受付嬢さんが机の上に用意したのは一台の魔道具だった。


「こちらの魔道具にて、個々人の魔力波動を測定し冒険者証に記憶いたします。こうする事で、冒険者証の偽造及び不正使用を防止しております」


 受付嬢さんが魔道具について軽い説明をしてくれた。まぁ、指紋認証みたいなものがそれぞれの冒険者証についてるって感じだろうな。その登録をするために、あの魔道具が使われるってところか。


「それではアマウチ様から登録を行います。こちらの魔道具に手を乗せてください」

「はーい」


 受付嬢さんに言われた通り、俺は魔道具に手を乗せる。受付嬢さんが魔道具を操作すると、少し魔力が吸われる感覚があった。


「登録が完了しました。こちらがアイアン級冒険者登録証です」


 そう言って受付嬢さんから渡されたのは、鉄のような金属で出来たドッグタグだった。そのドッグタグには俺の名前と冒険者ランクが刻まれていた。冒険者証の再発行は出来ないらしいので、無くさないようにきちんと首にかけておくことにした。

 俺の次にルイも冒険者証を受け取り、俺たちは晴れてアイアン級冒険者となった。


「もう日も傾いてきましたので、ダンジョンには明日向かうことをお勧めいたします」


 俺がこのままダンジョンに向かおうとしているのを感じとったのか、爺さんはそう注意してきた。「も、もちろん。そのつもりだ」と返事をし、俺たちは城へと帰っていった。



 ルイとマイクが呆れた表情で恵を見ていたことはお察しの通りだ。


***


 俺たちが城に戻ると既に日は暮れていたので、今日はその場で解散となった。俺は魔導具の整備なんかがあるので、工房へと向かった。

 工房に近づくと、扉の前に誰かが立っているのが見えた。制服を着ているみたいだから、クラスメイトの誰かだろう。


「よ、よう。天内」


 そいつは俺を見つけると声をかけてきた。なんだか緊張した様子で、立っているそいつに「何か用か」と返事を返す。


「あぁ、ちょっとな」


 そう言うそいつの名前を俺はやっと思い出した。近藤隼人こんどうはやと。こいつは元の世界の学校では、バリバリ体育系の元気な奴だった。だが、目の前に立つ近藤はやつれた表情をしていた。こいつはこちらの世界に来たことを吞み込めずに、城に籠ってしまった奴らの一人だったのだろう。


「まぁ、とりあえず入れよ。散らかってるけど」


 俺はなんだか長くなりそうな話を聞くために、近藤を連れて工房へと入っていった。

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