ギルドマスター

「試験はじめ!」


 受付嬢の掛け声と共に、俺は魔法を放つ。放たれた改良型の『火玉ファイアボール』は、爺さんに向かって一直線に飛んでいく。爺さんが手に持つ長剣を振るうと、『火玉ファイアボール』は掻き消された。


「そんなのありかよ!」

「これでもギルドを預かるものですから」


 続けて魔法を放ちながら接近していき、もう片手に持っていた木剣で攻撃を仕掛ける。だが、その攻撃も爺さんに軽くいなされた。

 「ちっ!」と舌打ちしつつ、再度距離を取り懐から魔導式拳銃改を取り出す。少し殺傷能力高めだが、あの爺さんなら大丈夫だろう。引き金を引いて爺さんへ弾丸を打ち込む。もちろん急所は外すように狙いを定めて。

 爺さんは予想外の攻撃に一発目をいなすことが出来ず、軽い傷を受けていた。だが、それ以降はしっかりと対応し全ての弾丸を弾き飛ばしていた。


「あんたやっぱり化け物かなんかか?」

「ハッハッハ。お褒めの言葉と受け取っておきましょう」


 その後も持ち合わせるあらゆる魔道具を使用して攻撃を仕掛けるが、爺さんは全てを軽くいなし俺への反撃を打ち込んできた。

 試合が始まってからどのくらいが経ったのかはわからないが、既に勝敗は明らかだった。剣戟によって全身に傷を負っている俺に対し、爺さんは弾丸によるかすり傷一つのみ。


「そろそろ、終わりですかな?」

「ハッ、どうやれば倒せるのか全くわからないぜ。このクソジジイ」

「ふむ。それでは終わりにしましょうか?」


 そう言うと爺さんの雰囲気がガラリと変わった。のほほんとしていたのが、殺意マックスになった感じだ。

 やばいな、怒らせたかな?なんだろ、クソジジイがいけなかったのかな?

 自分の発言を振り返りつつ、仕方がないので切り札の準備をする。


「行きますぞ!」

「来い!」


 すると、爺さんは構えの状態から一瞬の内に俺の懐に入り込んできた。もちろん既に攻撃のモーションにも入っていた。

 やっぱり、今の俺じゃあ敵うはずがない相手だ。でも、ただで終わらせてやるつもりもない。

 爺さんの攻撃が俺に直撃するのと、俺が切り札を起動するのがどちらが早かったかはわからない。ただ、俺は爺さんの一撃で意識を手放した。


***


「大丈夫ですか!?」


 焦るルイの声で目を覚ますと、俺は試験場で倒れていた。何があったのかよく覚えていないが、試合の最後に爺さんの一撃を喰らったことは記憶にあった。


「試合どうなった?」


 俺は痛む体を起こしながら、ルイにそう聞いた。すると、ルイは何故だか歯切れの悪い表情で「見ての通りです」と目線を試験場の中央へと向けた。

 そこには大きく穿たれた地面と、それを興味深そうに観察している爺さんの姿があった。


「おや、起きたようですな」


 その様子を見ていると爺さんは俺が目覚めたことに気がついたみたいで、俺たちの方へ歩いてきた。

 こちらに寄ってくると「体の方は大丈夫そうですかな?」と軽く確認をしてきたので、大丈夫だと返事を返す。「それならよかった」と爺さんは試験についての話を始めた。


「まずは、私の我儘に付き合って頂きありがとうございました。あなたの実力の一端を垣間見ることが出来、満足する結果となりました」


 そういう爺さんは本当に満足そうだった。俺もこんなに強い人と戦ったのは久しぶりだったから、楽しい試合だった。

 爺さんは「ただ」と続けて。


「あなたの最後の攻撃。あれはなんだったのか、とても気になります!」


 そう興奮気味に詰め寄ってきた。俺は爺さんの元気に圧倒されつつ、切り札の説明をした。

 最後の攻撃で使用した切り札は、簡単に言えば電磁加速砲レールガン だ。ただ、まだ開発段階の試作品で一度撃てば壊れてしまうようなものだった。だが、威力は想像通りのもので、爺さんを驚かせられただろうな。

 爺さんは食い気味に俺の説明を聞いていた。切り札について聞き終わると、そのまま他の魔道具についても聞かれた。俺は疲れてるのにと、爺さんの元気さに呆れながら色々と説明をしてやった。


「いやいや、色々聞けて面白かったです。遅くなりましたが、お連れさんの試験に移りましょうか」


 爺さんは一通り説明を聞くと満足したのか、ルイの試験をやっと始めてくれた。ルイの試験相手はゴーズでも爺さんでもなくて、他のギルド職員だった。

 結果としては俺よりも綺麗に圧勝していた。やっぱり、ルイの方が魔道具の扱いや知識は俺より上だな。


「ほっほ、お連れさんも中々やりますの〜。それでは登録の手続きを行いましょうか」


 ルイの試験が終わると、とうとう冒険者登録が行われることになった。

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