冒険者登録

 俺達の前に現れた筋骨隆々な爺さんは、俺達に絡んできていた冒険者の名を呼び制止させた。


「ギルマス。俺はこいつの生温い考えを、改めさせてやらなきゃならね!」

「一度落ち着け、酔っ払い。その方に手を出したら、取り返しがつかんぞ」


 どうやらこの爺さんはギルドマスターらしく、推薦状も既に読んでいるみたいだ。ゴーズも爺さんの静止で、少し理性を取り戻したようだ。

 なんだかあの爺さん、俺を厄介ものみたいに見てくるんだが。いったい推薦状に、何が書いてあったんだ?


「私はギルドマスターを務めております。アルマンと申します。冒険者登録をしにきたそうで、こちらへどうぞ」


 爺さんはそう言うと、俺達をギルドの奥へと連れて行った。その間ゴーズは不服そうだったが、大人しくしていた。

 爺さんについて行くと、応接室のような部屋に通されソファに座るように言われた。俺とルイが座るとマイクはソファの後ろに立ち、それを見届けて爺さんも腰をおろした。今回マイクは、付き人として振る舞うらしい。


「なにやら迷宮に行かれたいそうですな。そのために冒険者登録をしに来たと」

「そうなんだよね、ちょっと事情があって。できれば、アイアンとして登録して貰いたいんだけど」


 爺さんの質問に、「それがダメなら迷宮探索の許可が欲しい」と俺は返事をした。

 爺さんは少し悩んだように俯くと、一つの提案をしてきた。それは、冒険者登録の際に行う能力検査にて、実力を示せばアイアンとして登録することも可能であるということだった。


「どうですかな。やりますか?」

「やらせてもらう」


 爺さんの問いに俺が二つ返事で了承する。爺さんは「すぐにでも始めましょう」と言うと、試験場へ俺達を連れて行った。



 実力試験はギルドの裏にある訓練場で行われるらしい。試験の内容は全部で三つあり、まず面接が行われる。これは推薦状があったお陰でパスしたみたいだ。


 次に魔力測定がある。魔力測定の目的は身体強度の確認だ。身体強度とは、一般に潜在能力とか才能とか呼ばれるものである。基本的に魔力の量は身体強度に比例するため、このような手段が使われている。これも訓練場に来る前に済ましておいた。といっても、俺の場合ジョブ持ちだったから測定は意味をなさなかったみたいだが。


 最後に実力試験だ。これは単純に戦闘能力と身体能力を測るためのものである。試験官を相手に模擬戦を行い、試験官と立会人が判定を下す。


「それでは、試験官は私がやらせていただきましょう」


 そう言った爺さんに、「ちょっと待った」と割り込んでくる男がいた。案の定、ゴーズだった。ゴーズは試験官を自分にやらせてほしいと、爺さんに頼み込んでいるみたいだ。しばらく話をしていると爺さんは、その頼みをなぜか了承した。


「すいませんな。今回はこやつが試験官を務めさせてもらいます。これでも、もうシルバー級になろうという実力はあります」

「別にいいぞ。ちゃんと実力を判断してもらえるならな」


 なんだか、心配ではあるが了承する。爺さんは「立会人は私がやりますゆえ、問題はありません」と返事をして、訓練場の端へと移動した。ルイ達も端に移動し、俺の試験を観戦するみたいだ。

 ゴーズは大剣型の木刀を片手に、訓練場の中央の方に歩いていく。そして俺の方をみて、「獲物は何だ」と質問をしてきた。その質問に俺が魔導具を使うと返すと、ゴーズは怒りの感情を見せた。ただ、俺は自分の返事でゴーズが起こるだろうと予想していた。

 理由は簡単だ。一般に魔導具は高価なものだ。さらに、少し語弊があるが使い捨てのようなものだ。だからこそ、魔導具を使うのは貴族のボンボンが多い。だから、俺をどっかの貴族の子息と勘違いしているゴーズは怒り、それを知っていた俺はやっぱり怒ったなと思っていた。


「だけど、おまえが剣でやるなら俺も剣でやるよ」


 そう言って俺は、長剣型の木刀を持ちゴーズの方へ歩いて行った。もちろん、身体強化系の魔導具を付けて。

 ルイはそのことを知っているのでやや苦笑いを浮かべ、マイクは何も知らないので俺を心配してくれていた。アルマンは表情の読めない顔でゴーズと俺を観察していた。


「後悔させてやる」


 ゴーズが怒り気味にそういうと、「お手柔らかに」と俺は軽く返した。アルマンが少し前に出てくると試験の開始を告げる。


「これより、実力試験を開始します!」

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