実践

 あれから、二週間が経った。異世界に来てから一ヶ月が経ち、少しずつこの生活にも慣れてきたと思う。

 今日は初めて実践を行うことになっている。勇者の西条や賢者の結弦など、戦闘職のメンバーはすでに実践を始めているらしい。

 やる事は簡単で、王都近くの平原に出没する魔物を討伐するだけだ。王都の近くということもあり、魔物は弱いらしい。


 魔道具を初めて製作してから、二週間が経っている。その間に魔石の分解と構築を繰り返した事により、スキルレベルが大きく上がっていた。

 ついでに、魔道具を試作品を含めて作りまくっていた。おかげで、ルイに「もう一人前ですね」と言ってもらえる程度にはなった。


***


 ガタガタと揺れる馬車の中。

 ルイともう一人の護衛兵と共に、今日の実践訓練について確認を行っていた。


「今回の実践では、魔道具を利用して安全に魔物の討伐を行います」

「魔物が接近してきた場合には、私が対処いたします」


 ルイと護衛の人が順に俺に確認をとってくる。俺が「わかった」と返事をすると、ルイが少し疑わしい目で見てくる。

 この二週間でルイと仲良くなった。だが時々、ルイは俺を怪しい人を見る目で見てるくる。

 何をそんなに警戒しているのか。魔道具の誤発を繰り返したのが、いけなかったのかな。


「ケイはくれぐれも、魔道具の変な使い方をしないようにお願いしますね」

「わかってるよ。俺を何だと思ってるんだ?」

「危険人物です」


 なんて事を言うんだろうか。だけど、護衛の人が笑ってるから許すとするか。

 そんな事をしてる間にも、目的地の草原に着いた。



 草原では、他のクラスメイトが既に実践訓練を行っていた。

 魔道具の整備などの準備に時間が掛かったから、出遅れたみたいだ。今回の実践で使用する魔道具は魔法攻撃用の物と、身体強化用の物がある。ジョブのレベルが低い内は魔法を使用してレベルを上げ、レベルが上がったら身体強化で近接戦闘を行う予定だ。


「それでは、下級魔法の魔道具を使ってあそこにいるラビッツに攻撃をしてみてください」

「了解!」


 ルイに指定されたのは兎の魔物「ラビッツ」。能力的には動物と大差がない程、弱い魔物だ。

 そして、下級魔法の魔導回路が刻まれた魔道具を取り出す。ちなみに、魔法には難度により区別があり、下から「下級」「中級」「上級」「王級」そして「神級」がある。王級は都市を破壊する程度の能力を持つ魔法で、神級に至っては伝説上の存在に与えられたものである。

 今回使うのは、お馴染みの『火玉ファイヤボール』の魔道具だ。いつものように、狙いを定め魔力を流し、そして詠唱する。


「『火玉ファイヤボール』!」


 発射された火の玉はラビッツに直撃し、大きな爆発を起こす。「よし!」と声を上げ、ガッツポーズをとる。


「何ですか!?今のは!」


 だが、ルイには不評のようだ。通常の『火玉ファイヤボール』では、つまらないから大爆発するようにしたのがいけないみたいだ。

 帰ったらグチグチ言われそうだが、成功して良かった。そして、ジョブを確認するがレベルはまだ上がっていなかった。さすがに一匹では上がらないようだ。

 

 下級魔法が上手くいったら使おうと、もう一つ試したいものを持ってきていた。その魔道具を取り出すとルイが「何でそれを持ってきてるんですか」と、少し怒っている。

 だが、構わずに魔道具を魔物へ向ける。


「『氷槍アイスランス』!」


 詠唱と共に氷の槍が現れ、魔物へ飛んで行く。魔物に突き刺さると、魔物を中心に周りのものが凍りつく。

 もちろんこれは通常の『氷槍アイスランス』ではなく、改造を施し『氷雪領域アイスフィールド』を着弾後発動する様にしたものだ。


「なんてものを使うんですか!危ないじゃないですか!」

「ちゃんと、発動範囲内に誰もいないように使ったから大丈夫だ!」

「何を偉そうに言っちゃってるんですか!も〜〜!」


 やはり、ルイに怒られた。護衛兵さんも苦笑いしている。

 まぁ、ほぼ素人しかいないエリアで中級魔法を使うのは少し危険かもしれない。けど、結弦も使ってるらしいし大丈夫だ。それに、レベルも2に上がって順調だと思う。この調子で、もう少しレベルを上げて接近戦も行うことになる。


 それから少し魔法での討伐を行い、レベルも3に上がって身体能力も向上してきた。少し早いが、身体強化の魔道具を使って近接戦を行う事になった。


「何度も言いますが、魔道具は安全に使ってください!」

「わかってますよ〜」


 適当な返事を返すと、ルイがあれこれ口うるさく言ってきたが無視して魔物へと向かっていく。護衛兵さんに先導されながら、魔物に近づく。

 作戦としては、護衛兵さんが初撃を入れてから俺が攻撃するというものだ。護衛兵さんが魔物へ走り出す。それと同時に俺も魔道具を起動し、剣を抜く。


「今です!」


 護衛兵さんの合図で、攻撃を受けよろめいている魔物へ剣を振るう。身体強化の魔道具と剣に仕込んだ斬撃強化の魔道具により、魔物は真っ二つに切れた。


「何という剣撃」


 真っ二つになった魔物を見て、護衛兵さんが声を漏らす。正直、俺も同じ気持ちだった。

 斬撃は城での練習時よりも、遥かに威力が増している。ジョブのレベルが2つ上がっただけでも、身体能力と魔力の量が上がり威力が増したのだろう。


 その後は護衛兵さんの援護の元、近接での戦闘を繰り返した。日が暮れる頃まで行った実践での成果は、ジョブレベル4であった。

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