訓練
あれから一週間が経った。異世界に来てしまった状況は相変わらずだが、一部の生徒は新しい生活を始めていた。この世界で生きていくために魔法や武術、礼儀作法や中には料理を習うやつも出てきた。
この異世界召喚で俺たちの人生は大きく変わってしまった。だが、そんな状況でも前へ進もうとする人たちはいるみたいだ。西条を筆頭に、この世界で生きていくためにみんなが努力している。
だが、この一週間では現実と向き合えない奴らもいる。正直、この状況を納得出来ている奴は数人だろう。他のみんなは『納得できていなくても何かをしなければ』という思いでやっているのだと思う。
俺もこちらの世界で生きていくための勉強をしている。『ドカン』。そう、魔導技師として生きていくための勉強をしているのだ。『バン』。決して、組手で投げ飛ばされているのではない。
「よそ見をするな!集中しろ!」
「うるせぇー!俺は、生産職なんだよ!」
今、俺は戦闘訓練を行っている。組み手を行っている相手の教官に、ぼこぼこにされている。なぜ、生産職である俺が戦闘訓練を行っているかというと、ジョブのレベル上げのためだ。ジョブのレベルを上げるには戦闘職、生産職関係なくモンスターを倒す必要がある。その為の戦闘訓練だ。
それから数十分、教官にぼこぼこにされ戦闘訓練は終わった。生産職で戦闘訓練に参加しているのが俺だけだから、集中的にやられている気がする。
「くそ、あの教官。俺が生産職だからって」
「そんなことはないと思うよ」
つい愚痴を呟いてしまうと、一緒にいた結弦が苦笑しながら教官を軽く擁護していた。結弦も戦闘訓練には参加している。まだ、今後どうするかは決められてはいないようだけど、これからのために参加しているらしい。
戦闘訓練に参加しているやつの中では、西条たち勇者組が頭一つ抜けている感じだ。やはり戦闘職の中でも貴重な職業なだけある、という感じだ。俺も生産職にしては、よくやっているほうのはずだ。
***
さらに、翌日は魔法の訓練を行った。午前は座学で魔法の基本を教わった。内容は基本ということもあり、難しくはなかった。
簡単にまとめると、魔法を使用するためのプロセスは『魔力を
最後のほうの説明は、俺が魔導技師だから行ってくれたのだろう。魔導具の可能性はかなり大きいのかもしれない。そう考えるとわくわくしてくる自分がいる。
「今日の授業は、なんだか楽しそうだね」
「そりゃ、痛くないし。ジョブに関係するし。何より、面白いからな」
もちろん、賢者である結弦も参加している。賢者は万能な魔法系スキルを所持しており、それにより魔導回路を構築する必要が無いらしい。だが、魔法への理解は必要なことらしく、魔法の講義自体は真剣に受けているみたいだ。
そして、午後は実践だ。実際に魔導回路を構築してみることから始める。スキル所持者は一足先に発動訓練を行っているみたいだ。
それにしても、魔導回路の構築が難しすぎる。周りの奴らはスムーズに出来ているのに、俺はかなり遅いペースでしか構築できていない。これはジョブが生産職だからなのか、それとも自身の素質が無いからなのか。なぜなのかわからないが、実戦で使えたようなものではない。魔導回路を構築している間に殺される。
魔導回路の構築を練習した後、とうとう魔法の発動を行うことになった。すでに魔法の発動を行ったほとんどの奴らが、物語の中のものでしかなかったものを自分たちが扱えていることに興奮していた。
練習用の的が空き、俺の番が来た。使うのは初級の魔法『
「『
突き出した手のひらから火の玉が浮かび、的に向かって飛んでいく。飛んでいった『
はじめての魔法に内心、狂喜乱舞する。周りの目があるので平静を装っているが、叫びたいほど嬉しい。オタクたちが異世界召喚に興奮していた理由が少しわかった気がする。
「恵、すごいね!スキル所持者以外で、的に傷をつけたのは恵だけだよ!」
「ありがとな。でも、魔導回路の構築がお粗末すぎる」
「でも、恵は魔導技師なんだし。そこは何とかなるでしょ」
興奮気味の結弦に言われて気が付いたが、確かに的に傷をつけているのは数名で俺以外はスキル保持者だ。理由はわからないが、魔導技師は魔力が高いと聞いているからそれが原因かもしれない。
それから、問題の魔導回路の構築だが確かに魔導具を自分で作ればいいだけの話だ。生産職ではあるが、前線に出て戦ってみたい気持ちはある。その為の準備も少しづつしていこう。
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