城では食堂のようなところで生徒達だけで話し合う時間がとられた。お茶と茶菓子が机に並ぶが誰も手に取ろうとはしない。なので、俺が率先して食べた。学校終わりに近くのパフェに行こうと思っていたので、少しお腹が空いていたのだ。仕方がない。

 沈黙を破ったのはまたも西条であった。西条は立ち上がり話し始めた。


「僕のジョブは勇者だった。この力は魔王を倒すための力だ。この世界の人達を救うことが出来るのは僕だけだと思う。だから、僕は王国に協力して魔王を倒そうと思う」


 召喚されてから一時間ほどでその選択をするのが利口かどうかはわからないが、すごいとは思う。いきなり拉致されて戦えと言われて。でも、それに協力しようなんて、とんでもないお人よしか、もしくは馬鹿だ。

 ちなみにすでにジョブの確認方法は教わり、全員が何のジョブについているか確認済みだ。

 俺は『Job【魔導技師lv.1】Skill【分解lv.1】【構築lv.1】【解析lv.1】【言語理解lv.max】』だった。確認できるのはジョブとスキル、それぞれのレベルだ。詳しい説明はまだされていないがジョブもスキルも貴重な物らしい。

 西条の発言を皮切りにあちこちで今後どうするかをみんなが話し始めた。


 「ねぇ、けい」と隣に座る幼馴染の結弦ゆづるが話しかけてきた。こいつは召喚された後から俺の横でずっとびくびくと怯えていた。まぁ、この状態が普通だと思う。俺や西条達が少しおかしなだけで、いきなり拉致され二度と家に帰れないと言われればこうなるもんだろう。


「結弦はこれからどうする?俺は城に残ってのんびりしようと思ってる」


 不安そうな結弦に俺は思っていたことを話した。これからどうするか周りのクラスメイト達のように、二人で話し合った。結局、結弦はどうするか決められなかったが急ぐ必要は無いと思う。お姫様が待遇を保証してくれているから、しばらくの間生活には困らないだろう。

 その後個別の寝室を案内されたが、ほとんどのやつが今までいた場所で寝ることになった。俺も結弦との話を思い出しながら眠りに落ちた。


***


 次の日、俺たちは最低限の知識を身に着けるため、クレアからこの世界のことを教わった。学校の授業は気乗りしなかったが、この話はきちんと聞いていた。知っていないと後で不便になるかもしれないし。なにより、面白いし。

 クレアの話をまとめると、ここルーシュ王国より東は魔王の力で汚染されており人が立ち入ることが出来ない。魔王は数百年に一度現れる。その為、異世界召喚も何度か過去に行われている。過去の勇者の中には姫と結婚し国王になったものもいる、という感じらしい。

 それからジョブは持つ者の身体的能力を底上げするもので、それぞれのジョブに合った成長をするらしい。レベルは魔物を倒すことで上げることが効率が良く、一般的だとか。

 スキルはその作業に関する能力の底上げや、特殊な力の獲得などジョブよりも幅広い力のようだ。こちらのレベルは使えば上がるという、至ってシンプルなものだった。



 今日の話が終わった後、西条達がクレアと話しているのが見えた。きっと魔王討伐への協力の話だろう。西条の思いは固いらしい。

 西条と一緒にクレアの元に向かったのは、数名でその中には委員長である早瀬はやせみことの姿もあった。西条が勇者のジョブであったように、早瀬も貴重な聖女というジョブらしい。

 なんだか、いかにもなメンツである。ここに賢者やら剣聖やらも加わるのであろう。



 クレアの講義がおわり、大人しかった生徒たちが自由に行動をしだす。

 俺は「結弦、大丈夫か」と、隣で深刻そうに悩んでいる彼に声をかけた。昨日から自分のジョブのことで悩んでいるのだろう。結弦のジョブは賢者で、過去にも勇者とともに魔王を倒した者が持っていたジョブらしい。基本的に魔法を使う戦闘系のジョブといったところだ。


「うん、大丈夫。僕がこれからどうするべきかを、考えていただけだから」


 結弦の返事は、大丈夫だとは思えないような張り詰めた声だった。

 結弦は臆病ではあるが、根っからの良いやつだ。だからこそ西条達と一緒に魔王討伐へ向かうべきなのか、悩んでいるのだろう。この状態の結弦には変に声をかけないほうがいいと知っているので、俺は他の友人の元へ向かうことにした。


***


 そいつらはクレアの話を聞いていた講堂のような場所の隅で、何かを話し合っていた。まぁ、大したことではないだろう。


「よぉ、オタクA、B、C。お前らは元気そうだな」


 からかい交じりにふざけた声をかける。すると、「俺はオタクAではなく佐藤さとうたくみだ」「私はオタクBではなく鈴木すずきけんです」「僕はオタクCではなく田中たなか誠司せいじだよ」と学校の時と同じように返してきた。

 こんなくだらないことでも、こいつらは大丈夫だと確認できる方法のような気がした。ただ、バカなだけかもしれないが。


「お前らはこれからどうするんだ?」

「俺たちは、城を出て自由に異世界を楽しもうと思ってるぞ。天内、お前はどうするんだ」

「俺は城に残るつもりだ。生産系のジョブだから、ここが一番色々出来るからな」


 三人にこれからのことについて聞くと佐藤が代表して答えた。

 やはり、こいつらはこの異世界召喚を楽しんでいるようだ。普段から読んでいたラノベのような世界に、今自分たちがいることに舞い上がっているのだろう。

 それからは、今後の役に立つかもしれないオタク知識を伝授してもらった。

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