世界を救うのは伝説の勇者ではなく、生産職の魔導技師!?

茗々(ちゃちゃ)

異世界召喚

召喚

 学校の授業っていうのはいつも退屈だ。授業の内容なんて全部教科書に書いてある。だから今日もスマホを眺めながら授業を受けていた。

 気づけば授業は終わり、ホームルームの時間になっていた。これで今日も学校から解放される。そう思い視線を机の下に隠しているスマホへと移すと、教室の床が不自然に光っていた。

 「なにこれ」そう誰かが言った。その直後、教室は膨大な光の渦に飲み込まれた。不思議と怖くはなかった。ふと光の隙間から見えた幼馴染の顔は恐怖で強張っていた。「ああいう顔が正解だな」なんてくだらないことを思い立つうちに、俺達は教室から姿を消した。


***


 何か冷たいものが頬に当たる。俺は石の床の上に横たわっていた。起き上がるとそこは大きな神殿のような場所だった。どこかの世界遺産のような雰囲気がある場所だ。周りにはクラスメイトが俺と同じように地べたに横たわっている。死んだものだと思っていたがどうやら生きているらしい。

 「きゃー」と甲高い声。「どこなの、ここ」と起き上がったクラスメイトは突然の出来事にパニックになっている。「これは異世界召喚というやつでは!」なんて言う場違いに興奮した声が少し聞こえた気もする。


「勇者様方、落ち着いてください」


 透き通るようなきれいな声が、パニック状態であったクラスメイト達を落ち着かせた。その声の主は祭壇のような場所に立ち、俺達のほうを向いていた。お姫様のような恰好をした、絶世の美女という言葉がお似合いな少女だ。


「私はルーシュ王国第一王女、クレア・ルーシュです。まずは突然の召喚を謝罪いたします」


 その少女は自分のことを王女だという。本当かどうかはわからないが、彼女の一挙一動は洗練されており王女なのではないかと思わせるような雰囲気があった。


「召喚っていったい何ですか」


他のクラスメイトが固まっている中、クラスのまとめ役なんかをやることの多い西条さいじょうまことがクレアに質問をした。一瞬、殺気立つものがあったが気のせいだろう。


「私たちの世界が魔王によって滅ぼされようとしています。それを防ぐために異世界から勇者様を召喚いたしました」


 やはりそういう感じだったか。授業中に読んでいたネット小説のような展開だ。だが、この状況を大まかにでも把握できているものは少ないだろう。少しでも状況を把握できているのは俺とさっきからなぜか喜んでいるオタク一味、それに質問をした西条にその隣にいる委員長。それと不良で不登校なのによりによって今日登校してきた志賀しがひびきくらいであろう。他のみんなは冷静ではいられず、今にも騒ぎ出しそうにしている。それでも、みんなが静かに話を聞いていることに少し違和感を感じる。

 「家に帰れないの」と誰かが呟いた。クラスメイト達は口々に不安を口にする。ただ、こういう手口の異世界召喚ってやつは一方通行のことが多い。なのに「やった」と喜ぶ声が聞こえるのは幻聴か?


「皆様の不安は重々承知しております。ですが、少しばかし私に説明をする時間を頂けませんか」


 また、クレアが声を発するとクラスメイト達が落ち着いていく。少し気味が悪いが、これも異世界にありがちな何かの能力なのかもしれない。

 俺たちは聞くほかに選択肢もないため彼女の説明を聞くことにした。内容は比較的ネット小説のようなものだった。

 まず、魔王が世界を滅ぼそうとしていること。それに対抗できるのは異世界から訪れる勇者だけであること。勇者というのは比喩ではなく、ジョブと呼ばれるものであること。召喚された俺たちの中に勇者とそれに近い力を持つジョブの持ち主がいること。最後に元の世界には戻れないこと。



 説明が終わると、彼女は協力をするもしないも自由だと言った。こちらの事情で突然見知らぬところへ連れてきてしまったのだから、生活も保障するとのことだ。

 クレアからの説明を受けた俺たちは、ひとまずお城に連れていかれることとなった。

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