第12.5話

 

 私とドラコが追撃を行おうと一緒に飛び出したその時、水晶で出来たゴーレムの体が不気味に点滅を始めたのだ。


 この現象はまさか……嫌な予感がする。


 「――ドラコ!! ストップ!!! 急いで離れるわよッ!!!」


 私はその場に急停止し反転、ドラコにも一時退却を促す。


 「なっ!? 奴が回復している今がチャンスだろ!!」


 分からず屋め! 打つ手の無い満身創痍の敵が最後にやってくる事は恐らくあれなんだから。

 話している間にもゴーレムの体の点滅はどんどんと激しくなっている、クソっ! ドラコに説明している時間も惜しい。


 「いい!! あいつは自爆する気よ!!! 急いで離れて!!!」


 私は出来るだけ簡潔に声を大にして叫ぶ。


 「ゲッ、そいつはやべぇじゃねぇか!!!!」


 「だから早く逃げ――ッッ」


 ドラコが事態に気が付いた時にはもう遅かった。


 体の点滅が頂点に達したゴーレムはそのまま眩い光を放ちながら自爆。

 周囲一帯を熔解させ破壊していく熱波と衝撃がドラコと私に迫る。


 「自爆なんて聞いてないぞ! 卑怯者!!」


 ドラコの断末魔が虚しくこだまする。

 手詰まりの私達には最早身を低くし咄嗟の防御姿勢を取る選択しか取る事が出来なかった。


 「くッ!!」

 

 爆発に巻き込まれる事を覚悟したその時、後方から一人の声が聞こえてきた。

 

「――――アストラルバリアッ!!!」


 ……この声はメイガス!?。


 メイガスの声が発せられた瞬間、私とドラコの前方を包み囲む様にオレンジがかった半透明の壁が突如出現、その壁は迫りくる爆発を完全にシャットダウンし私達は無傷で敵の自爆をやり過ごす事が出来た。


 「ひゅー、危ねぇ死ぬかと思ったぜ」


 「……同感」


 生き残った事に安堵する私達。

 周囲の光景は和やかな街道から戦場の様な焼け野原へと変貌を遂げていた。


 「どうです? 私もたまには役に立つでしょ~?」


 後方からどこか得意げな表情を浮かべたメイガスが私達の元に歩み寄る。


 「ええありがとう、メイガス本当に助かったわ」


 「まったく今回ばかりはアンタに感謝するぜ…………ようやく終わったみたいだし皆飯でも食おうぜ!」


 私とドラコはメイガスに素直に感謝の意を伝え……しまった!! ドラコがまた余計な一言を!!。


 「ん? どうしたルイ? …………あれは!!!」


 (……やっぱりか)


 周囲に燻っていた煙が晴れた爆心地には決死の自爆を行った筈のゴーレムが立っていた。

 水晶の輝きはくすみ体の所々にはヒビが走り至る所から蒸気を噴出して尚立っているその姿は感情が無い筈のゴーレムから修羅を感じさせる鬼気迫るものがあった。


 「ほう、自爆の際に自身を最低限復元できる魔力を残しているとは、ただの石人形の割にやるじゃないですか~」 

  

 ――ゴォン。


 ゴーレムはメイガスの言葉などまるで眼中に無くさっきまでと変わらず最も近くにいる対象、今回の場合ドラコをめがけて直進する。


 「うお! こっちに来た!」


 ドラコは慌てて武器を構える。

 

 だが大丈夫だ、動く度に体が軋む音を響かせポロポロと水晶の破片が崩れ落ちている死に体のゴーレムにはさっきまでの速さとキレは無い。


 「こんだけ遅けりゃどうとでもなる!!」


 接近するゴーレムをそのまま真正面で待ち構えるドラコ。

 

 「いくぜ」


 そして――両者が互いの射程に入りドラコの大斧とゴーレムの拳、その二つがほぼ同時に振り下ろされた。


 ――ズンッ。


 乾いた音と共にゴーレムの体が真っ二つに両断され半身が地面へと落下した。


 「よし、今です!! ファイヤ!!」


 メイガスがすかさず切り落とされたゴーレムの体にメラメラと燃える火球を投げつけた。

 するとゴーレムの体は熱された飴の様にドロドロに溶けていき最後には跡形もなく地上から消え去った。


 「よし、これで安心」


 しばしの間無言でゴーレムの焚火を鑑賞していた私達にメイガスがそう告げる。

 

 「さてとグーラまでの馬車旅を再開といきましょう!」

 

 ああそうだった……私達はまだグーラへ向かう旅の途中だったな。


 「ええ、そうね」

 

 さっきの戦いでどっと疲れた私は頼むからこんな面倒事はもう起こらないでと心の底から思いながら馬車へと戻っていくのでした。

 

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