第13話

 英雄都市リュウジへ向けて出発した私達はゴーレムとの激闘の後、特に何事もない馬車の旅を数日間満喫し、グーラとルミン(ルミンは町の名前で正確にはルーミシア国)の国境地帯にある関所へと到着した。


 関所自体はそこまで規模の大きなものではないが、現場には厳戒態勢が敷かれており、鎧を纏った人型の兵士スライムがかなりの数配置されていた。


 「……道中みたいにのんびりとして穏やかな関所を想像してたがそういう訳じゃなさそうだな」


 「ええそりゃここから先は最前線の国ですからね~」


 道中の小旅行の様な馬車旅ですっかり気が緩んでしまっていた私とドラコに人魔戦争の火薬庫になりうる国の現状をむざむざと見せつけるグーラの関所。

 

 そんなピリピリとした空気が張り詰める検問の順番待ちの最中、前方でスライム兵士と大声で揉めている女性冒険者が私の目に留まる。




 「――駄目だ今は人間を通す事は出来ぬ!! ましてや転生者など言語道断だ!! 従わぬのであれば切り捨てるぞ!」


 「ちょっとちょっとスライムさん、そんな乱暴な事言わないでよ~せめてお話だけでも~」


 「黙れ!! さっさとこの場を立ち去れ、さぁ早く元居た場所へ帰れ!!」


 「ほんっとマジで頼みますって~~~」


 恐らくあの冒険者の人にもグーラに入国したい理由があるのだろうけど、下手に騒ぎを起こす前にここは引き返すべきだと私は思った。


 「――貴様どうやら口で言っても分からぬようだな」


 「それはあんたでしょ!!!」


 それでもその場を中々動こうとしなかった彼女に対し、ついに痺れを切らした兵士スライムが剣を抜く一触即発の事態。


 言わんこっちゃない。


 「――御免」


 ――速い。

 

 兵士スライムはその一言を発するよりも先に冒険者に剣を振り下ろしていた。

 音速を超える斬撃で周囲に土煙が舞い上がる。


 こんな斬撃を無防備だった彼女が避けられる筈もなく……いや、うん???。


 「なんだと!」


 彼女は僅かに動いた形跡があるだけで怪我一つなくその場に立っていた。


 「……もぅ」 


 「何事だ!!」


 程なくして騒ぎを聞きつけた別の兵士が来た所で彼女は「やべっ」と呟き全速力でどこかへ退散していった。


 「やるねぇ、しかしなんだあいつ現在グーラは人間の入国が禁止されてるって知らなかったのか」


 どうやらドラコもあの冒険者の揉め事の一部始終を眺めていたようである。

 

 「そういえば御者のおじさんもここから先は人間が入れないって言って馬車を引き上げたもんね~」


 私もグーラが人間入国禁止なのを知ったのは今日が初めて知ったクチなので、案外さっきの冒険者の人もその事を知らなかったから揉めていたのでは? と少し思ってしまった。

 

 「しかし人間の完全入国禁止とは……人魔国家双方の国境地帯に位置し交易の一大拠点であるグーラの収入源を断つという事です、グーラにとってもかなり厳しい政策ですよ」


 「それだけ危険因子は排除したいグーラの気持ちの表れだな、特にあんな怪しい人間なんて以ての外だろうよ……時間だ検問に行こうぜ」


 前方の魔族の一行が入国を許可され関所をくぐっているのが見えた。

 私達は門番のもとへ向かい、検問を受けた。


 


 

 ドラコがハーフだという事は万が一を考え黙る事にしていた結果、私達は純粋な魔族としての扱いで軽い身体検査と入国理由を聞かれるだけで意外とすんなり入国の許可が下りた。

 

 海外旅行先の空港程度のものだったので正直拍子抜けしたのであった。

 

 


 「さぁいよいよここからがグーラですよ~」


 「うん、そうだね」


 何気ない会話をしながら数人の兵士が守る検問所の門をくぐる。

 するとその先の街道沿いにいた一人のスライムが私達に声をかけてきた。


 「――初めまして貴方達が龍と魔女と魔王の三名ですね、話は聞いておりますどうぞこちらへ」


 ナギサさんの様な優雅で気品あるおっとりとした女性像とはまた違うタイプの大人びていて凛々しい顔つきでスタイル抜群のいう事ない美人スライムは私達を街道から外れた付近の森へと誘導する。


 「取り敢えずあの人について行ってみましょ」


 私は二人にあのスライムに付いて行くことに対して同意を求める。

 その確認に二人は黙って頷き私とスライムの後を追った。


 「ちょっとどこまで行く気~あんた本当に味方なの?」


 森に入って一時間は経っただろうか、あまりに何も起こらず無言の時間が続いた空気に耐え切れなくなったドラコがスライムに問いかける。

 スライムは何も答えず黙って森の奥へとずいずい進んでいく。


 「おい? 何とか言――」


 「……到着です、話はあの小屋の中でしましょう」


 スライムが立ち止まり指差した先には小さな小屋が一軒。

 鬱蒼とした森に紛れ、隠れるようにして建てられていた。


 「どうぞ、入って」


 スライムが小屋のドアをゆっくりと開け私達に入るように促す。 


 「お邪魔しまーす」


 私が小屋に入ったのを皮切りにメイガスとドラコも小屋の中へと入っていく。

 スライムは全員が小屋に入ったのを確認した後に扉をゆっくりと閉めた。

 

 小屋の中は外観の倍以上広く感じる程意外と広く、調度品は森の奥深くの小屋には似つかわしくない豪華絢爛な物が多く置かれている。

 興味津々に周りの物に目を輝かせる私とドラコとは違いメイガスの瞳にははっきりとしたスライムに対する疑念が向けられていた。


 「……転移魔法ですか、これはどこに繋がっている事やら……いや、これだけ高価な物が置かれている事から察するにもしやここはグーラの王城ではないですか?」


 「なに? それってつまり敵陣のど真ん中も良いところじゃねぇか!!! どういうつもりだ!」


 戦闘態勢を取りかけている二人を手を上げ制するスライム。


 「貴方の思っている通りここは王城、だけど敵には知られていない――【私の部屋】の隠し通路よ」


 一瞬の空白後、皆の眼が丸くなる。

 

 「ちょ、ちょい待ち、私の部屋ってアンタ一体何者だよ」


 「申し遅れたわね――」


 スライムは手本のようなお辞儀をしてこう答えた。


 「グーラの王位継承権第二位、第二王女マフユ・シュロームよ……母がお世話になったわね」


 「ッツ!?!?!?!? え江ええぇヱえぇえエええ得えええぇ恵え!!!!!!!!!!」


 「ちょっと驚き過ぎ! うるさい!!」


 私達の仰天の叫びが周囲に響き渡る。

 

 謎のスライムの正体はグーラ国のお姫様だったのだ。

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