第14話

 「――落ち着いた?」


 先程の発言の衝撃から数十秒が経過し、私達がようやく冷静になったのを見計らいマフユが声をかけてきた。


 「ああ、でもたまげたぜグーラの女王に出会った次は姫様とはな、ったく頭が爆発しそうだ」


 「ええ流石の私もこの展開は聞いていませんでしたよ~ついでにドラコの頭が爆発している所は見たいかも」


 「それはグロいから倫理規定的にNGよメイガス」


 「いや! 爆発しねぇから!!!」


 どうでもいい雑談が予想以上に盛り上がってしまった事に対しマフユが呆れた感じを見せつつ会話に割って入ってきた。


 「あの~いいかしら? 立ち話もなんですし、取り敢えずみんなそこに座ってお話ししましょうか」


 マフユは広い部屋の中央にある会議に持って来いのいかにもな円卓を指差し私達に着席を促す。


 「よっこいしょ、あーこういうシチュ一度やってみたかったんだよね~」

 

 (やはりファンタジーの会議といえば長机じゃなく円卓だよね、何故かはわからんが)


 


 

 

 「ん~こほん、みんな席に着いたわね――それでは今から首都奪還作戦の概要を伝えるわ」

 

 「はい!」「おう!」「了解です~」


 皆が一様に返事を返してマフユの話に耳を傾けようとした瞬間、私はある違和感を感じ取った。


 「ちょっと待ってこの円卓、4人で話すには広すぎる気がする……ほら、端の方に丁度よさそうなテーブルとソファもあるのに」

 

 「確かにな、この人数でわざわざこんなバカでかいテーブル使って部屋のド真ん中で話す必要は無さそうだぜ……あれかお姫様? 端が嫌いなタイプ?」


 ドラコの冗談に少しムッとした表情を見せるマフユ。


 「ったくそれについては今から説明する所なのよ! それに今は国の一大事なのにほんっと緊張感無いわね、貴方達――ふん!まぁいいわ、これから空席を埋める私達の仲間を紹介しましょう……出てきて頂戴」


 マフユが指を鳴らし合図すると私達が通ってきた反対側の扉から三人のスライムと一人の魔族がやってきた。


 「さて、遅刻者を除いて今いるメンツを私がざっくり紹介しましょうか私の姉妹と…………馬鹿一人よ」


 「っておい! マフユ紹介雑すぎるだろ!!!」


 マフユにお手本のようなノリツッコミを返したのは道化師の衣装にマントという独特なファッションセンスの持ち主の耳長の男性。

 服装は非常に残念だがスラっとした長身でキリっとした顔立ち、透き通った長い金髪、アメジストの色で輝く瞳……普通にイケメンだ。


 「マフユの紹介は置いといて、オレはエルフの竹田だ、グーラの森の管理者をやっている」


 竹田さんはそう言うと私達に『森の管理やってます❤』という言葉の入ったセンスのよろしくない緑色の名刺を手渡してきた。

 

 まさか私は異世界に来て名刺を渡されるとは思わなんだ。

 しかも配色といいフォントといい絶妙にダサい、なんか腹立つ名刺だ。


 「……な? 馬鹿だろ」


 マフユは竹田さんに聞こえぬ小声で私達にそう囁く。

 そんな竹田さんと少し離れた場所から可愛らしい声が聞こえてきた。


 「ちょっと! マフユ! お前私達の事忘れてない???」


 そこにいたのはとてもちっちゃくて愛くるしい表情の持ち主で背丈ほどの長いストレートヘアが目立つぱっつんなスライムがマフユに詰め寄ってきた。


 「うぉなんだこのちっこいの!?」


 「なんだお前! 初対面なのに随分と無礼な龍だな!」


 ドラコの反応に憤慨するスライムをマフユは優しくなだめた。


 「おう、すまなかった、皆に紹介しようこのお方が長姉のハルカ姉様だ、この見た目とは裏腹に内包する魔力量と魔法の腕はグーラ王家始まって以来の大天才だぞ」


 「ふふーん私が来たからにはこの戦いの勝ちは揺るぎ無いわ! せいぜい足を引っ張るなよ」


 私は椅子から立ち上がり、腰を落としてハルカさんに握手を求めた。


 「えっとハルカさん初めまして私はルイ、どうぞよろしくです」


 ハルカさんは「ふんっ」と言いながらもこちらの握手に答えてくれた。

 

 「あとはあいつらだな」


 ドラコの目線の先にはまだ紹介されていないスライム二人組がいた。


 「……やっとこさ」「私達の出番だ!!!」「……ね」


 声の主の一人目は気怠そうな愁いを帯びた表情が特徴的な片目が髪で覆われたダウナー系のスライムと花火の様に爆発した髪がファンキーな印象を与える元気いっぱいのまさに両者対照的なスライムが並んで立っていた。


 「あいつらはナッツとアキナだ、実はああ見えて双子だったりする」


 「……よろしく」「よろしくだぜ!!!」


 「どうもどうもよろです~、それにしても双子とは思えない程似てないですね~」


 メイガスはみんなが思っていたが口には絶対に出さなかった率直な感想を口に出した。


 「……確かに」「アキナはテンション低いし!!!」「……ナッツは五月蠅過ぎ」「全然似てない!!!!」「……ね」「な!!」「……双子とは」「思えないィッ!!!!」


 熟練の漫才の様なやり取りを終えた二人は仲良く笑いあっていた。


 「うむ、全然似てはないが」


 「息はあってますね~」


 彼女らは見た目も性格も大きく違えど、完璧なまでに息の合ったあの会話は紛れもなく血の繋がった双子のそれであると言わざるを得ない。





 森の管理者竹田さんにマフユの姉妹ハルカさんにナッツ&アキナちゃん一通りの挨拶が済んだ所で皆が席に着く。

 

 ――やっと作戦会議が行われるかと思った矢先、部屋にコツコツと一つの足音が響く。

 何故だろうかどうしてかは判らないが一抹の不安を感じる。


 「来る……作戦の要の一人がご到着ね――」


 「ふん、まさか本当にあいつが出張るとは」


 ハルカさんは来客が誰だか分かっている上でそう毒づいた。

 一方マフユの表情は先程までの明るく朗らかな物ではなく極度の緊張で張りつめている様子だ。


 圧倒的な威圧感と共に一人の女性が姿を現した。


 「ケケケケケケケ我は遅刻か? マフユ姫よカカカカカ」


 朱色に金の装飾が施された派手な着物を身に纏い派手なかんざしを差した色気のある女性は不気味な声で嗤いながらゆっくりと円卓の空席へと腰かけた。


 「いえ、遅刻などそんな些細な事はどうでもいい、それよりも貴方が来てくれた事に感謝を――黄泉の国の魔王イザナミ殿」


 冷や汗をかきながら謝辞を述べるマフユ。

 

 「カカカカ随分と我を恐れておるのうマフユ姫ケケケ、案ずるな今宵の我の夕餉は転生者よのう……小魚に興味は無いコココココ」


 「たりめーだろテメェみたいなバケモノ恐れないやつがいるかよ」


 ハルカさんはマフユを庇う様にイザナミにつっかかる。

 それに対しネコ科の動物の様に鋭い眼光をぎらつかせ愉快そうに嗤いキセルを燻らせるイザナミ。


 場の雰囲気が圧倒的な覇気を放つイザナミのプレッシャーに押し潰されるかのように重くなっていく。


 だがこの重苦しい空気が完全に換気されるのには時間はかからなかった。


 その突破口はメイガスであった。

 

 「――暗い暗い、ドンクライ! ナミちゃん相変わらず陰キャ爆発してんじゃん~そんなんだから男に逃げられんのよ~マジそのキャラ受けるんですけど~~」


 魔王イザナミの肩を笑いながら何度も叩くメイガスの突然の奇行に皆が凍り付き各々が死を覚悟した瞬間、イザナミは意外な反応を見せたのだった。


 「ケケケケケいや、ちょっとやめてよメイガスちゃん! 我のキャラ崩れるでしょ生まれてこの方五千年位怖キャラ演じてたんだからみんな困惑しちゃうって……あっやべ、聞かれた、今の無し」


 「ナミちゃんもうバレてるから、もうそれでいくべ?」


 「そうねーアレ我も疲れるから止めにするわ、皆さんビビらせてごめんねカカカカカ」


 えっ、イザナミさんノリ軽すぎませんか?


 いや、それよりマフユの様子がおかしい。

 私の目には先程の緊張でなく怒りで震えている様に見えますけど。


 あっプルプルしてるこれヤバイ。


 「おい貴様!! いい加減にしろ!! さっきの私の無駄な緊張を返せーーーー!!!!!!!!」


 「ひええ、ごめんねマフユちゃん許して~~」


 超怖いイメージで登場したイザナミさんは意外とフレンドリーな性格だと判明したのであったとさ。

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