第15話

 「……ふぅ、取り乱して済まなかったわね……これから作戦概要を皆に伝えるわ、よく聞いておいて頂戴」

 

 時間にして十秒程だろうか、気持ちを素早く切り替えたマフユによる首都攻略戦の作戦説明がいよいよ始まった。


 「最初に今回の作戦の基本はこの町に常駐する約八千の兵士の掃討と転生者の撃退、この二正面作戦で行かせてもらおうと思っているわ」


 ここでマフユは一旦周囲を見回し異論が出てこないか確認し話を続ける。


 「人員の配分はこちらで決めてあるわ――対兵士にはハルカ姉様、アキナ、ナッツ、竹田が対転生者に私、イザナミ、ルイ、メイガス、ドラコでいくわ」


 「流石マフユちゃん、この町の地理に詳しくない者は転生者を倒す事だけに集中させる悪くない人員配置ね」


 イザナミさんは納得の意を示したが、ハルカさんは少し不満そうな顔でマフユを見ていた。


 「うーむ妥当な配員なんじゃが対兵士側のノルマが一人頭二千か……こりゃちとメンドイぜ」


 「姉さま、それに関しては問題ありませんわ、転生者さえ仕留めれば敵は瓦解し本国へ逃げかえる事が予想されます」


 確かに魔王クラスいやそれ以上の力を持つ転生者が抑えられてしまえばただの人間の出来る事なんてそんなもんだろう。


 「それは全てが上手くいけばの話だろうが、理に適ってそうだが意外と脆い作戦だぜ……考えてみろこの作戦はこちら陣営の負けが一切想定されていない」


 ハルカさんの鋭い指摘に対しマフユはこの返答が返ってくるのが分かっていたかのように一切動じる事は無く、強い口調で反論する。


 「分かっていますとももとより、そのつもりですよ姉様……我々に負ける事は許されないのです、何故黄泉の国の魔王がわざわざこの作戦に加わっているのかを良く考えてみてください」


 イザナミさんは申し訳なさそうな笑みを浮かべてハルカさんを見つめていた。

 それを見て何かを察したハルカさんは語気を強めてイザナミさんに言い寄った。

 

 「まさかお前! 死なないことを良い事にどうにかして黄泉の国がこの戦争に参加する口実を作る気だな!」


 手を合わせて謝罪するイザナミさん、どうやら図星の様だ。


 「ごめんなさいね、ナギサちゃんとの密約で既に多くの黄泉の軍勢がグーラ国境で待機中よ……彼等が雪崩れ込んでくるのはこの作戦が失敗した時……近しい未来に起こるであろう避けられぬ全面戦争、この作戦の成否に関わらずこれを回避するには現状我らが首都を取り戻し人間に魔族の力を誇示するしかないと話し合いで決まった事よ」


 「……チッ!」


 ハルカさんはそれ以上何も言い返せなかった。


 場の熱量が一気に下がり、全員の表情は暗く影を落としていた。

 この作戦は増長し拡張主義に走っている現在の人間に杭を刺す方法としては最適かもしれない。


 しかし私達が失敗すれば……その先に待っているのは多くの犠牲を出す戦争に繋がるという事実は非常に重くのしかかるプレッシャーとなっている。


 でも私は――。


 「勝つしか……勝つしかないのであれば勝てばいいんです、だったら絶対勝ちましょうッ! 皆さん……戦争なんてさせません、転生者を止める――それだけで解決する話です」


 少しの沈黙の後、私の言葉に反応してくれたのはドラコとメイガスであった。


 「そうです、そうですとも~! こちらには多くの魔王種が集まっています、たかだか転生者一人と人間如きに負けるどおりがありませんよ~」


 「ったくお前は簡単に言ってくれるぜ、だがそうだよな! ルイ! なにあのロリっ子みたいに負けた前提の話考えて暗くなってんだか、んなもんやってみなくちゃ分かんねぇよな!」


 ドラコのロリっ子発言に吊られるようにハルカさんも声を上げた。


 「おい! そこの龍! ロリっ子って誰の事だ! ――いやしかしあんたの一言で目が覚めた、結局オレ達がここでウダウダ言っても出来る事は全力で作戦を成功させるしかない……そういう事だよな?」

 

 皆が自分を鼓舞し前向きな気持ちになった事を確認した竹田さんは待ってましたと言わんばかりに椅子から立ち上がる

 

「よし! お前らもようやく覚悟が決まったってか? じゃあ早速作戦の第一段階始めるぜ……ちょっと待ってな」


 なにやら竹田さんは少し離れた場所に移動し、座禅を組み詠唱を始める。


 「ん? あのエルフあんな隅っこで何をする気なんです~?」


 メイガスの疑問に双子スライムのアキナとナッツが答える。


 「……念話よ、恐らく首都に残されている魔族に対して避難を呼びかけてる」「竹田は伊達に管理者やってる訳じゃないんだぜ!!!!」


 「八千の兵士と僅かな民間人じゃこの都市は回せないからな、労働力として一定数の魔族もまだ残ってんだそいつらの避難と都市のボイコットを含めた撹乱及びにこれで俺らは全力で戦えるようになる、頭の良い作戦だろ?」


 念話を終えた竹田さんは二人の話にそう付け加え、自身の賢さをアピールしていたが途中でマフユに遮られる。


 「――という事だ、因みに避難の発案者は母様だ……バカの話はこれぐらいにして、作戦開始は避難が完了する一時間後、それまで各自準備を整えてくれ、時間になり次第、対転生者のメンバーはあそこにある赤い扉、対兵士のメンバーは青い扉に集まってくれ……私からは以上だ」


 マフユの号令で皆が席を立ち、各自様々な思いを持って作戦開始を待つ。

 

 緊張で動き回る者や話に花を咲かせる者、夢中で菓子をつまむ者、一人静かに精神を集中している者(寝てるだけかもしれない)など様々であった。



 そうこうしているうちにあっという間に予定の一時間が経つ。


 「――時間だな、あの扉をくぐった先からは敵地、いいか皆……絶対に死ぬなよ、行くぞ」


 「おうよ」「はい!」「ええ」


 扉がゆっくりと開かれた。

 

 ――その先には月明かりで照らし出された長い廊下が広がっていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る