第16話
「――それでは姉様、私達はこのまま王の間に向かいます、そちらもお気をつけて」
「ふん、オレ達の事は心配する必要ないぜ、ちょっくらゴミ掃除してくるだけだ」
ハルカさんはマフユにそう告げると竹田さん達を引き連れ、長い廊下の先にあった階段をゆっくりと降りて行った。
「……さぁ私達も転生者の元へと向かいましょうか」
私達は階段を降りずにそのまま真っすぐに廊下を歩いていく。
コツコツと足音だけが響く静かな時間が続く。
不思議な事に城の警備は皆無でそもそも人の出入りが殆どないのか調度品に埃が積もりかかっていた。
「なーんかやけに静か過ぎるわね、この城」
イザナミさんは退屈そうに辺りを眺めながらそう呟く。
「人間達には興味がないのでしょう恐らくこの町、いやこの国自体が……あくまでここはやつらにとっての中継地点でしかないのよ」
冷静な口調でそう語るマフユだがその瞳には内なる怒りを秘めているのが伝わってくるほどに熱いものがあった。
――ドーーーンッ!!!
「うぉ、なんだ?」
数分程歩いた頃、突如として外から城全体を揺らすほどの爆発音が何度も響き渡り、私達は足を止める。
「あっ、あれ!見て」
私は近くにあった窓から外を眺めると数キロ先にある小高い丘の上にカラフルな火柱が何十本も立ち上り、イルミネーションの様に周囲をド派手に照らしていた。
まるで花火の様な綺麗な光の下でテントの様な建築物が大延焼を起こしておりその中から慌てて人間の兵士が飛び出してきているのが目視で確認できた。
「……人間が陣を構えている場所よ、あの様子じゃどうやら姉様たちの心配をする必要はないようね」
「すげぇ、あれがあのロリっ娘の魔法だってのか! あいつ口だけじゃなかったんだな」
ドラコは興奮気味に窓から顔を出して目の前の光景を見つめている。
確かに見た感じ既に人間側に反撃できる余裕も無さそうだし向こうは大丈夫そうに感じる。
「あれでも周囲や味方に被害が出ぬように調整しているわね、本当の姉様の力はあんなもんじゃないわよ……それより私達もそろそろ行きましょうか」
先に歩き始めたマフユに私達は急いで追随する。
そこから更に廊下を歩き進めていくと周囲の雰囲気が突如として重苦しくなり何者かの殺気を激しく感じるようになっていた。
――恐らくこの先に転生者がいる。
マフユの歩みが止まった。
「さぁみんな、ここよ」
マフユの指差したその先にはラスボスが好みそうな大きく豪華な扉が設置されていた。
ゆっくりとマフユがその扉に手を伸ばそうとしたがそれは叶わず、扉はギギギと音を立てひとりでに開いていく。
扉先から小さく声が聞こえてきた。
「やぁやぁ魔物の皆さん……まさか正面から堂々と入ってくるとはね、さぁ奥にどうぞ」
「……ふん、我が家にコソコソ裏から上がり込む奴なんている訳がないでしょ皆ここは歓迎に甘えさせてもらいましょう」
私達は転生者の待つ王の間へと歩を進める。
荘厳な雰囲気を放つ王の間は月光のみに照らされた薄暗い廊下とは打って変わり宝石が装飾された煌びやかな照明がだだっ広い空間全てを非常に明るく照らしていた。
「――やぁ初めまして」
王の間の中央に立っていたのは不格好な貴族の衣装を身に纏う長身やせ型のひ弱そうでいかにも現代人な男性が私達に声をかける。
「まさかあいつが転生者?」
「あらあら、思ったより見た目は弱そうね」
確かに一見そう思える見た目だが彼の放つプレッシャーは相当なものでイザナミさんも軽口を叩いてはいるがその表情に一切の油断はなかった。
しばしの沈黙。
誰が仕掛けるか独特な緊張感が漂う中、転生者はドサッとその場に座り込み口を開く。
「さてと、まぁあれだ名前も知らない相手に殺されるのは何か可哀想だから取り敢えず名乗っといてやるよ俺はサクラ・リュウジ短い間だが――――」
「――ファントムブレイズ!!!」
ヒュンッ! ドドドドドドーーンッ!!!!
マフユが発した呪文の声と共に無数の紫炎が転生者サクラリュウジに向かって放たれ連続爆破を起こした。
「――やったか!?」
「ナイスドラコ! いいテンプレだ! バカタレが!!!」
「えっ?」
私のメタなツッコミに触れてきたドラコをスルーして爆発後の煙の先を見る。
ほら、言わんこっちゃない人影が立っている。
煙が晴れ再び私達の前に転生者が姿を見せる。
「……グエッ、ゴホッ」
……え?
確かに転生者はその場に立っていた。
しかしそれはいつの間にか背後を取ったイザナミさんに素手で腹を突き刺され吐血しながらだ。
「ほいっ」
イザナミさんは腕を振り払い彼を壁に叩きつけた。
ドンッ! ドサッ。
勢いよくぶつかった壁に血を塗りたくり、ゆっくりと崩れ落ちるサクラリュウジ。
一瞬、勝負あったかに思えたがその天望はすぐに覆される。
大穴の空いた彼の腹部はすぐに再生を始め傷口は完全に塞がり、その後まるで何事も無かったかのように立ち上がった。
「……自己再生、か」
「ふふふはははははははッ驚いたよ、まさか俺の体を貫通させる攻撃力を持つものがいたとは」
リュウジは狂気に駆られたかのような笑みを浮かべイザナミさんを見つめそう言い放つ。
「――確かに人体としてはありえない程に硬いわね、あなた」
イザナミさんの腕からは人体を貫いた敵の血だけでなく指の骨が折れ肉が剥がれ傷ついた自身の血も多く流れ出ていた。
そんな状況にも至って冷静にイザナミさんは指先や腕を軽く動かしてから戦闘に支障が無いのを確認している。
「ははは無駄無駄無駄無駄無駄ァ、俺様の鉄壁の防御力を貫通させたのは褒めてやるがそれまでだ――あんたの腕はしばらく使いもんにならねぇし、それ以上の攻撃力が出せないのならお前らは一生俺には勝てない――」
――ドゥン!
「ほざけ! イザナミは負傷したが俄然有利なのは私達だッ」
マフユは一声を発し、敵が動き出す隙を与えぬように火球を放つがその全てが直撃してもまるでダメージを与えられずにいた。
「なんなんだこいつは! まるで攻撃が効かない」
ブゥンッ……キンッッ!
「うぉ硬え!!」
マフユの魔法と上手くタイミングを合わせ完全に隙をつき振り下ろしたドラコの一閃もいとも容易くはじき返される。
「いいぜ冥土の土産に教えてやる俺の最強の能力――超防御、超魔法防御そして超リレイズそれがこの俺『玄武』の力だッ!!! だからお前らはこの俺の超防御を貫通しつつ一撃で倒すしか道はないんだよォ!!! まぁ無理だろうがなァ!!!」
――そんな敵に勝てる方法があるだろうか? 私はRPGで得た知識を必死に思い出していたその時、いつの間にかこちらに後退していたイザナミさんが肩を叩く。
「そんなに考えなくてもルイちゃんあいつは対して強くないわよ、後はマフユちゃんとドラコちゃんと貴方で十分やれるわ」
「ええ!? そんなハズは」
「いいからいいから、ちゃちゃっと行ってきなさいな」
自信は全く無かったがイザナミさんに背中を押されマフユの隣にノープランで立たされた私。
「ったくいつまで貴方はボッーっとしてんの! 次の一撃を当てたら前に出るわよ! いいッ?」
「わっ、わかった! こうなったらやってやる!!」
「メイガスちゃ~~ん手が痛いから回復お願いね」
私達の背後で負傷した手をぶらぶらと振ってメイガスを呼びつけるイザナミさんに対しメイガスは含みを持った笑いを浮かべながら駆け寄る。
「……治す必要はないでしょ~ナミちゃん…………それよりも万が一『ヤツ』がここに現れた場合には――」
「ええ、分かっているわ」
私達の後ろで小さく聞こえてきたイザナミさんとメイガスの語る『ヤツ』の正体が判明するのにはここからそう時間はかからなかった。
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