第12話
「どうりゃああああああ!!」
片腕が砕け散りバランスを崩したゴーレムにドラコはすかさず追撃を加える。
ズバッッ! ……ズンッ。
今度はゴーレムの右足を両断。
これによりゴーレムは自身の自重を支える事が出来なくなりその場に崩れ落ちる。
「やったか!?」
おいいィィ! そのワードは!!!。
……恐らくドラコの魔法の言葉が世界の理に触れたのだろう、直後ゴーレムの崩れたパーツ達は引き寄せられるように本体に癒着し始め、数秒後にはゴーレムの体は殆ど元通りに復元されてしまった。
「おい、こいつ再生したぞ! そんなの有りかよぉ」
「ええ、そりゃゴーレム定石でしょ石だけに……コホン、ああいう無機物からできた生命体は大抵魔力の源であるコアを破壊しないと再生し続けるものよ」
ドラコの元へとたどり着いた私は口早にそう言った。
「へぇルイ随分とゴーレムに詳しいじゃねぇか」
「ええ、まぁね」
(流石に説明めんどいしゲームとアニメの知識だとは言えないよなぁ……)
「それよりも弱点が分かってんのなら話は早い――それで? ルイあんたは具体的にヤツのどこにコアがあると思う?」
それについても鉄則というかお決まりがあると思われるのでこの質問にもすぐに答える事が出来た。
「多分頭か胸の辺りだと思うわ、多分コアはご丁寧に弱点ですよって分かり易く輝いてると思うわ」
「おっ、おう……そうか」
ドラコは何やら微妙な表情を浮かべこちらを見ている。
ん? 私は何かおかしなことを言ったのだろうか?。
「その……だな、うっすらだが光ってる場所が見えるぜ」
やはり思った通り、だったら話は早い。
「多分そこにコアがある筈よ! それでその場所は?」
ドラコはかすれる様な小さな声で一言だけコアのある場所を呟いた。
「…………股間」
「………………えっ」
「だから……股間」
「は?」
私はチラッとだけゴーレムの股間に視線を合わせた。
……確かに股間から赤い光が漏れ出しているのが確認できる。
取り敢えずあれだ。
こいつを作ったセンスの悪い奴は今すぐ死んで欲しい、マジで。
「あほくさ」
こんなヤツと一秒でも戦いたくない私はゴーレムが再起動するよりも前に敵の股間に怒りを込めた全霊の拳で外殻ごと内部に埋め込まれていた赤い水晶で出来たコア貫き、ゴーレムの体からはじき飛ばした。
宙へと投げ出されたコアは光を失いその場で砕け散る。
コアを失ったゴーレムは意思の無いただの岩塊と化し完全に沈黙。
これにてこの戦いは私の奮闘(?)もあり、あっさりと終わりを迎えた。
「すっすげぇ……あれオレいらなかったんじゃ」
「意外と見掛け倒しね……ふんっ!」
全くうら若き乙女にこんな恥ずかしい思いをさせるなんて……戦術で勝って戦略で負けた最悪な気分だわ。
「ほうほう私が寝ている間にストーンゴーレムと戦っていたとは」
戦闘終了後の図った様なタイミングでメイガスは特に悪びれる様子もなく私達の元へとやってきた。
「メイガス少し来るのが遅かったわね」
私は皮肉を込めてメイガスに毒づいたが彼女は意にも介さずに話を続けた。
「いえいえ~遅いという事はありませんよ姫様、寧ろここからが本番です」
「本番?」
「……メイガスは何言ってんだ?」
メイガスの意味深な発言に眉を顰める私とドラコ。
「さぁさぁ前をご覧ください、第二ラウンド開始ですよ」
メイガスの言葉に合わせ私達は前方にあるゴーレムの残骸を確認する。
すると砕け散り、機能停止した筈のゴーレムのコアの破片達が独りでに宙へ浮き光を放ちながら集合し始める。
「あれは!」
ゴーレムのコアが変形していく。
破片のコア達は大小様々な大きさの六角柱の赤水晶へと姿を変え、複雑に重なり合いながら手足を模した人型の物体へと変貌を遂げた。
「水晶の……ゴーレム?」
先程のやつから変化したとは思えない人間の背丈程しかない程の小柄な赤い水晶で出来たゴーレムは地面から少しだけ浮いた状態でその場に立っていた。
「一つ言っておきましょう余分な外殻を落とし全身がコアで出来ているあの姿のストーンゴーレムいや……進化を遂げたクリスタルゴーレムは強いですよ」
「全身がコアですって! それ、どこのゲ〇ヲン? ったく、お約束でこういうやつを倒すには塵一つ残さず完全に消滅させないといけないってやつでしょ?」
ほんっと予備知識様様だと思うわ異世界って、こんなのと完全初見でやり合うのはまず無理ですわぁ。
「お約束をよく分かってらっしゃる流石です、ちなみにヤツを消し去る消滅魔法は私にお任せを、そんな訳で一つお願いしたい事があります、消滅魔法をぶち当てるために姫様とドラコにはヤツがちっとの間動けなくなるくらいの隙を作って貰いたいですね~」
メイガスは手を合わせてこちらにお願いする素振りを見せた。
「はぁ……まぁそういう事ならしょうがな――」
「――合点承知ッ!!」
「ちょ!」
私の返事よりも先にドラコが動く。
一つ思ったことがある。
多分ドラコは相手が強ければ強いほど血湧き燃え、戦う衝動に駆られるかな~り危ない思想の戦闘民族タイプなんだと思う。
「おりゃ! 裂空斬!」
勢いに任せドラコはゴーレムに飛び掛かる。
変化を遂げたゴーレムに未だ動きはない、さっきのやつと同じく対象が近づくまで動かないだけかもしれないが。
ドラコの構える大斧がゴーレムを両断せんと一気に振り下ろされる。
果たしてドラコの即行動は吉と出るか、凶と出るか。
――ヒュン。
ゴーレムによる予備動作の一切ない超スピードのバックステップ。
これによりドラコの一撃はゴーレムに命中する事は無く虚しく空を切り裂いた。
「――なに!?」
攻撃の勢い余って前に出た隙だらけのドラコを振り上げた腕で薙ぎ払うゴーレム。
「がはっ」
強烈な一撃を受け吹き飛ばされたドラコだったがなんとか受け身を取り体勢を立て直す。
「ドラコ、大丈夫?」
「ああ、なんとかな……気を付けろ! 次が来るぜ」
――グォン。
最適距離の獲物を見定めたゴーレムは風切り音と共に超スピードでまっすぐ私に接近する。
こいつッ、動き自体は機械の如く正確過ぎる動きが逆に仇となり規則的で非常に読みやすく大した事はないが、問題なのはそのデメリットをかき消して尚余りある圧倒的なスピードが厄介過ぎる。
「くっ!」
回避どころか防御すら間に合いそうにない。
「クソォ!!!」
すでにゴーレムは私の至近に迫り攻撃態勢を取っていた。
敵の音速を超える正確無比な突きが私の心臓めがけてまっすぐ飛んでくる。
「ルイッ!!!!」
少し離れた場所からドラコの悲鳴にも似た叫びが聞こえてくる。
時に死を賭した剣豪同士の鍔迫り合いは実際の時間経過よりも非常にゆっくりと感じるという。
今の状況は少し違うのだが私の身にはそれに近い現象が起きている。
あぁ……これが死を感じる戦いか。
スローモーションの様に迫る敵の突きに対して頭で考えるよりも先に自然と体が反応した。
――ガンッ!!。
私の繰り出した無意識の拳は敵の突きを相殺、周囲に突風を巻き起こし火花を散らす。
数分にも感じた一瞬の攻防で私の肉体が本能が下した判断は防御でも回避でもなく攻撃による相殺であった。
攻撃こそ最大の防御、ある意味それを実践した訳か。
「……まだだ!!」
――キィン!!!
いつの間にか私達との距離を詰めていたドラコはゴーレムの裏を取り敵の腹部に大斧の一撃をブチかまし勢いよく吹き飛ばす。
ドラコは恐らく私を助けるために急いでこちらに向かっていたのだろうか。
その献身的な行動が逆に功を奏した良い追撃となった。
吹き飛ばされたゴーレムは身動きが取れぬまま派手に木にぶつかりの静止、被弾箇所を中心に水晶で出来た体全体に大きなヒビが走る。
「やるわね、ドラコ」
「おいおいそれはルイお前の方こそ……おっとまだ長話する暇はないみたいだぜ」
流石は全身コア、ボロボロだったゴーレムの体は既に修復が始まっていた。
「敵が動く前に叩く! ついて来いよルイ!!」
「ええ!!」
そう言葉を交わしたドラコと私はゴーレムに向かい共に駆けていく。
全力前進ただ一直線に。
…………突き進む筈だった。
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