第11話

 

 ――町の端にある馬車の待合所、一先ずそこに私達は向かった。

 

 「――しっかし旅のお方達もグーラとは随分危ない所に向かわれる……勿論代金を貰った以上あっしは目的地までお連れしますが、正直旅先としてはお勧めは出来ませんな」


 「構いません、それに危ないと感じたら私達に遠慮なく引き返してください」


 「そう言われちゃ敵いませんわ旅のお方達も何かあの場所へ行く理由が御有りのご様子ですしな……あっしはこれ以上何も言わずに連れていくだけでさぁ」


 目的地を聞いて私達を心配してくれていた御者のおっさんに何とか納得してもらい馬車へと乗り込む。

 

 現在地ルミンからグーラまでの道のりは歩くには少し長い。

 そういう訳で私達はルミンで馬車を手配しグーラへと向かう運びとなったのだ。


 晴れ渡る青空に心地よい風を受けながら煉瓦で舗装された綺麗な街道を快調に走る馬車に揺られながら私は一人、物思いに耽る。

 ……というより他の二人はすでに寝ているので他にやる事が無いからだけどね。

 

 スライムの国グーラの首都ハーヴェストの解放。

 

 そして今後広がりを見せそうな人魔戦争の回避。


 そんな一大事に私を巻き込んだ母の真意は未だ分からずにいる。


 何故こんな世界にこんな状況にそしてよりにもよって魔族になってしまったのかと考える程に頭が痛くなる。


 「……考えても無駄だよねぇ、よし私も寝るか」


 心地よい陽気と適度な馬車の振動が重なっている絶好の昼寝日和に耐えられる訳もなく私の瞼は徐々に重くなり、ゆっくりと眠りに落ちた。

 





 「……旅のお方……おーい…………旅のお方ッ!」


 「はッ!?」


 ……おっさんの声で目が覚める。

 

 目を開けた先にはおっさんが少し慌てた表情でこちらを見つめている。

 周囲を見た感じメイガスはまだ眠りについているがドラコの姿は荷台にはない。


 「あーやっと起きましたかい、旅のお方……少々面倒な事になっちまいましたよ」


 「へ? もしかしてもう目的地に着いたの? それとも夕食かしら」


 半分寝ぼけ気味の私の問いかけにおっさんは何も言わず首を振り街道の方を指差した。


 合図を受け私は荷台から顔を出し街道の方を見る。


 「――ッ!?」


 視線の先にはRPGでは定番中の定番の街道を塞ぐ大岩が目の前に聳え立っていたのだッ!。

 

「ありゃギルド危険度A+のストーンゴーレムですぜ、街道を遮るように佇んでいる事から考えるに野生のやつって訳でもなさそうですなぁ、もしかしたら昨今の周辺地域のきな臭い動きを警戒したどこかの国がグーラとの国境を封鎖したかったのかもしれませんな」


 「……それでグーラへと続く道はここしかないの?」


 「あるにはありやすが……別の街道を通るとなると遠回りになる上、結構な距離を戻る必要がありますな、それこそ数日の遅れは確実でしょうな」


 「……そう」


 おっさんは悩ましそうに私に対しそう答えた。


 「――問題ないぜ、あいつを倒せばすべて解決する話だ」 


 馬車の荷台から姿を消していたドラコは外で座り込みながら目線の先にある大岩をどこか嬉しそう表情で眺めていた。


 「あらドラコそんな所に……って、え?」


 その後ドラコはゆっくりと立ち上がり体をほぐし指を鳴らし終えた後自身の武器である大斧を手に取る。


 「ちょ、ドラコあいつと戦う気!?」


 「旅お方ぁ!!! ストーンゴーレムは危害を加えぬ限りは無害な魔物ですしここは遠回りになりやすが迂回するべきだと思いますぜ」


 「あぁそれは知ってるぜ! おっさん」


 視線の先にいるあいつは私が戦ったベルガを遥かに上回る広い街道を完全に塞ぐような巨大なゴーレム。

 迂回が出来るのならばわざわざリスクを負って戦う必要のない相手だ。


 そう、迂回出来るのならばね。

 

 見た所街道にはズラッと退魔灯が設置されておりこれのお陰で街道の安全が保たれている。

 (魔物ってそんな害虫駆除みたいな装置で対処出来るのかとは思うが……)


 周囲に分かれ道は無く、万が一迂回するとなると来た道をかなり戻る羽目になる……もしくは街道を外れるかだ。

 しかし街道を外れるルートを選ぶ事は先ず無いだろう。

 何故なら今は夜、魔物が最も活発に動き始める時間だからだ。

 

 まぁこんな場所に現れる魔物なんて目の前の例外を除いて雑魚である事はまず間違いない。

 とはいえ私達はそれで平気でも足である馬を失っては元も子もない話だ。

 だからこの場合は一見悪手に見える中央突破のドラコの選択に理があるとは思う。


 「おっさん、馬車を少し下がらせて」


 私はおっさんにそう告げ馬車を飛び降りた。


 「……ったく危なくなったらすぐ戻って来てくださいよ」


 「あら、意外ね止めないの?」


 私は今まで安全を第一に考えていたおっさんがこの時だけやけに素直なのが気になって声をかけた。

 その問いに対し少し困り顔を見せたおっさん。

 

 「そりゃ止めるも何も……あの戦士のお方……もうヤツの方へと一人で突っ走ってますぜ……」


 「……は?」


 私は前方に目をやるとそこには雄叫びを上げ大斧を振り上げて猛然と敵に向かうドラコの姿があった。


 「どりゃあああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!! 覚悟ォッ!!!」


 


 ――ゴーレム、その歴史は古く原初の時代から術者よって作り出される人工の生命体。

 今はこいつが何故この道を塞いでいるのかは本当の理由は分からないが私達にやれることは一つ。

 

 目の前に障壁があるのならそれを突破するだけだ。

 

 街道を塞ぐゴーレムはプログラムされているかのように一定距離に近付いたものを排除する。

 そして今宵、排除対象を検知したゴーレムはゆっくりと起き上がる。

 その姿はまるで地上を覆い隠す壁の如く巨大な物であった。


 ゴーレムは右腕を後ろに下げその視線の先にある武器を構える米粒の様な排除対象に対して巨大な拳による一切の工夫も何もない単純明快な巨体を活かした力でのゴリ押し。

 

 一発でも貰えばひとたまりもない攻撃、ゴーレムの渾身の右ストレートが対象に迫る。

 その一撃に合わせるかのように対象はゴーレムの拳に武器を振り下ろす――。


 ――地響きと衝撃波が辺り一帯に広がる。


 勝負はわずか数秒。

 この一撃であっさりと決し――てなどいない。

 

 攻撃を当てた側のゴーレムの右腕にビキビキとヒビが入り轟音を立てて崩れ落ちていく。

 

 「…………脆い、脆い、脆いぜッ! ゴーレムさんよぉ!! おめぇの実力はそんなもんか!」


 巨大なゴーレムとの真っ向からの力でのぶつかり合い。

 

 勝利したのはドラコであった。

 

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