第3話

 「――ここは?」


 ――たしか、お母さんに世界を見てこいとか……そんな感じな中二っぽい事を言われた後に魔法陣が足元に……。


 


 ポケットの中には一つのメモ書きが入っていた。

 

 装備とお供はサービスよ、母より。


 水溜まりに反射する自分を見てみる。

 

 白を基調とした衣装にフード付きマント。

 青の混ざった灰色のストレートヘアーに透き通るキリッとした蒼眼、細身長身でスラッとしている体格だからこそ目立つ、奥ゆかしさを隠しきれていない胸。

 あれ、私こんなにおっぱいあったっけ?

 

 それらの身体的な特徴の良さを引き出した様な流線形のデザインの衣装の締め付けが少し気になるものの体の可動域は広くそこまでの窮屈さは感じない。

 

 なによりその全ての装備が羽根のように軽い素材で出来ているため、重量感が全く無いのは最高だった。


 「ポーチの中には金貨と食料、よく分からない薬品……武器は無しか」


 はぁ~っとため息を一つ。

 

 「状況的には転移魔法で飛ばされたと考えるのが妥当かな……ファンタジーの鉄則だしね」


 異世界で奇跡的な再開を果たした母に出会って小一時間後には問答無用で転移魔法を使われ、知らない土地にぶっ飛ばされるなんて前代未聞の急展開すぎるよ……まったく。

 

 しかしだ、この状況に思った以上に落ち着いていられるのは、多分短い人生の中で無駄に蓄えてきたアニメやゲームの予備知識がある所為か……。


 あるいは驚きの連続でだんだんと感覚が麻痺しているだけなのかもしれない。

 

 それよりまずはここについてだ。

 

 再度今いる場所に目を向け俯瞰的に観察してみる。


 しかしあれだな……この平原は……旅の始まりっぽい場所という風景ならば満点を点けていいレベルだ。

 太陽は輝き雲一つない青空の下、躍動する生命。

 木々は騒めき、風は踊る。

 鳥はまるで自分達だけの専有地かの如く空を自由に飛翔し、動物達の群れは気持ちよさそうに木陰で昼寝をする。


 「……【安寧の平原】そう名付けよう!! 早速探索してみようかな!」

 

 正直、未知の世界を冒険していくっていうのは多少なりとも憧れはあったし、そこまで悪い気分ではない。

 そんな新米冒険者の高揚感に浸る私に水を差す一言が丁度真後ろの辺りから聞こえてきた。


 「ふふふ、残念ここは【ベルガの狩場】と呼ばれる場所で昼間は草食獣達の憩いの楽園ですが、夜になると環境は一変、広く遮蔽物は存在しないこの空間には当然草食獣達の隠れる場所は無いに等しく肉食獣達にとっての恰好の餌場となる場所でして――ギルドの適正ランクはB+に指定され新米冒険者には場違い感半端ない危険地帯ですよ~」


 「うおッッッ!!??なに!?」


 私は咄嗟にオタク特有の早口の様なスピードでこの平原の説明をする声の方向から距離を取り、振り返る。

 

 ――そこにはメイド服に大きな魔法使いの帽子組み合わせた、変わった格好の私より少しだけ背の低いミステリアスな少女が立っていた。


 ひょっとすると彼女が母のメモに書いてあったお供?


 少女はセミロングの青髪を平原から吹く爽やかな風に靡かせながら、赤のインナーカラーの隙間から見え隠れするアメジストとサファイアを思わせる光沢と透明感のある紫と青の二つの色違いの瞳でこちらを窺った後に、丁寧にお辞儀をし、挨拶してきた。


 「初めましてルイ様~私はメイガスというものです、魔王様より貴方様のお供を申し遣わされたメイドにございます」

 

 やっぱりそうだった、しかしずいぶんと可愛い感じのお供だな。


 「あっ……どうも……その早速で悪いけどメイガス……さん? ちゃん? さっき言ってたここが危険地帯っていうのは本当なの?」


 メイガスは何言ってんの当たり前でしょ? と言わんばかりの顔で私の問いに答えた。


 「メイガスでかまいませんよ~、ま~はっきり言って、戦闘経験の無いルイ様のみでしたら残念ながら冒険の書は初日で終了って事にもなりかねません、魔王様も随分ととんでもない場所を旅の出発地点に選ばれたものですね、あれですか~獅子は子を敢えて崖から落とすってやつですかね~」


 「そんな教育方針で育ったつもりはないのだけれど……」


 「ですよね~、まっ私がお供として付き添う限りルイ様は危険な目に合う事なんてほぼ無いと思いますけどね~」


 「へーメイガスは偉く自信があるのね」


 「ええ!!!もちろん!! …………逃げ足には!!!魔界最速の帰宅部!コーナーで差を付けろですよ!!!」


 「…………………は」


 「……あのー、一応言っときますが冗談ですよ?」


 この会話で大体察するにメイガスは絶対メイドには向いてないな。

 うん、間違いない、主を不安にさせる冗談を言うメイドなんてすぐにクビだよ。

 

 「んで、旅のお世話してくれるって話は正直凄く有難いんだけど、一体全体これから私はどうすりゃいいの? メイガス」


 異世界での冒険探索といえば聞こえはいいが流石に何か目的が無いと締まらないものだ。

 ゴールの無いまま放浪するってのもそれはそれで乙だが、母がわざわざ世話役をよこしてきた。

 きっとそれは何か意味がある行為に違いない。

 

 ……のだが、メイガスは少し困り気味に 

 「私もよく分かりません!ただルイ様に付いて行けと!!」


 「マジで?」


 「本気です、ほんきと書いてマジって読むくらいマジです!…………あっ待ってください」

 

 「ん?」


 「……とりあえず~~地図はありますので~、行きたい場所でも探してみます?」


 おっ、それは中々の名案かも、知らない土地を手掛かり無しで歩き回るよりは遥かにマシだ。

 

 「オーケー、ちょっと見せて」


 メイガスは四つ折りにされた地図をポーチから取り出し私の方へと差し出す。

 私はそれを受け取り、地図に目を通す。

 

 ……

 

 …………


 ………………


 ……なるほど、さっぱりわからん……あれだ、そもそも言語が分からない。

 熱い所、寒い所、色分けされた魔界と人間界? 斜線は中立地?

 この地図からはそう言う断片的な物しか読み取れなかった。


 結局。


 「メイガスぅ~まず現在地から一番近い町に行こうよ」


 まずはゆっくり今後の方策を練られる場所への移動を提案した。

 決して地図がよく分からなかったわけではなく!


 「……とりあえずルイ様は言語の勉強をしないとですね~」


 「うっ!」

 

 メイガスにはバレてたか。


 「それはそうとして……その案については賛成です、それが無難っちゃ無難ですしね~、ん~それでしたら北東のルミンの町がよろしいかと、ここからであれば危険度がマシマシの日没より前には辿り着けるでしょう」


 「分かった決まりね、それじゃ目的地ルミンまでレッツゴー!!!!」

 

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