第93話 攻其無備、出其不意。此兵家之勢、不可先伝也

相場にあざむかれないように、冷静に観察する。

仕込む前から、勝てると確信できるような状況になって、初めて仕込む。

その見込みが甘いと、トータルで勝てない。

この時よろずのは、遥香にゲーム内での失敗を例にして教えてくれた。



「カブトレしてて、損切りで売った時、なかなか売れなくて損失額が予想外に大きくなったことは無いか!?」

「それは、あります。」

「どう対処してる!?」

「どうって・・・・、諦めてます。」

「ま、普通はそうなるな。いいか!?騰がっている時は、盛り上がっているから売買代金も大きくなる。でも、一旦、反落の動きになれば、買い方は急減する。だから、買った時のように自由に売れなくなるのは、当たり前のことなんだ。」

「なるほど。じゃ、どうすれば、良いんですか!?」

「方法は2つ。騰がっている間、つまり売買代金が多い間に売るか、そもそも売買代金が細りそうな銘柄の売買は見送る。」

「なるほど。」

「売るに売れないのは、敵に『無防備を攻められ、不意を衝かれてる』ってことだよ。」

「逆かぁ~~。」


それからは、これまで以上に、売買代金に気を留めることにした。



――【孫子】――――――――――――――――――

その無防備を攻め、不意を衝かなければならない。

これが兵法でいうところの兵の「勢」であって、予め教えることができないものなのである。

――――――――――――――――――――――――


――【投資】――――――――――――――――――

相場の極みで仕込み、事前に予想もしていない銘柄を拾わなければならない。

これが株式投資でいうところの「相場の流れ」であって、予め教えることができないものなのである。

――――――――――――――――――――――――



相場の無防備とは、例えば買い方にとっては、売り玉が切れたところだ。

相場は、自分以外の投資家の集合体だから、他の投資家の中で、売りたい人が売り切った瞬間が、その時になる。

売りたい人が売った後は、売りたい人が居ない。

つまり、売り玉が出ないということになる。



売り玉が出なければ、株価は下がりようがない。

株価が下がらなければ、短期投資家が買いを入れてくる。

下がらないなら、同値のままか、騰がるしかない。

つまり、ローリスク=ハイリターンの状況になるからだ。



しかし、多くの投資家は、まだ売りが出るのではないかと用心している。

そろそろ買いかと思いつつ、さっきまで続いていた下げる動きに疑心暗鬼になっているのだ。

だから、こそチャンスなのだ。

他の投資家が買ってからでは遅い。

その分、株価は反転しているからだ。



だから、相場の、他の投資家の不意を突かなければならない。

まだ買おうか迷っている段階で、買いに出るのだ。



つまり、相場の流れと言うのは、他の投資家の感情の動きと言い換えることができる。

他の投資家の感情の変化が考えを変えさせ、相場の流れを変化させる。

人の感情の変化などは操れない。

だから、事前に知ることはできないのだ。



「つまりだ。世間の感情を知るのが重要なんだよね。だから、世間の感情を誘導しているニュースが大事って言われたなぁ~。」


よろずのが、相場の転換点は一般のニュース番組が参考になると言っていたことも、遥香は思い出していた。

相場の暴落は良くある。

モーニングサテライトで報道されても、一般人は知らない。

が、普通のニュースで報道されると、一般人が知るところになり、暴落という事実が一般化したことになる。

一般化すると、政治家は、問題を対処する必要性に迫られる。

よって、口先介入や、本腰を入れた対策を考え始める。

そうなると、相場の底打ちは近くなるのだ。

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