第92話 利而誘之、乱而取之、実而備之、強而避之、怒而撓之、卑而驕之、佚而労之、親而離之

投資が戦いより難しいところは、敵が個人ではないこと。

相場と言う自分以外の投資家の総体であること。

そこでよろずのは、具体的に例を挙げて教えてくれた。



――【孫子】――――――――――――――――――

また、敵が利益を求めていれば誘い出したり、

混乱していれば奪い取ったり、

充実していれば備えたり、

強ければ避けたり、

怒っていれば掻き乱したり、

謙虚であれば増長させたり、

楽をしていれば疲労させたり、

親しんでいれば分裂させたりしなければならない。

――――――――――――――――――――――――


――【投資】――――――――――――――――――

また、相場が儲け易そうな動きであれば見送ったり、

混乱していれば退却したり、

充実していれば反落に備えたり、

弱ければ避けたり、

急落していれば安値を拾ったり、

上昇していれば売り場を考えたり、

急騰していれば高値を売ったり、

全ての指標が同一方向を示せばその反対を疑わなければならない。

――――――――――――――――――――――――



自分の目で儲け易そうと思える相場は、誰が見ても儲け易そうなのだ。

だから、自分と同じように乗り遅れまいと、他の投資家も一緒になって買いに来る。

つまり、一気に買い気が噴出して、それに続く者がいなくなる。

買いが続かないと反落する。

だから、儲け易そうな相場は、見送った方が賢明なのだ。



事件や事故が起これば、相場は混乱する。

一方的に売り買いが為されるだけでなく、売り買いが交錯することもある。

つまり、値動きが普段の数倍も激しくなるのだ。

こんな時に、対処方法が分からず巻き込まれたら、大儲けすることがあるかもしれないが、大損することもある。

投資は、儲けるより、損しない方が大事なのだ。

だから、そういう時は、撤退してキャッシュを高める。

相場が落ち着けば、いくらでも儲けるチャンスはあるのだから、無理に参加する必要は無い。



相場が充実していれば、反落に備える。

充実するというのは、上昇トレンドになって久しいということだ。

つまり、でいう老陽ろうよう、つまり良いことの最終局面に来ていると考えるのが妥当なのだ。



弱ければ避けるのは当たり前だ。

売りが多い中で逆らうのは、賢い投資家が行う事ではない。

弱ければ避けて、その流れが弱り切って、反転するタイミングを探すのだ。



その弱い流れの中で、最後に急落することがある。

今まで買い支えていた投資家が、投げる瞬間だ。

この時は、絶好の買い場と言える。

騰がると信じて買い増ししていた投資家の資金がショートしたのだ。

この後、更に売るという投資家は、まずいない。

いくら下がっても、持ち続けると決めているような投資家ばかりだ。

となると、売りが切れて、反騰の展開に入ることになる。



これらと反対に、上昇している時は調子に乗らず、売り場を考える。

まだまだと思い込んでいたら、売り場が見失って反落する。

そんなことを思っている投資家は、反落しても、先の高値に戻ったら売ろうと考える。

が、そんな銘柄は、高値に戻らない。

結果、売りそびれて塩漬けになる・・・・。



更に、予想外に急騰していれば、売り場を考えるのではなく、高値を売る。

予想外というのは、自分の考えの中で、騰がる要素が乏しいと判断していたからだ。

自分の能力の枠外の出来事で、上手く立ち回ろうと考えても、思い通りに行くことの方が少ない。

だから、ほどほどで満足する方が結果として良いのだ。



そして、全ての指標が同一方向、つまりこれが物事の最終局面だ。

上昇を疑っていた者までは、「持たざるリスク」を意識して買うような局面。

しかし、そういう乗り遅れた人たちが乗った後に、誰が乗るのか!?

乗る人が居なくなったら、降りるだけだ。



「この8つの動きは、投資家にとっては基本中の基本だと思うよ。だから、投資をするときには、常に思い出しながらやらないといけないよ。」


最後によろずのがそう念を押したことを、遥香は忘れていない。

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