第91話 故能而示之不能、用而示之不用、近而示之遠、遠而示之近

「投資は詭道・・・・。」

「他の投資家に欺かれず、逆に欺くこと。」


遥香が考えながら、ブツブツと言っている。

他の投資家と違う動きをしつつ、儲ける方法を考えているのだ。



全ての投資家は、儲ける為に投資をやっている。

しかし、投資はゼロサムゲームだ。

儲けられる投資家は全体の2割で、残りは損する投資家だ。

なら、儲けようと思って行動しているのに、どうして儲けられないのか!?

それは、相場の動きに欺かれている、騙されているから。

相場は、投資家をどうやって欺くのか・・・・。



こういうことを考えていると、だんだん暗くなってくる。

なんだか、自分が良くない人間になりそうな錯覚に落ちるからだ。


「人を騙す人間を悪人と誰が決めた!?」

「えっ!?」

「例えばだ。損している投資家を騙して儲けさせてやるのは悪いことか!?」

「いえ。」

「多くの人は、間違った判断を平気でする。だからどうしても間違わせたくないときは、騙して正しい方を選ばせる。」

「それより、注意して、正しい方に誘導した方が良いんじゃないですか!」

「注意して聞いてくれるような単純な問題を間違うと思うか!?自分は正しいと思い込んでいる時ほど危なくて、そんな時ほど問題が大きいんだ。」


なんてことをよろずのが言っていたのを思い出した。



確かにそうだ。

簡単に説得して納得できる程度の問題では、誰も間違わない。

説得しても聞き耳を持ってくれない時ほど、重要で間違えてはいけない問題なのだ。



普段から、そういうことに気付くためには、世間に対してしゃに構えることが必要なのだと注意された。

正しいと言われていることが、本当に正しいのかどうか疑わなければならない。

疑い、そして考え、正しいかどうかの判断を自分でしなければならないと教えてくれた。

その第一歩が、これだ。



――【孫子】――――――――――――――――――

だから、できるのにできないように見せかけたり、

必要なのに不必要なように見せかけたり、

近いのに遠いように見せかけたり、

遠いのに近いように見せかけたりしなければならない。

――――――――――――――――――――――――


――【投資】――――――――――――――――――

だから、買われているときには買わなかったり、

売られているときに売らなかったり、

買われ過ぎたところを売ったり、

売られ過ぎたところを買ったりするのである。

――――――――――――――――――――――――



買われている時には、わざわざ買わない。

売られている時には、わざわざ売らない。

逆に大きく買われて、買われ過ぎていると思えば売る。

逆に大きく売られて、売られ過ぎていると思えば買う。



「買われ過ぎって!?」

「普通に出来ている時は、別に買われ過ぎていない。値が飛んだり、ストップ高になったりしている時が、買われ過ぎていると考えて良いかな!?」

「なるほどぉ~。」


遥香が尋ねると、よろずのはそう教えてくれた。



また、この時に、もう一つ大事なことも教えてくれた。

投資が戦いと違って難しいのは、あいたいする敵が、全て相場を通しての関係になってしまうことだ。

戦いなら具体的な敵将がいる。

だから、敵将の過去の戦い方や性格を知ることによって、自身の戦い方を変化させることもできる。

ところが相場では、具体的な敵を知ることはできない。

と言うより、敵は一人ではなく、複数だ。

敵に当たる複数の投資家の総意を知らなければ、その対応を取ることはできないのだ。



昔なら、手口が公開されていたから、敵に当たる複数の投資家の総意をある程度知ることが出来た。

今は、手口が公開されなくなったことから、全く知ることが出来ない。

必然的に、敵の個性は見つけ難いものと扱わざるを得ないことになる。

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