第90話 兵者詭道也

へいとは、詭道きどうなり。名文だよね。」


何度読んでも、この一文の凄みがヒシヒシと伝わって来る。

まぁ、遥香がそう感じるようになったのも、よろずのの布教の賜物なのだが・・・・。



詭道きどう」とは、人をあざむく手段、不正なやり方と訳されていることが多い。

そもそも「」とは、「あやしい」、「いつわる」、「不思議」、「あざむく」、「そむ」という意味を持つ。

だからか、詭道は、良くない意味で訳されることが多い。



しかし孫子は、戦争のことが書かれた書物だということを思い出してもらいたい。

だから、当たり前のことなのだが、「詭道」の相手は敵になるのだ。



・敵に対して「怪しい」動きをする。

・敵に対して動きを「偽る」。

・敵にとって「不思議」な動きをする。(不思議な踊りではないw)

・敵の予想を「欺く」。

・敵の期待に「叛く」。



「こう考えれば、『詭道』は、不正という意味とは程遠くなるだろ!?」

「本当ですね。」


こうよろずのに洗脳されていたことを、遥香は思い出していた。




――【孫子】――――――――――――――――――

戦争とは、人の考えの裏をかくことである。

――――――――――――――――――――――――


――【投資】――――――――――――――――――

投資とは、他の投資家と違った動きをすることである。

――――――――――――――――――――――――



投資は、戦争などと同じで、ハンデの無い五分五分の、対等の勝負の世界なのだ。

だから、孫子の言葉は、一字一句、見事に当て嵌まることになる。


「投資の世界では、2-8の原則通り、投資家の2割が儲けて、8割が損している。」


よろずのは、そう教えてくれた。



つまり、投資家の主流は、儲けられない人たちなのだ。

一時は儲けられるかもしれないが、最終的に大損して退場するのが、大多数の投資家の末路ということになる。

だから、多くの投資家と同じ動きをしていては、決して儲けられる投資家にはなれないことはうなずける。

多くの投資家と逆の動きをすることが正解なのだ。



『人の行く 裏に道あり 華の山』


この時の説明を、よろずのはこの一文で教えてくれた。



孫子では、孫子を理解している者が勝つと書かれている。

そし、孫子を理解している者同士なら、より理解している者が勝つとも書かれている。

孫子は戦う前に勝つことが基本だとし、情報戦が非常に重要な部分を占めるという考えに基づいている。

その情報戦では、いかに正確な情報を得るかと言うことと同時に、いかに正確な情報を与えないかと言うことが命題となる。

いかに正確な情報を得るかは、いかに敵に騙されないかとなる。

いかに正確な情報を与えないかは、いかに敵を騙せるかとなる。

こう言う意味で、『戦いとは敵の裏をかくこと』と言う理解になるのだ。



だから投資も、投資をより理解している者が儲けられる。

儲ける実力がある投資家の中では、より理解が深い投資家が儲けられるということだ。

投資は、仕込む前が重要であり、仕込むタイミングや銘柄の選定などが、儲けられるかどうかの大部分を占める。

この段階では、いかに正確な情報を手に入れ、いかに正確に分析できるかがカギとなる。

いかに正確な情報を手に入れるかは、世間やネットに溢れている無尽蔵な情報の中で、何が正しいのかを取捨することだ。

いかに正確に分析できるかは、取得した情報を色眼鏡なしに中立に分析するということだ。

世間や他の投資家の動きに欺かれず、逆に欺くようなつもりで動くことで、『他の投資家と違った動き』を心がけるのだ。



但し、他の投資家と違った動きであれば、何でも良いという訳ではない。

『人の行く 裏に道あり 華の山』には続きがあり、それは『いずれを行くも 散らぬ間に行け』となっている。

幾ら他の投資家と違った動きをしようとしても、花が散った後に、そこを通っても何の意味も無い。

それなら、他の投資家と同じ動きになっても、花が咲いている間に通った方がマシだ。

だから、『いずれを行くも 散らぬ間に行け』となるのだ。



「奇をてらう実力が無ければ、他の投資家と同じ動きになってしまう。それなら、相場が盛り上がってる間だけということになる。つまり、銘柄や投資法より、やっぱりタイミングが大事だってことになるんだよねぇ~~。」


なぜか自分で考え付いたことで、頭を抱えて悩む遥香だった。

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