第88話 計利以聴、乃為之勢、以佐其外。勢者因利而制権也

7つの条件をシッカリと守れば、自然と良い流れが生まれてくるとよろずのは教えてくれた。

勝負事は、何事も最初しょっぱなが肝心だ。

最初の勝負に勝てれば勢いが付くし、負ければその逆だ。

よろずのは、そのことをここの部分で教えてくれた。



――【孫子】――――――――――――――――――

将軍がよく理解してこの兵法どおりに兵を動かしてくれれば、その動きからは「勢」が生じて戦いを兵法外から助けてくれる。

勢とは、小さな勝利を重ねることにより、戦いの主導権を握ることである。

――――――――――――――――――――――――


――【投資】――――――――――――――――――

投資家がよく理解して投資法どおりに資金を動かしてくれれば、その動きからは「勢」が生じて投資を投資法外から助けてくれる。

勢とは、小さな儲けを重ねることにより、投資の主導権を握ることである。

――――――――――――――――――――――――



勢いを作るのに、儲けの多寡たかは余り関係ない。

関係あるのは、自分の意識だけだ。

例え、10円でも儲ければ勝ちは勝ちだ。

しかし、それを勝ちだと認めない投資家が圧倒的に多い。

やはり、1万円以上儲けないと勝ちにならないと自分を追い込もうとする。



それなのに、損失は10円でも損失と捉える。

そして、負けたと思い悩む。

いや、10円の損などというのは、誤差の範囲だ。

同値撤退できたのと同じだと思うべきなのだ。



つまりよろずのは、勝利を広く捉え、敗北を狭く捉えるように教えてくれた。


「失敗したって思ったら、良い気分にはならないだろ!?良い気分にならなくて、どうして良い『流れ』が生み出せるんだ!?」


そう教えてくれた時の軽く笑った顔が、なぜか印象的で、遥香の目には未だに焼き付いている。



またよろずのは、この『流れ』が生み出されれば、そう簡単には断ち切れないことも教えてくれた。



『流れ』と言うのは、普段の生活の中でも自然と生じるものだ。

普段の生活でも、『良い流れ』、『悪い流れ』みたいな発言をすることが良くある。

『勢』は、この『流れ』と同じものなのだ。

『流れ』が生じると、人はその『流れ』からは簡単には脱出出来ない。

何故なら、『流れ』と言うのは、因果関係の積み重なりだからだ。



Aを原因としてBと言う結果となった。

今度は、Bと言う結果を原因として、Cと言う結果になった。

今度は、Cと言う結果を原因として、Dと言う結果になった。

つまり、Dと言う結果は、Aと言う原因が起こった段階で、半ば発生が決定していることになる。



このことに気づいて、Aと言う原因が起こった段階で、Dと言う結果が起こらないようにしようと考える。

でも、因果関係にあるなら、そもそもAと言う原因が起これば、Bと言う結果になるのが自然なのだ。

その自然なものを歪めるのだから、簡単にはできない。

つまり『勢』は、自然な流れであり、それを途中で妨害しようとしても、そう簡単には出来ないのだ。




この時よろずのは、おみくじの話をしてくれた。



おみくじは、もともと戦勝祈願として引かれたものだ。

戦いの前は、将軍だけでなく、兵一人一人まで、本当に勝てるか不安になる。

だから将軍は、戦いの前におみくじを引いた。

それも、『大吉』が出るまで延々と・・・。



何度も引いたら意味ないじゃないかと、今の日本人なら思うだろう。

でも、それは間違った考え方だ。

おみくじを引いて『凶』が出た。

そこで終えたら、『凶』の人生を受け入れることになる。

受け入れたく無ければ、もう一度引けば良いのだ。

『大吉』が出るまで引き続ければ良いのだ。

そして、『大吉』が出たら、そこでおみくじを引くのを止める。

それが、その人生を受け入れると言う意思表示となる。



戦いの前に『大吉』が出るまで引くのは、その戦いが良い結果をもたらすことを、一兵卒にまで知らしめるためだ。

勝てるかどうか分からない不安は、戦いの中で大きくなる。

疑心の中で暗鬼が育つと言うヤツだ。

暗鬼が育てば、命がけで戦えなくなる。

不利と思えば、勝手に逃げたくなってしまう。

兵たちに逃げられれば、勝てる戦いも勝てなくなる。



「毎日、投資を始める前に、おみくじを引くんですか!?」

「まぁ、それも良いかもだけど、『私は出来る、私はスゴイ、私は儲かる』と大声で叫ぶんだね。」

「何ですか、それは!?」

「自己暗示だよ。これだけでも、流れを作るには十分な力を秘めている。」


そうよろずのは、本気ともつかない言い方をしていた。

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