第47話 弟子、再現性を知る

遥香が飲み込んだ言葉をよろずのは知らない。

だから、よろずのの説明は、どんどんどんどん突き進んで行く。

遥香の小さい懸念なんかは、ふっとばしながら・・・・。



「投資法を考える上で、重要になるのは再現性さいげんせいなんだよ。投資本を読むときには、これも頭に入れておいた方が良い。」

「再現性??」


よろずのが、急に話を飛ばした。



再現性とは、同一の特性が同一の手法により発現するとき、その結果の一致の近さのことを言う。

投資法は、相場の動きの中で再現性が高い事象を見つけ出し、成果に結びつけることだ。

つまり、投資法と呼べるものは、同一の条件の下で、同一の結果が期待できるものとなる。



「うーん、あたしには難しいですね。もうちょっと簡単にならないですか?」

「そうだな・・・。」


遥香に言われて、よろずのはちょっと考えてから、説明を再開した。



投資の世界では、主体的に相場を動かすことは出来ない。

動かせば、相場操縦と言われて、逮捕されることになるからだ。

だから投資家は、相場の動きを利用しながら、儲けを探すことになる。

相場で儲ける為には、将来の動きを予測して、その動きに合わせることが出来なければならない。

だが、将来などと言うものは、そう簡単には予測出来ない。

そこで、一定の条件の下で、将来の動きを予測出来るようにしようとする。

この一定の条件の下で同じように動くことを、再現性と言う。

そして、この条件の選択が、投資法となるのだ。



「なるほど。同じ動きになるような条件設定が投資法って言うんですね。」

「そう言うこと。だから、投資本を読むときは、この再現性を意識しながら考えたらいい。」

「分かりました。気にかけてみます。」

「それと注意することは・・・。」



投資法において、銘柄を選択する条件を厳しくすれば、該当銘柄が騰がる確率は高まる。

しかし、該当する銘柄数が、減ってしまう。

逆に条件を緩くすれば、該当する銘柄数は増える。

しかし、騰がる確率は低くなる。

つまり、数を増やせば確率が下がり、数を絞れば確率があがる。

投資法を選択するには、この点に留意する必要がある。

なかなか銘柄が見つからない投資法は、厭きてしまう。

上がらない銘柄が多く見つかる投資法は、使えないと見切ってしまう。

自分が飽きずに、見切らない投資法で無ければ、続けられない。



「確かにそうですね。続けられないと、棋譜きふが書けないですもんね。」

「そう言うこと。それとまだある。」

「まだあるんですか!?」


まだあると言われて、さすがに遥香は驚いた。



相場は、100%全く同じ流れになるなどと言うことは無い。

相場の流れの構成要件は、上がると下がるの2種類しかない。

しかし、その2種類による組み合わせは無限にある。

だから、流れが全く同じになると言うことは無いと考えるべきでなのだ。

あり得るのは、似た流れになると言うことだけだ。

だから、確率高く将来を見通せると言うことは出来ても、確実に見通すと言うことは出来ない。



「つまり、いくら極めても、必ず騰がるって言う銘柄は、見つけられないんですよね。ある程度の曖昧さが要るんですよね。」


遥香は確認の意味を込めて要約してみた。


「そう、初日に教えたことを、ちゃんと理解してるね。」

「はい、大丈夫です。」

「だから、予想外が発生することも、理解しないといけない。」

「予想外って??」

「失敗することだよ。騰がらずに下がるってことだよ。」



100%は、存在しない。

それなら、失敗することも、想定しなければならない。

想定すると言うことは、失敗した時の対処方法を確立することだ。



「そっかぁ~、だから4番目の条件があるんですね。」

「自分で組み立てられるようになったら、自分で条件を作れば良いんだけど、まだハルには無理だからね。ちゃんと書かれてある本を選ぶんだ方が良いんだ。」

「はい。」


よろずのが言うと、遥香は静かに頷いた。

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