第46話 弟子、自分に合うコンパスを探す

遥香は、前回教わったことを思い出していた。

道の無い平原で移動するには、何かしらの痕跡こんせきを探して、指標にすると言うことだった。

よろずのは、何も無い単なるチャートは、平原と同じだと言いたいのだろう。

その平原であるチャートを進む為には、投資法による痕跡が必要だと言わんとしていると理解した。


「痕跡と言う例えで納得出来なかったら、投資法はコンパスだと考えたら良いよ。」

「コンパスですか?」

「コンパス使って方角を確認して、行く方向を決めるって遊びしたことない?林間学校とかで。」

「あ、小学生の時にやりました。」


遥香は、オリエンテーリングのことを思い出しながら答えた。

今も、林間学校で見つけた文字の並びを覚えている。


「け・ん・こ・う・は・あ・し・か・ら」だった。



つまり、よろずのは平原であるチャートで、コンパスたる投資法を使って儲ける道を探せと言っているのだ。

チャートだけでは、何も分からない。

投資法だけでも、何も分からない。

チャートに投資法を当て嵌めて、初めて道が見えるのだ。



「だから、先ずは、自分に合ったコンパスを探さないといけない。投資の世界のコンパスは、千差万別、ありとあらゆる種類がある。その中から、自分にとって使いやすいものを選ばないといけない。分かるよね。」

「はい。でも、あたしに合ったコンパスって、今のあたしに見つけられるんですか?」

「まぁ、ムリだと思う。」


あっさりと、よろずのは言った。

余りにあっさりとよろずのが言うので、遥香は心の中で腰砕けになってしまった。


- ムリって、どう言うことよーーーっ!! -



「だから、無数にあるコンパスから選び易いように、今から言う条件に合致したものの中から選んで。」

「あ、はい。」

「ノート、ノート。」

「あ、はい。」


聞くことに真剣になっていた遥香に、よろずのは書き留めるように言った。



よろずのは、遥香が書き留める用意ができたのを見て、簡潔に言った。


 ① 日足チャートを使うもの

 ② 投資期間は1ヶ月程度のもの

 ③ 損切り投資

 ④ 撤退条件が明確になっているもの



遥香は、よろずのに言われた4つの条件を書き留めた。


「この4つの条件に合う投資法の中から探せば良いんですね。」

「そうだよ。」


遥香の確認に、よろずのが頷いた。


「具体的にどうやったら良いんですか?まとめサイトとかあるんですか?」

「無いよ。あっても、使い物にならんよ。」

「そうですか・・・。」


遥香は、ちょっと残念に思った。

でも、遥香自身も、多分無いだろうなとは思っていた。

ただ、もしかしたら、師匠だけは持っているのかもと、淡い期待もあった。

まぁ、淡いものだったので、無いと言われても気落ちはしなかった。



「投資法が書かれた投資本をひたすら読み続けることだね。最低でも100冊は読まないとね。」


よろずのが言う。


「100冊ですか??読んでみて、あたしに分かりますか?」

「三国時代の魏の学者だった董遇の言葉に、『読書どくしょ百遍ひゃっぺんおのずからあらわる』と言うのがある。」

「はぁ。」

「どんな難しい本でも、100回読んだら、意味が理解できるってこと。」

「100冊を100回もですか!?」


- 合計、1万回じゃん!!! -


遥香はそう思った。



驚きを込めて言う遥香に、よろずのは笑いで応じた。


「分からなければだよ、分かれば1回で十分だよ。」

「はぁ、そうですか・・・・。」


- それは師匠が特別だから直ぐに分かるんじゃないのかな -


と遥香は思ったが、さすがにその言葉は口にはできず、遥香はゴクンと飲み込んだ。


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