第43話 弟子、狩猟文化の特性を知る
家族が分かたれず集団で生活する。
後に、社会が広がり、他の家族との繋がりが出来て、巨大な集団となる。
この集団が国となる。
国では、それぞれがどの家族に所属しているのか分かるように明示する必要性が出てきて、家族毎に名前を付けた。
それが氏であり、氏に付けた序列が姓である。
因みに、日本の天皇家には、氏も、姓も、名字も無い。
これは、日本で氏を必要とする以前から最高統治者として君臨していた証であり、世界史上でも稀有なことである。
まぁ、この辺りは本編に関係ないので、余談はこれくらいにしておく。
「それに日本は島国でしょ。実は、弥生人が大陸から渡って来て以降は、他民族が集団で日本には来ていないんだ。」
「それはどういうことになるんですか?」
遥香が尋ねる。
「異民族との戦争をやってないってこと。つまり、民族間の戦争が発生してなくて、日本は平和だったってことなんだ。」
「平和ですか・・・。」
平和だったと言われても、遥香にはピンと来なかった。
異民族との戦争は無くも、同じ民族間での戦争はやっていただろうと思っていた。
だから、よろずのの説明だけでは理解できなかった。
「異民族との戦争が無くても、同じ民族間の戦争はありましたよね。」
「あったけど、リスクは段違いなんだ。」
「段違いですか!?」
初耳の遥香。
同族間の戦争は、敗れても皆殺しにされることは多くない。
食料を中心とした財産を奪われたりするだけだ。
しかし、異なる民族間の戦争は、そうではない。
良くて奴隷、悪くて虐殺。
自分たちの土地を奪われることもあり、奪われるとその先は餓死しかない。
だから、異民族との戦争は、格別にリスクが高いということになる。
「へぇ~、初めて知りました。」
「ま、その辺りは教わらないからね。だから、理解が届かないのも仕方ないんだ。でも、現実はそうだったから、今から言うこともしっかり理解してね。」
感心した遥香に、よろずのは笑いながら言った。
農耕での食料は安定している。
異民族との戦争も無い。
すると、弥生人たちには、日々恐れるものが無いと言うことになる。
日々、恐れるものが無いと、手に負えないものを恐れるようになる。
それは天災や天候不順で、コメが収穫出来なくなることだ。
しかし、今の時代でさえ、地震や水害を防ぐことは出来ない。
弥生人にしたら、どう頑張っても無理な話だろう。
だから彼らは、自然を神として祭り、天災を神のお告げとして、甘んじて受け入れると言う考えに行き着いた。
こんな環境では、リスクマネジメントは育たない。
あるのは、安全か、危険か、の二者択一になる。
「つまり、日本人の生活では、リスクを意識する必要が無かったからリスクの考えが失われたと言うことなんですね。」
「そう。意識したところで、天災は圧倒的な力で生活を蹂躙する訳でしょ。リスクマネジメントしても、弥生人からしたら焼け石に水。」
「そうですね。予測も出来ないし、対策も出来ないし、出来るのは逃げることだけですもんね。」
遥香は納得する。
農耕生活に対して、狩猟生活は不安定だ。
獲物は、捕れたり捕れなかったりする。
また、移動することから、異民族と出くわして、戦争になる可能性も高い。
つまり、日々、判断の連続になる。
生き抜きたければ判断が必要で、その相手は、天災のように圧倒的な力を持っている訳では無い。
左右どちらに進むかも判断になり、それによって命を失うことになることもあっただろう。
だから、日々の判断を自分たちに有利にする為に、リスクマネジメントが発達した。
言い換えれば、リスクマネジメントが発達した家族とその子孫が生き残ったと理解しても良い。
「なるほど。リスクマネジメントは、狩猟民族の文化なんですね。」
「そうだよ。欧米人は狩猟民族の末裔だから、リスクマネジメントの考えが文化の中に残ってたんだ。」
遥香は説明されたことを頭の中で整理した。
そして、自分ながらの理解に至った。
「それともう一つ。日本人は無宗教だといわれるでしょ。宗教は、リスクマネジメントの一つだから、リスクマネジメントが不要な日本人には、宗教も不要なんだよ。」
「あ、そこに通じるんですか!?」
言われて納得した遥香だった。
まさか、日本人の無宗教に、そう言う原因があるとは、想像もしていなかった。
「それじゃ、もう一つの方、学校の教え方の方はどうなるんですか?」
「それは、今の話の中で予想が付かない?」
「えっ、予想ですか??」
よろずのに言われて、遥香は考え込んだ。
予想と言われても・・・・何も思いつかない。
暫くよろずのは待ったが、遥香からの回答は無さそうなので、ゆっくりと説明を始めた。
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