第42話 弟子、古代日本を知る

手にしていたカップをテーブルに置いて、よろずのはゆっくりと話し出した。


「ハルは、日本史も世界史も大丈夫だよね。」

「はぁ、一応、受験レベルまでなら。」

「じゃ問題ないね。」

「いえ、師匠の望む水準に達しているかは、自信無いです。」


よろずのの基準が分からないので、遥香は焦って訂正した。



「じゃ、質問。日本の古代史で習うのは、縄文時代と弥生時代だけど、どういう違いがあるか知ってる?」

「土器が違います。」

「他は?」

「打製石器と磨製石器。」

「他は?」

「狩猟と農耕。」


こう遥香が答えると、よろずのは満足したような顔をして、次の質問を出した。



「じゃ、縄文人と弥生人の違いは?」

「違いって??」

「縄文人の文化が進んで弥生人になったと思っている?」

「はい。」


よろずのが質問したのは、遥香の知識の確認の為だった。

その確認が終わると徐ろに説明を始めた。



縄文人は南方から移住して来た狩猟民族で、弥生人は大陸から移住して来た農耕民族だ。

縄文人が住んでいた日本列島を、後からやって来た弥生人が奪ったと言う見方が正しい。

縄文人は、弥生人に追われ、日本列島の南北に追いやられた。

北に追いやられた縄文人がアイヌの先祖であり、南に追いやられた縄文人が熊襲くまそ隼人はやとの先祖だと考えれば良い。

南に追いやられた縄文人は、早い段階で討伐されたり、同化したりしたから、アイヌのように別の民族として残ってない。



「聞いたこと無いかな?縄文人は彫りが深くて毛深いけど、弥生人はのっぺり顔で毛が少ないって。」


よろずのが言う。


「それは、聞いたことあります。あたし九州出身だから、結構、毛深い子いたんですよ。あ、だから、縄文人と弥生人が別人なんですね。あたしはてっきり、気候とか食べ物の影響で進化したと思ってました。」


よろずのの説明に、遥香は思い出すように言った。


「そんな短期間で進化はできないよ。」

「ですよね。」


思い込み違いを指摘され、遥香は笑って答えた。

確かに冷静に考えたら、そんな急激な進化は無いなと思った。



そして、どうしてそんな思い込みをしていたのか、それを考えたら余計に笑けてきた。


「教科書では熊襲とか隼人が反乱したとなっているけど、現実は同化することを好まない異民族討伐だったんだろうとオレは思っている。こっちの方が自然だから。」

「その討伐と言う話は教わりました。南九州は、大和朝廷に従ってなかったから、討伐されたって。」

「だから、日本は農耕文化一色の国になったんだ。我々日本人には、農耕民族としてのDNAが、2000年以上の長きに渡って、刻み込まれているんだ。」

「そうですね。」

「因みに、狩猟文化から、農耕文化にどうして変わったと教わった?」

「狩猟生活は獲物が捕れたり捕れなかったりして不安定なんですよね。それに対して農耕生活は安定してるんですよね。」


遥香が答えた。



狩猟と言うのは、余り集団では行われない。

日本人のイメージとしては、『ギャート〇ズ』の影響で、集団でマンモスを狩ると言うのが強いが、事実はそうではない。

ほぼ家族単位で移動し、大きな獲物ではなく、家族が食べられる程度の獲物を狙う。

これは、保存技術が確立していない時代に、食べ切れない獲物は取る必要がないからだ。

また、集団で生活しないのは、マンモスのような巨大な獲物が絶えず存在していた訳では無い為、集団を養って行けなかった。

だから、家族単位で獲物を求めて流離う。

つまり、家長の判断が、家族の命運を握っていると言うのが、狩猟文化となる。



これに対して、農耕は、集団で行われる。

灌漑など、個人では作り切れず集団で作った方が良い。

また、灌漑を個人だけで利用するにはもったいない。

だから、必然的に集団となる。

つまり、家長と言う小さい単位ではなく、集団のリーダーの判断が、集団全体の命運を握っていると言うのが、農耕文化となる。



「なるほど。でも、農耕の場合は、どうやって他の家族を、集団に勧誘したんですか?」

「別に勧誘なんかしないよ。狩猟だったら、家族の人数が増えて食べて行けなくなったら、家族を割って、それぞれ別家族になったんだ。狩猟でも食べて行けたら、無理に家族を割ったりしないよ。」

「そっか。農耕は、家族を割らなかったから、集団に育ったってことなんですね。」


やはり遥香は理解が早かった。

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