第37話 弟子、平原のたとえ話を知る
遥香の予想した不安は正解だ。
自分で動くとなると基準が要る。
基準が無いと、何も判断できないことを今の日本人は知るべきだ。
例えば、北に進めと言われても、北が分からなければ進めない。
北に動いても、進んでいるかどうかは、最初に居た場所と言う基準があるから進んだと判断できる。
最初に居た場所を見失えば、そもそもちゃんと北に向かっているのか、ちゃんと進んでいるのかさえ、分からなくなるものなのだ。
「そう。だから相場でも明確な基準が要るんだ。」
「そうですね。」
頷く遥香。
「その基準が、投資法だと思えばいいんだ。投資法という基準を利用して、儲けを探すのが投資だと考えるべきなんだ。」
「投資法が基準って???」
誰もが投資法と聞けば、儲ける方法と理解する。
しかし、その理解が合っているなら、みんなが儲かっていて当たり前のはずだ。
しかし実際は、大部分の投資家は儲けていない。
これは世に言う投資法は儲ける方法になっていないからだ。
それなら投資法はどういうものか?
よろずのが考えた末に行き着いた先が、儲ける為の基準だと言うことだった。
基準だから、その通りにやったからと言って必ずしも儲かる訳では無い。
ただ、それを上手く利用することにより、儲けることが出来る。
上手く利用すると言うのは、平原にある人の痕跡がどういうものか、正確に判別させることだ。
その痕跡は、街と街を渡り歩く行商人の痕跡かもしれない。
街とは関係ない原住民の痕跡かもしれない。
単なる旅行者の痕跡かもしれない。
自分と同じように、さまよっている人の痕跡かもしれない。
つまり人の痕跡でも、全てが自分にとって意味あるものではないと言うことになる。
その痕跡の中で、自分にとって意味あるものを見つける。
そして、それを有効に活用する。
こうして初めて、上手く利用したと言えるのだ。
「まずは、それを見分けるだけの知識を得ないとダメだね。知識が無いと、そもそも判断が出来ないからね。」
「はい。」
「そして探す方法も。」
「そうですね。」
「そして利用する方法も。」
「そうなると、投資法を利用する為には、そう言う知識を先に身に付けてないと使いこなせないと言うことなんですか??」
「良いところに気づいた。その通りだよ。」
「えーっ、そんなこと萬野くんから聞いてないし、書いてある本も見たこと無いよ。」
急に横から結衣が口を挟む。
「課長には、何度も言ってるでしょ。投資法を使う前にやらないといけないことがあるって!!」
「あ、言われてた。」
結衣は、思い出したように言った。
自分が使う投資法を決めれば、必要となる前提の知識は限られる。
だから結衣には、具体的な投資法と一緒に、知識も教えた。
優待イベント投資で、権利月によって撤退するタイミングが異なると言うのは、その必要とする知識の一つだ。
普通に請われれば、よろずのはこのように教える。
ところが、遥香はまだ18歳。
実際に投資を始めるまでは、まだ2年ある。
2年あるなら、先にその知識を教え込んでみようとよろずのは思った。
だから、結衣にすれば、自分に対する教え方と違うと思ったのだ。
「あたしは2年間で、みっちり教えて貰えるって事ですね。」
遥香が笑顔で言う。
よろずのは『しまった!』と思った。
今の、言い方なら、2年間教え続けると言ったようなものだと気づいたからだ。
半年くらいで終えようと思っていたよろずのにとっては、明らかな大失言だった。
それでも、半年で教え切ったら良いだけだと、よろずのは考えを変えることにした。
2年間も、大事な時間を取られたくないというのが、よろずのの今の思いなのだ。
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